テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
3章:ポポハスの青
29話:否定。
朝日秀蘭
→痛覚 創造を具現化する能力
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
〈注意〉
3章では暴力表現を扱うのシーンがあります。原作より柔らかい表現にし、注意喚起をするのでセンシティブ設定を付けていませんが、苦手な方はお気をつけ下さい。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ー牢部屋・鉱山内部ー ー秀蘭sideー
「固執…?」
自分でも気づいていない部分だったのか、不思議そうに復唱してその言葉を確かめる。でも双斗は、その驚きをコントロールするように表情を瞬時に戻す。
「…固執なんてしていない。俺はただの…、ただの気まぐれでお前を助けただけだから、外に出そうとしなくていいって言ったんだ。」
「違う。私は同情とかで誘ってない。だから」
「だから、俺はここにいないとダメなんだって言ってるんだよ!」
今度は目にぎゅっと力を込めて双斗は言った。
…ここにいないと…………って?
「どういうこと……?」
ハッとして頭を上げた双斗は、怯えながらも私を見つめた。少し考えた後深く息を吸い、そっぽを向きながらゆっくりと語りだした。___
___俺はいらない子だった。
物心ついたときには親はいなくて、点々としているこの大陸の村を移動してはスラムで腹を満たした。忌子の俺は誰にも見られず、気にも留まらず、ただ邪魔な存在として避けられた。
…そんななか、六つか…七つくらいのときある男に捕まって、労働力として機織りをさせられた。同時に言葉なども学んだけど…上手くできないと耳を切られそうにもなった。「この耳か!?この悪魔の耳が悪いのか!?」って。
神も悪魔もいるわけないじゃん。いたらなんで…俺を救ってくれないんだよ。生き地獄だった。いつのまにか浮遊魔法が使えるようになってるくらい、逃げ出したかった。そんな五年間だった。
数年前、ある女が俺を買った。
「私…ものすごく貴方に会いたかった。ねぇ、どうです?私の元で働きませんか?」
丁寧な物言いで、声の裏から伝わる強者感、圧力…。何より、人が言って欲しい言葉を探らずに自然と溢す器用さ。 …それがメイさ。
俺は生まれて初めて自分に会いたがってる人間を見たんだ。必要とされてるって。だからここで働かなくてはいけない。…たとえ、この身がゼロ化で残らなくなったとしても。
「それが俺に与えられた設定だから。」
双斗は過去を話すと同時にここにいる理由を説明した。それはまるでシュウや夏希の憧れや悔いと同じ呪いのように感じられる。
「…じゃあ、双斗はどうして本音と発する言葉を逆にするの…?」
「…!?」
私は話を聞いてるなかで、一緒に行動して違和感を感じたことを声に出した。特に感じた異質さは、 生き残ることを考えろって言った彼の目が誰よりも諦めた目だったこと。光さえも飲み込むような暗黒の瞳。
「本当はここから…」
私が言いかけたところで双斗は私の口を両手で押さえつけた。怒りや恨みはなく、ただ小刻みに震えているだけ。
「……怖いんだ。どれだけ痛いことをされても、唯一俺を見てくれたボスを裏切るような形になってしまうのが…。」
(…。)
「外に出たら俺はまた…、また…!!」
そして何かが床に垂れる。…双斗は泣いていた。…けど、私たちの旅に双斗だって来て欲しい。感生の子っていうのもあるけど…本当は双斗だって…。
…変わりたいんじゃないのかな。
「…なら、私があなたを否定する。」
「え、…?」
「双斗はいらない子なんかじゃない。」
…彼は戸惑い、驚き、不安、期待など様々な感情を一度に味わったような顔をしていた。
…少しかっこつけすぎたかな…。
「…っ。」
すると彼は周りを注意深く確認し、ボソボソと話し始めた。でもその顔は、覚悟や決意といった色が追加されていた。
「…次の月…?うん、あとは?」
ねぇ、誰と話してるの?と声をかけようとした瞬間__
「シッ。今、この子と話してる。」
とまた私の唇に手を当てて口封じされる。もう片方が指差した先には檻の中をパタパタと飛ぶ蛾がいた。
「…うん。もう少し詳しくお願いね…。じゃあいってらっしゃい、よろしくね。」
と言うと蛾は檻から出ていった。双斗はお前の疑問に答えるよって目で合図してくる。
「…蛾とお話しできるの?」
「蛾…あの子だけじゃないよ。他の虫も、動物も、別の国言葉だって俺には聞こえる。正直うるさいけど…今はこの能力を、秀蘭に使いたいんだ。」
そうして双斗はただの少年のようにニカッと歯を見せて笑いながら言い直す。
「この、全通訳能力を。」
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!