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「しまいなさい、ララちゃ~ん。ララちゃんがかわいいからお小遣いをもらって当たり前なんだよ! いいね?!」
「はい……。ありがとうございます」
――――「お疲れさまー」
「お疲れ~……」
フハ~……やっと今日の出勤が終わる。あまりにも長い5時間だったわ。高梨さんはたまたま今日、他のお客様の予約がなかったのをいいことに、ララを独り占めした。
予約なしでララを指名したお客様は3名追い返されてしまったらしい。
「えー! そうだったんですか? 店長……」
「ああ、だからララちゃんの接客希望のお客様には今後、前日までに電話予約を入れてもらうように言って行こうと思うよ、常連客の皆さんにね」
「はい。よろしくお願いいたします。追い返されてしまったお客様に申し訳ないです」
「ララちゃんが責任を感じる事はないさ。あくまでも店のやり方の問題だからね! それにあの、高梨さんは太客じゃないか! ララちゃん喜んで!」
「は……ぃ」
耐性が少々ついたのか、今日は嘔吐するような事はなかった。だけどとっても気色悪いよ。
何なら早くまた『本気のプロポーズ』でもしてくれたらいいのに。そしたら店長から出禁にしてもらえるはず、高梨さんを。
帰り道、うなだれながら電車に乗り、うなだれて歩いた麗三。
(こんな時、他の女の子ならどうすんだろう……。でも、あんまりみんなに心配かけたくないんだよな。だから話したくない。この仕事自体を怖がって欲しくないし。だってあたしは20年間プライドを持って嬢をやってきたのよ?)
その夜のなおちゃんとのテレフォンデート、よっぽど高梨さんの接客が辛い事を愚痴ってしまおうかと思ったが、なおちゃん、今週末はお父様の介護で大変なのだ。心配かけちゃ悪い。やっぱり言えない。
「なおちゃ~ん!」
甘ったるい声で仔猫のように甘える麗三。
『ン……麗三、今日は特に甘えるね。何かあった? 大丈夫なの 麗三? 何でも言って』
「ううん、恋しいだけよ。なおちゃんを愛しているから……とっても恋しい。早く逢いたい」
『うん、麗三……来週のお休みはデートしようね。 約束だよ』
「はい」
『麗三? 麗三はオレに気を遣って言わないんだろうけど……お仕事、旨く行ってる? 悩みがあるなら聴くよ。気にしないで言って』
「うん。旨く行っています。女の子達とも凄く仲がいいし」
『そか、辛い時は何でも言っていいんだからね?』
「ありがとー、なおちゃん。なおちゃんが大好きよ……あたし、なおちゃんが好き」
『うん、オレも麗三を愛してるよ』
「あさってご実家へ行くのでしょう? なおちゃん。なおちゃん、ほんと体壊さないようにね!」
『うん、お互い元気に頑張ろうぜ』
「ハイ」
『じゃ、おやすみ、麗三……』
「おやすみなさい、大好きななおちゃん……」
そして翌日も出勤。でも、今日は金曜日。今日を乗り切れば明日・あさってと連休だ。
一番乗りはやっぱり高梨さん。でも今日は他のララ目当てのお客様が電話予約を入れているらしく
きのうのような延長にはなりそうにない。ちょっぴり胸を撫で下ろすララ。
「いらっしゃいませ」
「ララちゃ~ん! きたよー! 今日はさ、僕ちゃん以外の接客もするの? 店長さんが言ってたよ、予約のお客さんがあるから、僕ちゃんのお姫様を誰かが盗っちゃうって! 嫌だな~、僕ちゃん。泣いちゃおうかなー。エーンエン」
(60代のおじさんが……いや、イイんですけど、あたしは年齢うんぬんではなく、かつて本気でプロポーズをしてきた高梨さんというものがトラウマになってしまっているのだ……)
「ねぇ、ララちゃま?」
「はい」
「ララちんは王子様のボクというものがありながら他の男ともおしゃべりするのかい?」
「あ……(また『ごっこ』で答えるべきなのかしら?)」
言葉に詰まっていると、高梨さんが「そんな事、王子の僕が許さないよ! 僕はララお姫様をお城に幽閉しちゃうよ~。フフフ……!」
ニヤリ……。
ララは見逃さなかった。鬼のような汚らしい笑みを。
(怖い!)
本当に悪寒が走った。
「ララちゃん、ララちゃん、答えておくれ? どうして君はそんなに僕ちんの胸をわしづかみにするのかい?」
「(さぁー? わかりませーん)そ、それはぁ……高梨さんが素敵な方だからです」
「うっひょ――――――ぃ! 今年一番の喜びだよ、お姫様~。ララ姫ぇ。決して君を離さないぞ! ンーかわいい、かわいい!」
(本当にうるさい人)
「ララちゃんは僕のものさ! ね~、何とか他のお客さんを追い払えないの? 僕ちんとララ姫のラブラブタイムを邪魔する戯け者はシッシだよ!」
「そんな訳には参りません。お店のルールですので、ごめんなさいね……高梨さん」
「ああ、ああっ! 謝らないで、お姫様! ララちゃんはいい娘だからね! 今度僕のほうから店長さんに言ってみるよ。ララちゃんは僕のものだから、他のお客はこさせないようにって! 『夢と黒猫』にお金ならいくらでも出せるからね! なんなら僕ちゃんがこの店を買い取ってもいいんだよ~、アハアハ」
(恐怖!)
「さー、ララちゃまっ! のまっ白で美しいお手てを揃えて広げ……御覧なさい、こんな風にね、天に向けて、こう! 『ちょうだい』しなさい!」
「(ぇ)は……ぃ、こうですか?」
「おりこうさ~ん! よくできましたぁ! 偉い偉いララ姫ちゃん、はいっ、ご褒美!」
ララの掌の上に1万円札が5枚置かれた。
「高梨さん、困ります。本当に申し訳ないです。これは何ですか?」
「ララちゃんっ? 罪な女だからだよ? 君が余りにも魅力的だから僕ちん、お小遣いをあげたくなるの。 ネ!」
「あ、でもこんなにたくさん、受け取れません……」
「いいの、いいの! ラ~ラちゃん、バッグに今すぐしまいなさい。可愛い娘だよ、君は。みんなにはひ・み・つ! これは僕ちゃんとララちゃんの素敵な内緒ごとさ!」
頑固な高梨さんがこちらの言い分など聞き入れる訳がない。ララは仕方なく高額のチップを受け取った。
「ララさん~、ララさーん」
マイクアナウンスが流れた。
あと10分だ! 残り10分でこの困った高梨さんとおさらばできる!
「高梨さん、そろそろお時間です。今日はありがとうございました」
丁寧にお辞儀をするララ。
「ンー、カタッ苦しいこと、抜き抜き! 僕たちは愛し合っているんだから、お礼はおかしいよ?」
「は、はぃ」
「ララさーん、ララさ~ん……」
やっとお見送りとなった。こんなにくたびれても、次のお客様が待っている。地獄だな~。
今日も玄関へ向かう際「フー」っと耳の中に息を吹きかけられた。
(ヤダ!)
「好きだよ、ララ……」
ララは黙っていた。やってらんないわ!
(お店にとって、嬢にとって太客だろうとも、あたし人間なのよ? 何も高梨さんの変態チックなしゃべり方なんかを悪く言うんじゃない。余りにも高額なお金を渡しプレッシャーを与える、他のお客様を悪く言う、そんな態度が、はっきり言って嫌い。しまいには[自分には『夢と黒猫』を買い取るだけの力がある]とほのめかしたりして! あったまくるし、マジで恐ろしい)