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切なく歌い上げた彼の声が心に突き刺さる。
白斗の歌は輝いていて、いつでも私の心を揺さぶり照らしてくれる。
どんな時でも、どんな歌でも。
私はこんな風に歌って自分の歌を、曲を、誰かの心に届けたかった。でも才能が無く叶わなかった。
だから光貴には『そういう側』の人間になって欲しいと常に願っていたのだ。傷ついた人を光貴のギターや音楽の力で癒せるような、すごい人になって欲しい、と。
私が光貴の足枷になったことをとても後悔していたのは、その気持ちが強かったからだと、白斗の歌を聴いてはっきりと悟った。
アーティストになれる人間は限られている。
その限られた人の中に選ばれたのなら、どんな困難な道があろうとも突き進むべき使命がある。
それをやり遂げた時、どんな傷でも癒される素晴らしい曲が出来上がるに違いない。
たとえ傷が塞がらなくても、少しずつ痛みは薄れてくる。絶望を救うひとつの星になれる。
光貴には輝いていて欲しい。
その素晴らしいギターで、大勢の人を魅了して勇気づけて欲しい。
そんな心を震わせる曲を光貴に創って欲しい――私はそう願っている。
正直言って迷っていた。ここまで来てもまだ光貴に寄りすがろうとしていた。泣きついて取り乱して光貴をここに呼びつけ、詩音と共に彼の人生も駄目にしてしまいそうになっている自分がいた。
覚悟を決めよう。
光貴には頼らない。
自分で表現できないから、それを生み出す人を応援したいと心から思う。
託したい。溢れ出す音を、その繊細なギターで奏で続けて欲しい。
それが私の心からの願い。
私の命に懸けてでも光貴のデビューライブが無事に終わるまでは、詩音のことは絶対に黙っていようと決心した。
白斗が作った歌、『白い華』。私はこの歌に救われた。
たったいちど聴いただけでも心に刺さる。白斗は本当に天才だ。
そんな彼はRBを解散してから全く表舞台には出ない。どうしてマイクを置いて姿を消してしまったのだろう。彼は今、この広い世の中でいったい誰と過ごし、誰を想って生きているのだろう。
孤独が似合う男性だから、一人きりでいるのかもしれない。
今もなお、私は彼の歌に救われている。
瞳を閉じると、目じりから溢れた涙が零れ落ちてお腹の上に落ちた。
その時だ。じわじわとお腹から広がる痛みが、私の身体を浸食しはじめた。鈍かった痛みが激痛に変わるのは時間の問題だった。
「ううっ……!」
「律さん! どうしました、律さん!?」
「きゅ、急にお腹が………」
意識を保つのにせいいっぱいで、激しく迫りくる腹痛に耐えるのに必死だった。
「大丈夫ですかっ! しっかりして下さい!!」
新藤さんが端正な顔を歪めて叫んでいる。あ、だめだ、意識が………。
必死に叫ぶ新藤さんの声も遠くなっていく。
誰かが叫ぶ声が聞こえてくるけれど、どうなっているのか認識できない。
私、死ぬの?
それでもいいかなと思ったとき、白い華のピアノの調べが私の頭に流れてくる。美しい旋律だ。
どれくらい流れていたのかわからない。
真っ白な海をずっと漂って、彷徨って、ゆらゆらとして吹けば消えてしまいそうな、儚い線香花火のように。
意識を引っ張られ、すっと消えてしまいそうになった時、聞こえたのは白い華のメロディー。
死ぬな、と、私の意識を引き戻してくれたのは――……