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21
「……以上だ。暇(いとま)、この資料の3ページ目。数字の根拠が弱い。やり直しだ。明日の朝一番までにデスクに置いとけ」「っ、……はい。失礼いたしました、いるま部長」
オフィスに響く、いるまの冷徹な声。
周りの社員たちが「ひえぇ……今日も部長は厳しい……」と震え上がる中、なつは背筋を伸ばして一礼し、足早に会議室を後にした。
……でも、数時間前。
「……なつぅ、なつ……。行かないで、まだ会社行かないで……」
「……もう、朝だってば。いるま、離せ。遅刻するぞ、部長」
自宅の玄関先。
スーツを完璧に着こなしているのに、いるまはなつの腰にガッシリと腕を回して、その肩に顔を埋めて動こうとしない。
数分前まで「キリッ」としていたはずなのに、家を出る直前になるとこの「離したくない病」が発動するのだ。
「……ねぇ、なつ。……昨日の会議、俺、厳しくしすぎた?」
「え?」
不意に、いるまの声が小さく震えた。
なつを抱きしめる腕に少しだけ力がこもる。
「……仕事だから、あんな風に言ったけど。……なつ、本当は傷ついた? 俺のこと、嫌いになった? ……怖かった?」
冷徹な部長はどこへやら。
なつの顔色を伺いながら、捨てられた仔犬のような目をして不安を口にするいるま。
なつは思わず吹き出しそうになりながらも、その大きな背中をポンポンと叩いた。
「……バカ。……仕事なんだから当たり前だろ。……お前が厳しく言ってくれたおかげで、資料のミスに気づけたんだ。……感謝してるよ、いるま部長」
「『部長』って言うな! ……じゃあ、嫌いになってない?」
「……嫌いになるわけねーだろ。……ほら、早く行かないと、部下に見せられないような情けない顔になってるぞ」
なつが少し笑って、いるまの頬に手を添える。
するといるまは、安心したようにふにゃりと表情を緩め、なつの手のひらに自分の頬を擦り寄せた。
「……よかった。……なつに嫌われたら、俺、今日から仕事できないところだった。……じゃあ、会社着くまで、あと30秒だけこうしてて?」
「……もう、わかったよ。……30秒だけだぞ」
玄関のタイルの上で、離れがたく抱き合う二人。
会社では「氷の部長」と「期待の若手」だけど、この一歩外に出るまでの時間は、世界で一番甘くて不器用な恋人同士。
なつは、自分にだけ見せるこの「弱さ」が、たまらなく愛おしいと感じていた。
コメント
1件
あーこれ……なるほど、そういうことか! 読んでて思わずニヤけたわ。 仕事モードの冷徹部長と、家ではなつにべったりで「嫌われたら仕事できない」って不安になるギャップ、完全に持ってかれた……。社内と自宅の温度差がありすぎて「同一人物かよ!」ってツッコミ入れたくなるんだけど、その弱さを見せてくれるのがまた愛おしいよね。 なつの「30秒だけだぞ」の優しさにもグッときたし、バトル一辺倒の俺みたいなやつでもこういう関係性の話は素直に刺さるわ。続きも読みたい!