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待機室のライトが点いた。
Wave開始まで、あと1分。
恒は、ギアを装着しながら、昨日のことを思い出していた。
「こどもって……」と口ごもった自分。
「身が持たないんよ!?」とツッコまれたひろの声。
——思い出すだけで、顔が熱くなる。
でも、ひろは何も言ってこない。
いつも通りにブキを確認している。
恒は、ペットボトルを手に取りながら、ちらりとひろを見る。
ひろは、静かにギアを締めていた。
目が合うと、少しだけ口元がゆるんだ。
恒は、ペットボトルをちゅっと吸ってから、ぽつりと口を開いた。
「……俺、あんなふうに照れたの、久しぶりだった。」
ひろは、手を止めずに答える。
「ふにゃふにゃしてたしね。」
「……それ、まだ言う?」
「事実だから。」
恒は、顔をそむけながらギアを締め直す。
耳が、また赤くなっていた。
「でも、ひろが“守りたい”って言ったの、
俺、ちょっと嬉しかった。」
ひろは、少しだけ手を止めた。
その言葉が、昨日の自分の感情を静かに呼び戻す。
「……そっか。」
そして、少しだけ間を置いてから言った。
「じゃあ、次に僕がふにゃふにゃになった時、よろしく。」
恒は、びくっとしてひろを見る。
「え、ひろがふにゃふにゃになることある?」
「あるよ。見せてないだけ。」
恒は、ペットボトルを抱えたまま、少しだけ引き気味に言った。
「……いや、ふにゃふにゃになったひろなんて、想像できない。
なんか、怖い。」
ひろは、ブキを拭きながら肩をすくめる。
「怖がるな。そういう時こそ“守る”ってやつでしょ。」
恒は、ペットボトルを持ち直して、少しだけ笑った。
「……じゃあ、ちゃんと守る。たぶん。」
ひろは、何も言わずにギアを整えた。
でも、口元が少しだけゆるんでいた。
Wave開始のカウントが始まる。
ふたりは、自然に並んで立つ。
ひろは、恒の左側に立ちながら、静かに思った。
——昨日の照れも、今日の静けさも、
どっちもこの人なんだな。
今日もバイトだ。