テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
それ以来、寺の雑務と月に一回程度来るロボット供養の依頼をこなしているうちに、二月が過ぎ、三月も押し詰まり、ほんのり春の気配を感じる頃になった。
正源は電気自動車で、東京郊外にある、本山でともに得度の修業をした同門の僧侶の寺へ向かった。
今後ロボット供養の依頼が増えると、正源の寺だけではこなしきれなくなる可能性を考え、歴史の古い大寺院の後継ぎである正雁に手伝ってもらうよう頼んだ。
彼は快諾してくれ、打ち合わせのために会う事になった。高層マンションがひしめく住宅街の一角にある、正源の寺の優に数倍はある大寺院に敷地の事務棟で二人は久々の再会を祝った。
父親が健在なので、まだ副住職見習いの立場にある正雁は、気楽な立場ゆえか、髪を世間の若者並みに長くし、茶色に染めてさえいた。
「このご時世に文字通りの坊主頭とは、おまえは相変わらず真面目だな」
事務棟の椅子で向かい合って座り、彼は作務衣姿で正源をからかった。
「なにしろ、吹けば飛ぶような貧乏寺の住職だからね。こんな大きなお寺を告げる君がうらやましいよ」
「いやいや!」
正雁は大げさな身振りで手を横に振った。
「寺がでかけりゃ安泰って時代じゃない。うちも三代前の住職、つまり俺のひいじいさんだがね、その時代に手を広げ過ぎて、幼稚園の閉園を余儀なくされてね。けっこう苦労は多いんだよ」
「そういえばここへ来る途中見たんだが、あそこの坂の上の墓地はここの霊園じゃなかったか? 土木会社の重機が入っているみたいだが」
「ああ、あの墓地は更地にして、参拝者のための休憩所と駐車場にする事になったんだ」
「墓地をつぶすのか?」
「法律が変わったのは知っているだろ? あそこの墓地の仏さんは、全てもう十年以上遺族、親族との連絡が取れないんだ」
「無縁墓になっているという事か?」
「事実上そういう事になるんだ。新しく墓を建てる人なんざ、この辺にはいないからな。もちろん、ご遺骨は別の場所にまとめて保管するが」
「親族に連絡がつかないと言ったが、あの一画全部がそうなのか?」
「ほら、散骨とか樹木葬とかが今の主流で、特に若い連中は墓そのものに無関心になっているじゃないか。特に東京は先祖代々の墓の方が少ないからね。時代の流れだな」
「そうなのか。大きくても小さくても、寺の経営は楽じゃないな」
「まったくだよ。そこでおまえの話は渡りに船だったわけさ」
正雁は正源から渡された宣伝用のポスターを広げて隅々まで見つめて、感心したという口調で言った。
「ほう! 人形供養と書いて『ひとがたくよう』と読ませるのか。確かに『ロボット供養』よりは風情があるが、人型しか受けないという事か?」
「いや、動物型のペットロボットやレストランの配膳ロボットとか、人型以外の物はケースバイケースで受ける。あくまで、原則として人型という意味だ」
「どうしてそこまで人型にこだわるんだ?」
正源はタブレットPCを取り出し、保存してあった画像を彼に見せた。
「この前、国防軍からの依頼を断ったと言っただろう。こういう物だったからなんだよ」
PCの画面には、首のない牛のような形をした背中のくぼみに大量の荷物を積んだ四本足の機械が映っていた。
正源がスクリーンの上で指を動かす。次々に画像が変わる。機関砲を下腹に抱えた四枚のローターがあるドローン。戦車のようなキャタピラの上に円筒型のボディが乗り最上部に機関銃が据え付けられた自動走行機械。そういった物体が次々にスクリーンに映し出された。
一通り見せて、正源は正雁に言った。
「こういうのも、れっきとしたロボットなんだよ」
「軍事用ロボットか……」
正雁は合点がいったという表情で相槌を打った。
「なるほど、だから人の形をしたロボットに、アンドロイド型やヒューマノイド型に限るというわけなのか?」
正源は大きくうなずいて答えた。
「そういう事なんだ。戦場で実際に使われて人を殺したかもしれない機械を持ち込まれて、供養してくれと言われても困るからね。人間の形をした兵士ロボットは現実的ではないらしいから、俺が生きてる間にそんな物は開発されないだろう。その予防線だよ。それに……」
急に正源の言葉が途切れたので、正雁は少し驚いたように訊いた。
「それに、何だ? 他に何か問題でもあるか?」
正源は小さく息を吐いて答えた。
「原則として人型に限るとしておけば、これを供養してくれと言って、持ち込まれるのが人間になるんじゃないか。それを期待してるんだ」
「え?」
正雁があっけにとられた顔で口をポカンと開いた。
コメント
1件
第32話、読み終わったよ〜!🌸 正源が「ロボット供養」を人型に絞った理由、めっちゃ深いなって思った…。軍事用ロボットを避けるっていう現実的な線引きから、最後に「人間の供養につなげたい」って本音が出てきたところ、グッときた😭💕 正雁とのやり取りも、お寺の経営の苦労とか時代の変化がリアルで、でも二人の絆が感じられてほっこりしたよ。次が気になるー!