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#スポーツ
眠野ねつき無断転載とか❌
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3話 夏合宿
それからの日々は、あっという間だった。
学校。
トレーニング。
ローラースキー。
測定会でできた友達との連絡。
毎日が新しくて、楽しくて。
気づけば、夏休みになっていた。
そして。
気づけばもう、夏合宿の前日。
⸻
「お父さん……」
夜。
布団にくるまった宴が、不安そうに顔を出す。
「緊張で寝れないかも……」
隣に座っていた冬夜は、小さく笑いながら宴の背中をゆっくり摩った。
「深呼吸して、目を瞑れば大丈夫だよ」
低くて落ち着く声。
宴は少し安心したように頷く。
「わかった。ありがとう。やってみるね」
「おう」
部屋の電気が消える。
静かな夜。
宴は目を閉じた。
——明日、楽しみだな。
そう思いながら。
⸻
そして、当日——。
「……寝れなかった」
目の下にうっすらクマを作った宴が、車の助手席でぼそっと呟いた。
冬夜は吹き出した。
「だろうな」
⸻
役員でもある冬夜は、かなり早い時間に尾瀬の駐車場へ到着していた。
だが。
「……すご」
宴は目を丸くする。
朝早いはずなのに、駐車場にはすでにハイエースやワゴン車が大量に並んでいた。
草津。
川場。
水上。
片品。
いろんなスキークラブのステッカーが見える。
宴は尾瀬へ来るのが初めてだった。
山の空気。
朝露の匂い。
大きな空。
全部が新鮮で、ワクワクした。
「山おっきい……!」
宴が目を輝かせる。
すると。
後ろから、ひょいっと手が伸びてきた。
「だーれだ!」
「ひゃっ!?」
急に目を隠され、宴が飛び跳ねる。
でもすぐに気づいた。
「あ……ゆ、優香ちゃん?」
手が離れる。
「せいかーい!」
神崎優香が、にかっと笑った。
「おはよう!宴ちゃん!」
「お、おはよう!」
宴も少し笑う。
その様子を見ていた冬夜の隣で、草津スキークラブのコーチが笑った。
「すっかり仲良くなったな、宴ちゃん!」
冬夜はなぜか目を潤ませていた。
「良かったぁ……うたちゃん……友達できてぇ……」
「え、お前泣いてんの?」
草津クラブのコーチはドン引きした。
冬夜は涙を拭きながら振り向く。
「……お前誰だっけ」
「嘘だろ」
男は真顔になった。
「アキラだよアキラ!明!」
冬夜は数秒考えたあと、
「あー……」
「お前ほんと記憶力無いの変わんねぇな!?」
明は呆れながら頭を抱えた。
宴と優香は思わず吹き出した。
⸻
そして、時間になり夏合宿が始まった。
鳩待峠。
選手たちは整列し、集合写真を撮る。
「もっと寄れー!」
「後ろ見えねぇぞー!」
コーチたちの声が飛ぶ。
宴は優香の隣へ並んだ。
「宴ちゃん、こっち!」
「わっ、う、うん!」
パシャッ。
夏の青空の下、笑顔が並んだ。
⸻
そこから山ノ鼻へ向かって歩き始める。
木漏れ日。
川の音。
湿った土の匂い。
「尾瀬ってすご……」
宴はきょろきょろしながら歩く。
優香が笑った。
「宴ちゃん、完全に観光客じゃんw」
「だ、だって初めてなんだもん!」
途中、色んな選手が話しかけてきた。
「宴ちゃんローラー速かったよね!」
「身長何センチあるの!?」
宴は最初こそ緊張していたが、少しずつ笑えるようになっていた。
⸻
山ノ鼻へ到着すると、みんな芝生へ座り込む。
「腹減った〜!」
お昼だった。
愛花の作ったお弁当を開ける。
卵焼き。
唐揚げ。
タコさんウインナー。
「うわ、美味そう!」
優香が目を輝かせる。
宴は少し誇らしそうだった。
「お母さん、料理すごい上手なの」
⸻
昼食後。
いよいよ至仏山へ向かう。
ここからが本番だった。
「うわっ……急……!」
斜面がきつい。
岩も多い。
選手たちの息が上がり始める。
「はぁ……っ!」
「まだ……あるの!?」
だが宴は意外と平気そうだった。
ローラーやランニングのおかげか、足取りが軽い。
優香も元気だった。
「宴ちゃん速っ!」
ちょこちょこ休憩を挟みながら登っていく。
その後ろでは——
「む、無理だ……」
明が死にかけていた。
冬夜が後ろから引っ張る。
「お前、自分のチームの子を見習え」
「特に優香ちゃんをな」
明は息切れしながら叫ぶ。
「お前は怪我して引退したのに、なんでそんな体力あんだよ……!」
冬夜は軽くゲンコツした。
「うるせぇ」
⸻
そして。
ついに頂上へ到着した。
「ついたぁーー!!」
歓声が上がる。
だが。
宴以外、ほぼ全員倒れていた。
「し、死ぬ……」
「脚終わった……」
優香も地面へ倒れ込む。
「むりぃ……」
だが数分後。
「復活!!」
「早っ!?」
宴がびっくりする。
その頃。
遅れて、冬夜と明が頂上へ姿を現した。
真顔の冬夜。
その横で、冬夜に寄りかかるへとへとの明。
選手たちは大爆笑だった。
「明コーチやばwww」
「顔死んでるwww」
明はその場に崩れ落ちた。
「……誰か、水……」
「お前、一回の休憩で水分取り過ぎなんだよ」
そう言って冬夜は明にペットボトルを投げた
⸻
その後。
冬夜は愛花の作ってくれたお弁当を広げ、宴の写真を撮っていた。
「うたちゃん、こっち向いて」
パシャッ。
その瞬間。
冬夜がふっと笑った。
優しい笑顔だった。
それを見ていた女子選手たちがざわつく。
「え、冬夜さんってあんな顔するんだ」
「めっちゃイケメンじゃない?」
「現役の時めっちゃ怖かったのに……」
宴は首を傾げる。
「お父さん優しいよ?」
すると優香たちが一斉に言った。
「たぶん宴ちゃんだけだから!!」
⸻
十一時。
下山開始。
帰り道はかなり賑やかだった。
歌を歌ったり。
恋バナしたり。
「優香ちゃん好きな人いるの?」
「え!?急だな!?」
山道なのに修学旅行みたいだった。
⸻
そして午後三時。
ようやくゴール。
「つ、つかれたぁ……」
選手たちはへろへろだった。
だが休みはない。
そこからバスで体育館へ向かい、さらにトレーニング。
「まだやるの!?」
悲鳴が響く。
一時間後。
全員限界だった。
⸻
その後は川遊びとアイシング。
冷たい水に足を入れながら笑い合う。
夏の夕方。
山の空気が気持ちいい。
⸻
午後五時。
宿へ到着。
だが宴は限界だった。
「……すぅ……」
冬夜の背中で寝ていた。
優香たちが部屋を案内する。
「宴ちゃんこっちの部屋だよー!」
冬夜は静かに宴を布団へ寝かせた。
「おやすみ、うたちゃん」
そのままコーチ部屋へ戻っていく。
それを見ていた女子たちがざわついた。
「冬夜さんって現役時代、めっちゃクールで怖かったのに……」
「今すごいイケメンなお父さんって感じだよね」
「わかる〜!」
「かっこいい……」
すると。
「……ん」
宴が目を覚ました。
優香が笑う。
「みんなで冬夜さんかっこいいよね〜って話してたの!」
「えっ!?」
宴はびっくりする。
「お父さんが!?」
その反応に、みんな吹き出した。
⸻
夜ご飯を食べ終えたあと、女子たちはみんなで大浴場へ向かった。
「広っ!」
宴は目を輝かせる。
湯気がふわふわ漂い、大きなお風呂がきらきらしていた。
「宴ちゃん、こっちこっち!」
優香に呼ばれ、宴も慌てて服を脱ぐ。
その瞬間だった。
「……え」
誰かの声が止まる。
宴の腕。
背中。
足。
白い肌には、うっすらと傷跡が残っていた。
切り傷の跡。
痣の跡。
時間が経って薄くなっていても、消えきってはいない。
空気が静かになる。
宴は一瞬びくっと肩を揺らした。
しまった。
そう思った。
すると優香が小さく聞く。
「……宴ちゃん、その傷……」
宴は少し迷ってから、小さく笑った。
「昔の傷だよ」
みんなが真剣な顔になる。
宴はお湯に肩まで浸かりながら、ぽつりぽつりと話し始めた。
「私ね、元々孤児院にいたの」
「えっ……」
何人かが目を丸くする。
宴は少しだけ困ったように笑った。
「小さい頃、何回も家族に捨てられてて……」
「孤児院でも、ちょっと色々あって」
お湯の中で、自分の腕をぎゅっと握る。
でも。
昔みたいに震えてはいなかった。
「その時の傷跡、まだ残ってるんだ」
誰もふざけなかった。
誰も茶化さなかった。
静かに、宴の話を聞いていた。
優香がそっと言う。
「……だから夏でも長袖着てたんだ」
宴は頷く。
「うん。傷跡見えないようにしたくて」
「包帯巻いたりもしてる」
「水着とかもちょっと苦手で……」
すると一人の女子が小さく言った。
「宴ちゃん……大変だったんだね」
その声は、すごく優しかった。
宴は少し目を丸くして、それから笑った。
「あー、でもね!」
みんなが顔を上げる。
宴はへにゃっと笑った。
「今はすっごい楽しいよ!」
「孤児院の頃より、生きやすいし!」
「お父さんもお母さんも優しいし、スキーも楽しいし!」
その笑顔は、本当に明るかった。
無理してる笑顔じゃない。
ちゃんと幸せを知った子の笑顔だった。
優香が少し泣きそうな顔になる。
「……宴ちゃん強いね」
「え!?」
宴は慌てた。
「ち、違うよ!?全然そんなこと——」
「強いよ」
誰かが言った。
「めっちゃ強い」
その言葉に、宴は少しだけ照れくさそうに笑った。
⸻
お風呂から上がったあとは、みんなでロビーへ集まった。
ジュースを飲みながら、気づけば女子だけの恋バナ大会が始まる。
「好きな人いる?」
「えー!!」
「優香ちゃん絶対いるでしょ!」
「なんでだよ!?」
笑い声が響く。
宴も最初は聞いているだけだったが、気づけばみんなと一緒に笑っていた。
まるで、本当の友達みたいに。
⸻
そして、就寝時間。
電気が消えたあと、一人の子が小声で言った。
「ねぇねぇ……この宿、幽霊出るらしいよ」
「……え?」
空気が変わる。
「なにそれ怖っ」
そこから怪談大会が始まった。
「この廊下、夜に足音するんだって……」
「やめてぇぇ!!」
女子部屋は深夜まで騒がしかった。
そして宴は——
怖すぎて、ほぼ寝れなかった。
夏合宿二日目。
朝六時。
宿の廊下には、眠そうな選手たちがぞろぞろ歩いていた。
「……ねむい……」
宴は半分閉じた目でふらふら歩く。
昨日の怪談話のせいで、ほとんど眠れなかったのだ。
隣では優香もあくびしている。
「宴ちゃん、顔死んでるw」
「優香ちゃんもだよぉ……」
その瞬間。
廊下の奥から、誰かの声が響いた。
「やばっ、朝ごはんあと五分だぞ!」
「「えっ!?」」
宴と優香は同時に固まった。
次の瞬間。
「急げぇぇ!!」
二人で廊下を猛ダッシュした。
⸻
曲がり角。
その時だった。
ドンッ——。
「わっ!?」
宴の肩が誰かにぶつかる。
勢いで後ろによろけた。
「す、す、すみません!!」
宴は慌てて頭を下げる。
「だ、大丈夫ですか!?」
相手は少し驚いた顔をしたあと、落ち着いた声で言った。
「ああ、大丈夫だ」
背が高い。
黒髪。
すらっとした体。
眠そうなのに、どこか鋭い目。
「少し焦ってな」
その顔を見た瞬間。
宴は凍りついた。
——え。
——うそ。
一ノ瀬蒼空。
去年の全中で、中一ながら総合四位を取った天才選手。
しかも。
昨日の夜、女子部屋でずっと話題になっていた。
『一ノ瀬蒼空来てるらしいよ!』
『え!まじ!?』
『めっちゃイケメンだよね!』
『まじそれな!!』
その本人が、目の前にいた。
宴の脳が停止する。
「…………」
固まる宴。
すると蒼空が不思議そうに顔を覗き込んだ。
「……ねえ、きみ?」
「っ!?」
「どうした?」
蒼空は少し困ったように笑う。
「早くしないと朝ごはん遅れるよ」
その瞬間。
宴はハッと我に返った。
「え、あっ!!」
「やばっ!!」
そして。
二人同時に廊下を走り出した。
「うわ、ごめん!」
「こっちの廊下空いてます!」
「そっち行こう!」
宿の中を猛ダッシュ。
階段を駆け降り。
ギリギリで食堂へ飛び込む。
「せ、セーフ……!!」
宴は肩で息をした。
すると。
「……え?」
優香たちが固まっていた。
「なんで宴ちゃん、一ノ瀬蒼空と一緒にいるの!?!?」
3話 夏合宿 終
コメント
1件
第3話、一気に読みました!夏合宿の空気感がすごく鮮やかで、自分も一緒に尾瀬を歩いてる気分になりました。宴ちゃんが傷跡をさらけ出してもみんなが優しく受け止めてくれるシーン、じんわりきましたね…“今はすっごい楽しい”って笑う宴ちゃんの強さに胸が熱くなりました。そして最後の一ノ瀬蒼空くん登場!イケメン天才選手との出会い、これはもう…今後の展開が気になりすぎます!