テラーノベル
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繁華街の駅で地下鉄を降り、正源はかつて若者でにぎわったというその通りに向かった。
そして噂が本当である事を知った。雨は止んでいた。だが、肌を切りつけるような冷たい風は吹き荒れていて、厚い袈裟と襦袢越しでさえ、正源の体を震えさせた。
そろそろ夕方と言っていい時刻の、分厚い雲に覆われた冬空は、辺りを既に薄暗く染めていた。
その通りのビルの壁に背をくっつけるようにして、三人の少女が力なくコンクリートの歩道の端に座り込んでいた。三人の前にはそれぞれ、プラスチックの小さなコップが置かれ、真ん中の少女の靴先には、手書きで段ボール紙に文字が書かれたボードが立ててある。
「私たちに今夜のごはんを食べさせてください」
そう書かれたボードを前に、学校の制服だろうか、プレザーとミニスカートしか着ていない少女三人が座っている。
この寒風の中、コートもマフラーに手袋もなく、少女たちは両手で自分の肩をつかんで身を縮め、近くを人が通る気配がある度に、その時だけ顔を上げて必死に作り笑いを浮かべていた。
性風俗用ロボットが普及した事で、確かに事実上の少女買春、未成年者買春という社会問題は姿を消した。だがその結果がこれなのか?
その光景を見つめながら正源はため息をついた。その結果、少女たちはより幸せになったのか? いや、工事現場で高価なロボットの代わりに「体を売れない」女の子たちは、貧困というこの世の地獄の中に連れ戻されただけではないのか?
正源は三人の少女の前に進んだ。さすがに坊主は珍しいのか、少女たちは作り笑いを浮かべるのも忘れてポカンとした表情になった。
コップの中をのぞくと、どれも数枚の硬貨、それも一円玉と五円玉ばかりが、ぽつぽつと入っているだけだった。
正源は懐から財布を取り出した。少女たちの目がにわかに輝く。正源は、一万円札を一枚取り出し、真ん中の少女に差し出した。
少女の喉から「ヒュッ」という驚きの音が漏れた。少女は座ったまま右手を伸ばし、震える手で札を受け取る。左右の二人の少女は、驚きと恐怖が入り混じった表情で、スカートの裾を押さえつけた。
札を受け取った少女が震える声で正源に小声で尋ねた。
「何をすればいいの?」
正源はしゃがみ込んで少女たちの視線の高さに自分のそれを合わせながら答えた。
「もう暗くなる。今日はこんな事はやめて、暖かい場所へ行きなさい」
「は?」
少女は意味が分からないという表情で訊き返す。
「あたしたちに何させたいのって、そう訊いてるんだけど」
「それだけあれば、三人でちゃんとした食事が出来るだろう。こんな場所でこんな事をしていたら危ない。だから、今日はもう家に帰るか、安全な場所へ行きなさい。してほしい事はそれだけだ」
正源は立ちあがり、そのまま歩き去った。背後から、何か信じられない物を見た人間特有の口調で声が追いかけてきた。
「ありが……」
その語尾はあまりにか細すぎて聞き取れなかった。正源は思った。こんな事はしょせん偽善だと。たった一回暖かい食事にありついたからと言って、あの女の子たちの境遇が根本的に解決するわけではない。
それが分かっていても、何かをせずにはいられなかった。正源はどんより曇った夕空を見上げながらつぶやいた。
「今の時代、坊主は無力だな」
コメント
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よかったです、第31話。正源さんが少女たちに「何をすればいいの?」って聞かれて、ただ「暖かい場所へ行きなさい」とだけ返す場面、すごく印象に残りました。あの少女たちの戸惑いと、正源さんの偽善を自覚しながらも動かずにいられない優しさの対比にぐっときました。最後の「坊主は無力だな」ってつぶやきに、この社会のrootの深さを感じてちょっと切なくなりました。