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藤白りいな…お転婆で学校のマドンナ。天然で、先輩や後輩など学校のほぼすべての人が名前を知ってる。
はるきと付き合ってる。海と仲が良いが、最近結構意識してる
天童はるき…ツンデレの神。りいなのことが大好きだが、軽く、好きなど言えない。嫉妬深い。
男子と仲のいいりいなが誰かにとられないかと心配してる。海に嫉妬中!
佐藤海(かい)…りいなのことが昔から好き。りいなと好きなど軽く言い合える仲。
結構チャラめ(?)デートなどはゲームだと思ってる
月下すず…美人だがなぜかモテない。はるきと海の幼馴染。りいなのことは好きだが、嫉妬中(?)
はるきと海のことが気になってるが、どちらかというとはるきのほうが好きらしい(?)
りいなと海
夜の公園。 誰もいないブランコに、りいなは静かに腰をかけていた。風が髪を揺らし、遠くで鈴のような虫の声。
そこに、かいが早足で近づいてくる。 瞳の奥に、焦燥と決意が混ざっていた。
「はるき……気づいたね。屋上のことも、あのLINEも」
りいなは、少しだけ目を伏せる。
「でももういい。俺、遠回りすんのやめる。 譲るくらいなら、奪うほうがずっとマシだと思った」
彼はそう言って、ふいにりいなの手を掴む。 指先が震えているのは、りいなのほうか、かいのほうか。
「りいな。俺、昨日のあれ——抱きしめたの、夢じゃない。俺の全部だった」
「笑われても、嫌われてもいい。 それでも——好きだから。りいなを、“俺のもの”にしたいって思った」
言葉じゃ足りないとばかりに、 かいはりいなの顔を両手で包む。
「誰にも渡さない。泣くなら俺の胸で泣いて。 俺以外の男に、涙見せないで」
そして—— 夜の静寂を破るように、かいの唇が、りいなの唇に触れる。 ほんの一瞬。でも、燃えるような一瞬。
「俺、今のりいなの全部に惹かれてる。 弱さも、迷いも、俺がぜんぶ包みたい。ずるくても、“今この瞬間”をもらう」
沈黙の中で、りいなの胸が高鳴っていた。 好きだと思う。でもまだ、怖い。だけどこの“攻められる感覚”が、心をほどいていく。
昼休みの教室。 カーテンが風に揺れて、午後の光が窓辺を淡く染める。 りいなはノートに視線を落としたまま、ぼんやりと文字をなぞっていた。
昨夜の“キス”が、まだ唇に残っているような気がした。 かいの手、声、温度——全部が鮮明で、心の奥がざわついて仕方ない。
そこに、すずがペンを投げてりいなの机に顔をのぞかせる。
「ねえ、りいな。日曜って予定ある?」
突然の問いかけに、りいなはペンを止めた。
「……え? 日曜? 特には……」
「よっしゃ、なら決まり。海行こ!4人で!」
すずの声は弾んでいたけれど、どこか“計算された陽気さ”が混ざっているような気がした。
「4人って……誰と?」
「私とりいな、かいくん、はるきくん。 昨日、はるきくんが“今年まだ海行ってないな〜”って言っててさ、私ちょっとノってみたの。 そしたら、かいくんも『あー、行きたいかも』って」
すずは軽く言ったけど、その順番が引っかかる。 はるきが言い出して、かいが乗って、それをすずが“まとめた”ようにも聞こえた。
「……でも、みんなでって……大丈夫なの?」 りいなはそっと声を落とす。 “かいとのキス”が、はるきに知られたかもしれない——そんな不安がよぎる。
すずは、意味深に笑った。
「何が“大丈夫”かって話でしょ?」 「てかさ、りいな。最近、表情にドキドキが漏れてるよ。誰かに“見られてる”って、自覚しとこ?」
その言葉に、りいなは一瞬固まった。
「……見られてる……?」
誰に?すず?はるき?かい? もしかして——全部?
「うん。それにさ、こういうときって、逃げるより“混ぜちゃった方がラク”だよ」 「遠くから見られるより、近くで遊んだほうが、わかんなくなるじゃん。誰が誰を好きかなんて」
すずの声が、優しく笑っているのに、鋭く刺さってくる。
「……海。行く、よね?りいな」
視線が交差したまま、逃げられない空気になる。 すずは“何かを知ってる顔”をしていた。
りいなは、目を伏せた。
「……行く。行くよ、海」
午前十時すぎ。 駅前のバス停を降りると、風が違っていた。 ほのかに潮の香りが混じっていて、空は抜けるほど高かった。
すずが一番に砂浜へ駆け出した。 「ひゃ〜、海きれいすぎじゃない!?写真撮ろうよ、誰かあたしのカメラマンになって〜!」
その声は無邪気で響くけれど、りいなには演出された勢いにも見えた。 まるで、“楽しい”という幕で何かを包み込もうとしているような。
りいなは、ひとつ深呼吸して、白いサンダルを脱いだ。 足元に広がる砂の温度が、すぐに体の内側まで染み込んでくる。
「……着いたね」 隣でかいが言う。その声は静かで、でもどこか嬉しそうだった。
昨日の夜、かいに肩を覆われた場面が、ふいに脳裏に浮かんだ。 何も言わなくても、距離が近かった。 それが、今も少し引きずっている。
はるきは、グループから一歩だけ離れていた。 タオルを肩にかけ、スマホを胸ポケットに入れて、 風の向こうに視線を投げかけている。
その横顔に、りいなは一瞬だけ目を留める。 かいとは違う“沈黙の感情”が、そこにあった。
すずが突然、振り返って叫ぶ。 「はるきくーん!かいくん!こっちこっち、日陰に陣取るよー!」
「日陰?」 りいなが聞くと、すずはニコッと笑う。
「うん。女子は日焼け厳禁!男子は荷物番ね!かいくん、りいなと水辺に行ってくれる?場所の確認〜」
さらっとした誘導。 でもその言葉に、かいの表情がわずかに揺れる。 はるきは無言でサンダルを脱ぎ、日陰のシートの設置に手を添える。
“誰と誰を、どこに置きたいのか”。 すずはそれを、軽々と言葉にしていた。
「行こっか、りいな」 かいの声が自然に耳に届く。
りいなの心臓がひとつ跳ねる。 さっきまで“みんなで来た海”だったはずなのに、 この瞬間から、“ふたりで来た海”みたいに思えてしまう。
背後では、はるきがタオルを広げながら――静かに、 水辺に向かう二人の背中を見送っていた。
はるき目線
日陰のタオルの上。 手のひらに落ちた砂を無言で払う。僕はそこに座ったまま、視線だけで彼らを追っていた。
かいと、りいな。 波打ち際に並んで歩いている。肩が触れそうな距離。足跡が二重になる瞬間。 僕は、目でしか追えない。声を、かけられない。
「どうして、あのとき止めなかったんだろう」 「あの屋上の夜。気づいてたのに、見なかったふりをして。 ……昨日の、あの沈黙の熱にも、気づいてた」
彼女の目が揺れていたのも。 かいが、何かを隠そうとしていたのも。 それでも僕は、見ていることしかできなかった。
「でも、見てるだけじゃ守れないんだよな」 「それは、僕も、もう知ってる。 でも……“見守る”ことが、僕の誠実さだと思ってた。 それが、誰かを傷つける選択だとしても」
僕は、かいにはなれない。 あんな風に真っすぐに気持ちをぶつけることは、たぶん、できない。 でも――
「りいなの涙に、近づきたいって思ってたのに。 近づくより、眺めることを選んだのは、自分だった」
波が彼らの足元を洗う。 それをただ、遠くから、見ている。
りいなと海
波打ち際。 りいなとかいは、打ち寄せる波を横目にしながら、砂の感触を確かめるように歩いていた。 足元に水がさらっと流れては引いて、また戻ってくる。 会話も、その水みたいだった。
「……潮、強いね」 りいながふいに口を開く。 かいは、膝下が濡れ始めたのに気づきながら笑う。
「うん。けっこう引きも早い。……でも、それも悪くない気がする。流してくれるから」
りいなは、手に持っていた麦わら帽子を軽くくるくる回していた。 昨日の夜。かいの手が肩に触れた、あの瞬間が何度もフラッシュバックしていた。
「昨日……のこと、覚えてる?」 かいが言う。 声は小さくて、でも“逃がさない”くらい真剣だった。
りいなは、一歩だけ波から遠ざかって、かいの方を向いた。
「覚えてるよ。……全部」 「目も、手も、……声も」
かいは、照れたような表情をして、砂の中に埋まりかけた貝殻を足でいじる。
「なんか、今朝起きたとき『やば、夢だったらどうしよう』ってなってさ。 でも……こうして隣にいると、『あ、現実だった』って安心する」
「……私も、ちょっとだけ、そう思った」
りいなが笑うと、かいはその笑顔に照れもせず見とれていた。 その視線の熱で、りいなの胸がまた高鳴る。
かいが、言葉を探すように少し沈黙して、そして話す。
「昨日のキス、ほんとはもっと“軽いふり”して渡すつもりだった。 でも……やっぱ無理だった。 りいなが泣いてる顔、抱きしめた時、 なんかもう、俺の“全部あげちゃった”って感じになって」
りいなは一瞬、息を止める。 「……あれ、好きって伝えるためだったの?」
「ううん。……好きって、勝手に伝わっちゃった感じ。 言わなくても、触れただけで漏れた。 ……りいなが、少しでも受け取ってくれたなら、それで十分だったけど」
その時、波が足元を強くさらっていく。 ふたりのバランスが少し崩れて、かいがりいなの手を取った。
「危ない、……ほら」
りいなはその手を離さずに言った。
「……受け取ったよ。昨日。ちゃんと」
その手の温度は、昨日より確かで、昨日より近かった。 でも遠くで、そのふたりを見ている視線があった。
🌫️はるきは、日陰からその様子を見ていた。 声は聞こえない。でも、視線の重なりと距離、触れそうな手と揺れた肩――全部が、彼の心を静かに傷つけていた。
すず目線
日陰のタオルの上。 あたしはカチカチと氷の残ったストローを回しながら、遠くの水辺を見ていた。
かいと、りいな。 歩幅が揃ってて、会話の間に沈黙がない。 笑いが薄い分、本音が混ざってるとき特有の空気になってた。
波がふたりの足元をさらって、かいがりいなの手を取った瞬間。 りいながそれを拒まなかったのを見て――あたしは、小さく息を吐いた。
「やっぱり、壊れるタイミングに入ったな」 「この2人が“本気で近づく”瞬間って、ちゃんと見ればすぐわかる」
はるきは、少し離れた岩陰。 スマホをいじるふりして、視線はずっと水辺。 気づいてないようで、気づいてる。 それでも動かないのは――まだ希望を持ってる証拠。
「でもね、それって“勝てるつもりでいる人の姿”じゃない。 “諦める直前の顔”って、あたしは何度も見てきた」
砂をそっと爪でなぞる。 このタイミングで“少しだけ傷をつける言葉”を投げれば、 関係は簡単に軸を失う。 けれど、あたしはすぐには動かない。
「りいなは、傷つけたくないって言うかもしれない。 でも、“選ばれる側”になるってことは、“誰かを選ばない”ってことでもあるんだよね」
海の風が吹く。 誰も聞いてないと思って、あたしは小さくつぶやいた。
「よし。次の一手、準備しよ」
はるきとすず
午後の海辺。 潮風は少し涼しくなり始めて、太陽が角度を変える。 すずは、はるきと並んで日陰の下にいた。 タオルを広げたまま、片手で冷たい缶ジュースの水滴を撫でている。
りいなとかいは、水辺で並んで歩いていた。 足音が重なるたびに、二人の距離は揺れているように見えた。
すずはその光景を目の端でとらえながら、ふっと言う。
「……ねえ、はるきくん。 “見守るだけ”って、ほんとに一番やさしいのかな?」
はるきは視線を動かさない。 だけど、その指先がほんの少しだけ、缶を強く握った。
すずは笑う。 でもその笑顔は、どこか冷たくて正確だった。
「かいくんみたいに、思いっきり好きってぶつかって、りいなを泣かせちゃうこともあるけど…… それでも、“届いた方が強い”よ。結局」
はるきは何も答えない。 ただ、遠くの波音に意識を逃がそうとする。
すずは、そんな彼の目を盗むようにのぞき込んで囁く。
「ねえ。 もし、“見守ってるだけの人”が好きな子に触れられたら、 その瞬間、もう『見守る』って言い訳、使えなくなるよね」
缶の中の炭酸が微かに揺れる音だけが返ってくる。 はるきは、そのまま黙っていた。 でも、何かが確実に――胸の奥でざわめいていた。
りいな目線
テントの影が長くなり始めた海辺。 りいなが水を汲みに行くためにひとりで歩いていた数分後——それは突然だった。
「ねえ、ひとり?暇してんの?」 男がすっと横に現れ、何でもないような口調で話しかけてくる。 だけど声には粘っこい温度があって、笑っているのに目が冷たい。
りいなが軽く会釈して通り過ぎようとしたその時。 男の手が、りいなの腕にふれようと近づいた。 避けようと体を引こうとして——けれど、動けない。声も出ない。
シュッと音を立てて風が割れた。 「……やめろっ」
急に、男の腕を遮るように前に立ちはだかった影。 はるきだ。 胸で呼吸をしながら、全身に怒りと焦りが張りついてる。
「俺の彼女に……触るんじゃねえよ」
その声は、叫びじゃなかった。 でも、どこまでも鋭かった。 男が一瞬驚いたように後ずさりする。
「……は?いや、ちょっと話しただけだろ?」
「彼女が嫌がってるの、わかんねえの? 遊びでも、冗談でも、許す気ねえから」
はるきの目は、燃えてるわけじゃない。ただ、一線を越えられた怒りだった。 男は、言い返そうと口を開いたけど——そのまま海風の中に去っていった。
りいなは、胸の奥で何かがドクンと跳ねた。 怖かった。でも、それ以上に——嬉しかった。 はるきは、迷いなく“彼女”って言った。その声は、嘘じゃなかった。
「……ありがとう」 「……ごめん。俺が、もっと早く見てればよかった」
ふたりは、夕焼けの浜辺でしばらく黙って立っていた。
すず目線
すずは、その様子を遠くの岩場から見ていた。 持っていた紙コップに残っていた麦茶を一口だけ飲んで、ぽつり。
「……はるき、かっこつけすぎ」
風で髪が揺れていた。 声は小さいけれど、静かに刺さる響きだった。
誰に言ったわけでもない。 ただ、彼女の目には“演じてないはるき”が、ちょっとだけ羨ましく映ったのかもしれない。
その手にはスマホ。りいなの名前が画面に残っている。 けれど、指はそこには触れなかった。
りいな目線(?)
「りいな〜…水汲みに行っただけじゃなかったっけ?」
かいは、テントの脇で荷物を整えてから、ふと隣を見る。 さっきまで「かい〜これ飲む?」なんて笑いかけていた彼女が、どこにもいない。
あれ…? 立ち上がって、辺りを見渡す。
午後の光が柔らかく差し込む浜辺の先に、小さくふたりの影が見えた。 ひとりは——はるき。もうひとりは、確かにりいな。
かいの歩みは自然と速くなる。だけど、途中でふと止まった。 その距離感が、ちょっと違って見えたから。
はるき…なんか、近くない?
ふたりの間には、言葉を交わしてないように見える。 けれど、立ち方が自然すぎて、“沈黙の仲”にも見える。
かいは軽く水筒を握りしめながら、声をかけた。
「りいな〜……おっそいじゃん。水とってきただけでしょ?」
笑顔で言ったつもりだった。 でも自分でも気づく。声が少しだけ上ずっていた。
はるきがふとこちらを見た。りいなもゆっくり顔を向ける。 だけど、返事は少しだけ遅れた。
「……ごめん、ちょっといろいろあって……」
曖昧なその言葉。 “いろいろ”ってなんだろう? かいの胸に、小さな疑問が沈む。
はるきの目が、どこか警戒しているようにも見えた。 いつもの、“優しいだけのはるき”じゃない。 肩の力が抜けていなくて——まるで何かを守っているような。
かいは、その空気を感じ取っていた。 でも、それに気づいた自分自身を誤魔化すように、笑ってみせた。
「なんだよ〜、はるきくんまで一緒に水取り?デートかよ〜」
冗談めかしたその言葉に、はるきは何も答えない。 りいなは、少しだけ目を伏せた。
それを見て、かいの胸の奥で何かがチクリと鳴った。
海とすず
麦茶の紙コップを手に、すずはゆっくりとテントに戻っていく。 太陽が少しずつ沈み始めるこの時間は、何かが動き出す予感がする。
途中、浜辺から戻ってくるかいの姿が見えた。 水筒をぶらさげながら、なにげない風を装ってる。 でも、歩く速度がいつもよりほんの少し遅い。 視線も、他の誰かを探してるようで、見ようとしていないようにも見える。
すずはすれ違いざまに、ほんの少しだけ立ち止まって—— かいの横顔を見つめる。 そして、声はあくまで小さく。
「……気づいてないフリ、得意だよね」
一瞬、かいの肩がピクリと動いた気がした。 でも、すずはそれ以上何も言わず、すぐに歩き出す。
彼女の髪が夕風でふわりと揺れる。 心の中では、何かが静かにため息をついていた。
りいな目線
テントに戻る途中、りいなは何度も迷っていた。 “言うべきじゃないかも”“気づかれてないかも” でも、すずの目に映っていたはるきの姿——あれは、確かに届いていた気がした。
すずはもう自分の荷物を整理していて、麦茶のコップを空にしていた。 その横に、ゆっくりとりいなが立つ。
「……すず」
すずが振り向く。 表情はいつものとおり、落ち着いている。 りいなは少しだけ視線を泳がせてから、静かに言った。
「さっき…見てた?」
すずは、少しだけ間を置いてから、コップをトントンと指で叩いた。 そして、曖昧な笑みのまま答えた。
「見てないよ。……でも、感じてた」 「はるきの言い方も、りいなの目も、風より早く伝わってきた」
りいなの胸がドクンと鳴った。
「……なんか、かっこよすぎて、ちょっと動けなくなった」
その言葉に、すずは目を伏せたまま、小さく微笑む。
「かっこいいのは一瞬だよ。でも、誰かがそれを“本物”にするなら——きっと、そのあと」
りいなは、すずの言葉を静かに受け止めた。 嬉しいような、怖いような。 でも、すずの静かな強さが少しだけ背中を押してくれた気がした。
テントの布越しに、かいの笑い声が聞こえてくる。 けれど、りいなの目は今、すずの瞳に釘付けだった。
「で、さっき——何話してたの?」
かいが、すこし背伸びするように笑いながら近づいてきた。 水筒を持った手が無防備で、夕陽がその輪郭をやさしく照らす。
りいなは、一瞬その問いが聞こえなかったふりをした。 けれど、かいの目が真っ直ぐで、逃げ道がなかった。
はるきはもう少し離れた場所にいて、テントのロープを巻き直しているふりをしている。 その距離は、“いてほしいけど近づけない”みたいで——りいなの胸がまたドクンと鳴った。
「えっと……」 声が少しだけ乾いて出た。
「なんでもないよ。水汲みに行ったら、はるきくんが来て、ちょっとだけ話して……」
ごまかすように笑うけど、自分の目が泳いでいるのを感じる。 りいなの指先は、知らないうちに自分のシャツの裾を握っていた。
かいは、少しだけ眉を下げてから、言った。
「そっか。なんでもない、か……」
言葉は軽かったけど、目の奥がちょっとだけ深く揺れた。 沈黙が3秒。だけどその間に、たぶんいろんなことがかいの中で巡っていた。
「なんか空気、ちょっと変だった気がして。 でも……うん、なんでもないなら、それでいい」
そう言って、かいはまた笑った。 でもその笑顔は、さっきよりすこしだけ、空回っていた。
りいなは、喉がつまったみたいで何も言えなかった。 ほんとは、“なんでもない”って言葉がいちばん嘘だって、わかっていた。
はるき目線
夕陽が赤く海面を染める頃。 テントの陰から、はるきはじっと見ていた。 遠く、りいなと——かい。
りいなが笑う。少しだけ、ぎこちなく。 かいは水筒を振りながら、無邪気な声。 でも、その肩がりいなに少し近づいてるのを、はるきは見逃さなかった。
その距離、俺には許されてないのに——なんで、かいには自然なんだ。
はるきの拳が、ロープの端を握りしめていた。 引きちぎれるほどの力。でも、それでも声は出さない。
「……笑ってるじゃん。俺といる時より……自然じゃん」
胸がズキズキする。 “あの時、彼女って言った。” でも今、彼女は誰の笑顔に一番素直なんだ?
「かいなんだろ。どうせ、あいつだよ。 優しいし、気づくし、ずっと隣にいたし……俺が、割り込めるわけないじゃん」
はるきはひとりごとのように、小さくつぶやく。 でもその声は、砂の上で転がるように硬かった。
そして、りいながかいに何かを言って笑う。 はるきの胸が、ビリっと裂かれる。
「なんだよ、それ。俺には見せたことない顔」
目を逸らすことができず、むしろ目を焼かれるように見続ける。
海風が吹く。汗ばんだ首元に冷たい風が入り込む。 それでもはるきは、叫ばなかった。 ただ、焼ける心臓を胸に抱えて立ち尽くしていた。
りいな目線
かいとの会話が、なんとなく終わりそうな空気をまとったころ。 りいなは目を伏せながら、シャツの裾をそっと整える。
言葉は軽い。笑顔も作れる。 でも、心の奥はさっきからざわついていた。
何かが、背中からずっと刺さっている気がする。 視線のような、熱のような——沈黙の呼びかけ。
ゆっくりと、ほんの少しだけ振り向いた。
遠くのテントの影に、はるきの姿。 しゃがんで、ロープを持つふりをしているけど、目だけが真っ直ぐ、りいなに向いていた。
その目は、静かに燃えていた。 怒ってるんじゃない。 伝えたいのに、届かない悔しさが、あふれそうになっている。
りいなの胸が、ドクンと跳ねた。
「……」
言葉にならない。 でも、何かを伝えなきゃいけない気がして——だけど、足も動かない。
その瞬間、風が一度強く吹いて、髪がはねた。
かいが隣で、「風強っ」と笑う。 りいなは急いで目線を戻した。 でも、その一瞬の“振り返り”は、もう心の奥で燃えていた。
はるき目線
夕暮れの光が、砂の上を薄く照らす。 はるきは立ち尽くしたまま、まだロープの端をほどいていない。 先ほど——りいなが、ほんのわずかに振り返った。 その視線は、自分の方へ。
「……今の、振り返った…よな。俺を…見てたよな」
心臓が跳ねる。 さっきまで焼けるほどの嫉妬で胸が焦げていたのに、今は少しだけ冷たい風が通ったようだった。
けれど、すぐにその喜びに影が差す。
「……でも、あの目……探してたんじゃなくて、ただ、気になっただけかもしんない」
自分に期待してしまったことが、痛かった。 彼女に気づいてもらえた。それだけで嬉しいのに。 だけど、それが“特別”じゃなかったなら——この胸の痛みはどこに行く?
「そりゃ、かいの方が自然だもんな。 ずっと一緒にいて、隣でふざけて、迷わなくて……。俺は、守ることしかできなかった」
ロープの端が、指の中で少しきしむ。 それでも、はるきはそのまま空を見上げた。
「……振り返ったことが、すべてじゃない。でも、俺にはそれしか希望がなかった」
遠くで波の音が優しく響く。 だけど、それを優しさだと思えるほど、今は自分に余裕がなかった。
海とりいな
かいが冗談っぽく言った。
「俺が一番最初に好きだったでしょ?」
はるきは、少し離れた場所でその声を聞いた。 思わず顔を向けてしまった。 りいなの反応が、怖かった。
そして——彼女は、笑いながら答えた。
「え〜〜!懐かし〜!かいのこと好きだったんじゃな〜い?笑」 「小学校の時だけねっ!」
肩をすくめながら、くすくすと笑う。 かいは、その笑顔に嬉しそうに笑い返した。
「ほら〜〜やっぱり俺のこと好きだったじゃん!」
その瞬間。 かいの顔は、ほんとに嬉しそうだった。 声も高くて、目もキラキラしていて。
はるきの胸が、ぎゅっと痛くなった。
「……そっか。嬉しいんだ、かい。 りいなに“好きだった”って言われて……あんな笑顔になるんだな」
はるきは笑えなかった。 笑わないようにしていた。 誰も見ていないはずなのに、笑わないことが、自分を守る唯一の手段だった。
りいなは、その温度差に気づかない。 ふざけるようにタオルをかいの頭に被せて、「懐かしいね〜ほんとに笑」なんて言う。
はるきは、言葉にならない苦しさを噛みしめながら、そっと立ち上がった。 その手が、少しだけ震えていた。
はるきとりいなと海
テントの近く、夕焼けが海を金色に染める頃。 りいなはかいと並んで、飲みかけのジュースを笑いながら差し出していた。
「かい〜これ飲む?甘すぎかもだけど笑」 「え〜〜でもりいなが選んだんなら飲む〜!」
そんなやりとりを、はるきは遠くから見ていた。 拳はポケットの中。握ったまま、ずっと動かない。
限界だった。
彼女に“彼女”とまで言った。 自分なりに守った。想いを込めた。 それなのに——あの笑顔は、隣の誰かに向けられていた。
バッと歩き出した。
りいなの背中に真っ直ぐ向かって。
「りいな」
呼びかけた声は、はるきらしくないくらい強かった。 振り返ったりいなの瞳に、一瞬だけ驚きの色が差す。
「……ん? どしたの?」
はるきは立ち止まらず、りいなの手をそっと引いた。
「……海のとこ。ちょっと、二人だけで話そ」
その言葉に、かいの笑顔がすっと引いた。 りいなは、戸惑いながらも、くすっと笑って。
「え〜〜突然!なんかドラマっぽ〜笑」
でも手は、離さなかった。
はるきは、かいの視線を一瞬だけ見たけど何も言わなかった。 ただ——りいなを連れて、海の前へ歩き出した。
波の音だけが、ふたりの距離を埋めていく。
りいなとはるき
波の音が少しだけ優しくなった気がした。 夕陽はもう沈みかけていて、ふたりだけの空が広がっている。
はるきは砂を踏みしめて、目をそらさずに言った。
「俺さ……りいなのこと、ふざけて好きになったんじゃねえから」 「本気で、ずっと見てた。誰よりも。自分がどう見られてるかとか、もうどうでもよくなるくらい、ずっと好きだった」
その言葉に、りいなは目を見開く。 でも怖がってない。冗談で流そうともしてない。
風に髪が揺れる。 そのまま、ゆっくりと、はるきを見つめて——口をひらいた。
「……うん。わかってる。 はるきくん、いつも見てくれてたの、私知ってる」 「私ね……私も、はるきくんのこと、本気だから」
沈黙が、熱を持った。
はるきの息が少しだけ止まった。 りいなの言葉に、何も足さなくても、全部が伝わってくる。
「天然ってよく言われるけどね? 気づいてるときもあるんだよ。 はるきくんがちょっと目そらすときとか、 私が誰かと笑ってるときの表情とか——」
「……ずっと、ちゃんと届いてたよ」
砂の上で、ふたりの足音だけがそっと重なる。
そして—— はるきの目から、力がすこし抜けた。 “守る”よりも、“寄り添う”という感情が滲み始める。
波の音がずっと背景に流れていた。 空はほんのり群青に染まり始めていて、ふたりの影が砂に長く伸びていた。
告白のあと、少しだけ沈黙。 でも、それはもう不安の沈黙じゃなくて——“なにかが始まった”静けさだった。
はるきが、ふっと息をついた。
「……じゃあさ、今すぐ手、つないでもいい? いやいや、ほら!告白も済んだし、記念に?」
りいなは、目を丸くして一瞬だけ笑いをこらえたあと——
「え、なにそのテンション笑」 「…でも、いいよ」
その“いいよ”は、ふわっとしてるようで—— たしかに心に届く、確かな答えだった。
はるきが手を差し出す。 ほんの少し指が震えていたのは、風のせいじゃなかった。
りいなが、その手にそっと指を重ねる。 温度がじわりと伝わってくる。
目が合った。 笑い合った。
「……こんなに緊張するなら、もっと後にしときゃよかった」
「遅いよりは、いいでしょ笑」
砂浜を歩きながら、ふたりは指を絡めて進んでいった。 最初の一歩はぎこちなくても、波が追いかけてくる音だけが、ずっとふたりを包んでいた。