マッドハッター~ユナティカ 港町にて~
海猫が鳴き、海岸沿いには沢山の家々が並び、中にはカフェやアクセサリー屋も点々とある。海の町とも言われているせいか、屋根の色が青系で統一されている。
「やってまいりました! <ユナティカ>!」
肩に乗っているスパイキーとスパイクが耳元で大声を出してはしゃぐ。鼓膜がやられたのかと思うくらい耳がキーンとする。
「こらこら、観光に来たわけじゃないんだぞ。」
町に入る前にアルマロスは、手のひらサイズにした。あの巨体でこの町にはさすがに入れない。
「別に町の外で待ってもよかったんだが。食い意地が勝ったな。」
帽子の上で寛いでいるアルマロス。カフェから香る料理の方をずっと見ている。さっきハト食ったくせに。スパイキーとスパイクもさっき朝食を食べたばかりだというのにお腹を空かせているらしい。
「わー! あの料理とか美味しそう!」
「お前達…。」
私はやれやれと言わんばかりに、近くのカフェに寄ることにした。テラスの席に案内され、店員に注文をお願いする。
「ご注文は何になさいますか?」
「この鮭のムニエルとタコのカルパッチョ、レモンティーを。」
店員は注文をメモすると、厨房へと下がっていった。テーブルにアルマロス達が乗り、一緒にここから見える海の景色を見る。水平線の彼方まで広がる海。その上にぽつんと船が浮かんでいる。私が画家ならこれを絵にしていただろう。
「ねえ、ハッター? <ユナティカ>についたのはいいけど、これからどうするの?」
「人探し。」
「人探し?」
そう、そもそもこの海の町<ユナティカ>に来たのは、観光目的ではない。この町にいると思われる古い友人に会うことだ。
ちょうど料理や紅茶が運ばれてきたので、ゆっくり説明しよう。
「お前達は、<オートマタ>って知ってるか?」
「<オートマタ>? <ヒューマノイド>じゃなくて?」
「よしよし、そこから説明してやろう。」
まず、<オートマタ>とは機械人形のことだ。遥か昔、まだ人類が魔法や錬金術を知らない頃、自立型の機械人形が多く製造されていた。しかし、この<オートマタ>はいつしか特殊な種族として扱われるようになり、彼らにも人権が与えられた。 時は流れ、彼らが多く栄え始めたと同時に技術力と文化が進歩し、いつしか一部の<オートマタ>はその環境の変化に対応できずに半数が滅んでしまった。 今では、その<オートマタ>と呼ばれる人種はあまり見なくなり、代わりに多く栄えたのが最新型の自立型の機械人間。それが<ヒューマノイド>だ。
「その数少ない<オートマタ>である古い友人がこの町にいると聞いた。」
「<オートマタ>なんて僕たち、知らなかったよ。」
「知らないのも無理はないさ。その<オートマタ>は今じゃ絶滅危惧種扱いだ。この進歩した時代で生きているのもやっとなくらいなんだ。」
「え? じゃあ、その友人さんは死んでるかも…。」
「いや、あのジジイのことだ。簡単にくたばってるとは思えん。」
「じ、ジジイ?」
私はレモンティーを一口飲む。アルマロスは鮭のムニエルを無我夢中でむさぼり食っている。口の回りが油でギトギトだ。
「クロッカー。その遥か昔から存在している<オートマタ>だ。私の先生でもある。」
「ハッターの先生!?」
スパイキーとスパイクは、カルパッチョを食べながら立ち上がった。その隙をついてアルマロスは二人のカルパッチョを食べ始めた。
「こら、落ち着きなさ」
二人を落ち着くように言おうとした時、背後からヒュンと風を切るような音がした。私は咄嗟にアルマロスが食べ終えたムニエルのお皿を盾に振り返った。
パリン!
盾に使った皿は虚しくも貫通し、粉々に割れた。どうやら音の正体は何かに飛ばされた物らしい。聞こえてきた音からして、皿程度で防げるとは思っていない。最初から勢いを殺すつもりで盾に使った。
「よくやった、アルマロス。」
間一髪でアルマロスのシールドに守られた。しかし、もっと早く守って欲しかった。
「無事か? スパイキー・スパイク。」
「な、何が飛んできたの?」
アルマロスのシールドによって弾かれたものを見ると、銀の矢だった。しかも、かなり長くそして太い。
「…銀は私たちのような存在にとっては弱点。この長さ太さからするにクロスボウで発射されたやつだな。さらにさらに! この知識を知ってるのは。」
「…見つけたぞ。」
私はこの銀の矢を発射した人物達を見て、不敵に笑って見せる。まさかここまで追ってくるとは思っていなかった。 全身黒い服を纏い、特徴的なガスマスクを着用している。その集団の中の何人かはクロスボウをこちらに向けている。
「ハッター! こいつらは何なの?!」
肩に登って怯えた様子で訪ねてくるスパイキーとスパイク。アルマロスは私の手の平で浮き始める。
「紹介しよう。こいつらが、<ペスト医師>だ。」
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!