部活動の生徒の為に開けてある校門。
容易く入れる校舎。
いつもと違う物音ひとつない静まり返った教室。
私は真っ直ぐに黒板の前に立った。
白のチョークを右手に持つ。
汚れなどひとつも無い程に綺麗な黒板にチョークの先を触れた。
ゆっくりと文字を書いていく。
後ろで彼女は静かに笑っている。
黒く濁るような雰囲気を浮かべて。
彼女らしく無いけれど受け入れられる自分が憎い。
「これでいい?」
「うん、ありがとう」
自転車を走らせた。
行き着く場所など考えずただひたすらに。
彼女も私も一言も話さない。
いや、話そうとしない。
彼女が自転車を止める。
「紗季!」
振り返り彼女の方を見る。
「海、行かない?」
素足を水に着ける。
ひんやりと冷たくて涼しい。
足の感覚が麻痺しているのが分かる。
足で飛ばした水飛沫が陽の光を充分に浴び輝いている。
彼女は子供のようにはしゃいでいる。
心の底から笑いが込み上げてくる。
楽しいという感情を思い出したように私は笑う。
彼女が足を滑らして頭から水を被った。
「ふはっ、っふ、はははっ!」
「楽しいー!」
全力の笑顔で笑う彼女を見てほっと安心した。
彼女はひまわりのように笑う。
その笑顔が一番似合うと思う。
水を掬い私へ飛ばす。
光るように飛ぶ水飛沫に見とれてしまう。
私の顔に水がかかっているのも忘れて頭がぼーっとしてしまう。
「紗季、?」
彼女が私の名を呼ぶと共に意識が戻るように鮮明に視界が映る。
「あ、濡れてる。」
「紗季ってさ、やっぱ面白いね。」
そう言って私を興味深そうに見る。
そしてふわっと笑った。
日が暮れて来た。
赤い日が水平線に沈んでいく。
私達はまたサドルに股がり学校へと自転車を走らせた。
部活終わりの生徒が続々と帰って行く。
自転車を無造作に停めると小走りで校舎の中に入った。
階段を駆け上がり屋上の戸まで辿り着いた。
ドアノブを回すも空いておらず隣に取り付けてある窓の鍵を開け彼女を引っ張り行くことに成功した。
少しずつ陽の光が落ちていくことが分かる。
「それじゃあ、行こっか。」
私と彼女はフェンスを超えた。
「せーので降りよう。」
「行くよ?せーのっ、」
私はその時勢いよく彼女の背中を押した。
彼女は私の顔を見開いた目でじっと見る。
「 」
「私もだよ」
それだけ返して私は家に自転車を漕いで戻った。
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