テラーノベル
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数日後。
こさめは初めて、死刑囚たちの労働監視を任されていた。
作業室には重たい空気が漂っている。
時計の針の音。
紙をめくる音。
誰も無駄話なんてしない。
こさめは緊張したまま、部屋の端に立っていた。
🦈「……うぅ、胃いたい……」
小声で呟く。
すると少し離れた席にいたすちが、くすっと笑った。
🍵「顔真っ青だよ、こさめくん」
🦈「だ、だって怖いんだもん……」
🍵「大丈夫。そんな食べそうな顔してないよ、みんな」
🦈「それ慰めになってます……?」
すちが小さく肩を揺らす。
そんなやり取りをしていると、少しだけ緊張がほぐれた。
その時だった。
ガタン!!
突然、大きな音が響く。
一人の男が椅子を蹴り飛ばして立ち上がった。
男「ふざけんな……!!」
低い怒鳴り声。
空気が一瞬で凍りつく。
男は荒い息を吐きながら机を叩いた。
男「なんで俺らがこんなこと……!」
他の囚人たちが視線を逸らす。
こさめはびくっと肩を震わせた。
🦈「お、落ち着いてください……!」
声が上擦る。
男はぎろりとこさめを睨んだ。
男「新人かよ」
🦈「っ……」
男「なめたガキ寄越しやがって」
男が一歩近づく。
こさめは反射的に後ろへ下がった。
怖い。
足が震える。
でも止めなきゃと思った。
🦈「だ、だめです……! 座ってくださ——」
その瞬間。
男が勢いよく腕を振り上げた。
男「うるせぇ!!」
殴られる。
そう思った瞬間——。
ガンッ!!
鈍い音。
こさめの視界がぐらりと揺れる。
けれど痛みは来なかった。
代わりに、目の前に誰かの背中がある。
🦈「……すちさん?」
すちはこさめを庇うように前へ立っていた。
男の拳を腕で受け止めている。
🍵「やめなよ」
静かな声だった。
けれど、今まで聞いたことがないほど低い。
男が舌打ちする。
男「関係ねぇだろ」
🍵「新人相手に八つ当たりしても意味ないよ」
男「‥っるせぇ!!」
再び振り上げられる拳。
瞬間、すちは男の腕を掴んだ。
強く。
おっとりした雰囲気からは想像できないほど、鋭い動きだった。
空気が張り詰める。
男も一瞬怯んだように目を見開く。
その隙に他の看守たちが駆け込んできた。
「動くな!!」
怒号。
男は取り押さえられ、そのまま連れて行かれる。
作業室は静まり返った。
こさめはその場から動けない。
心臓がうるさいくらい鳴っている。
怖かった。
本当に怖かった。
🍵「……こさめくん」
すちが振り返る。
その瞬間、こさめははっとした。
すちの腕。
さっき拳を受けた場所が赤く腫れている。
🦈「あ……っ」
こさめは慌てて駆け寄った。
🦈「だ、大丈夫!? 怪我……!」
🍵「平気だよ」
🦈「平気じゃないでしょ!」
珍しく強い声が出る。
すちは少し目を丸くしたあと、困ったように笑った。
🍵「そんな顔しないで」
🦈「だって……!」
こさめの目にはうっすら涙が滲んでいた。
もし間に合わなかったら。
もし本当に殴られていたら。
想像しただけで怖くなる。
するとすちは、少しだけ目を細めた。
🍵「……守れてよかった」
その言葉に、こさめの胸がどくりと跳ねる。
🦈「え」
🍵「こさめくん弱そうだもん」
🦈「は!?」
ふっと笑う。
優しい、いつもの笑顔。
でもその奥に、一瞬だけ見えた。
冷たい目。
男の腕を掴んでいた時の、あの鋭い表情。
こさめは少し息を呑む。
今のすちは、本当に“危険”に見えた。
死刑囚なんだ、と。
初めて実感した。
なのに。
それでも。
怖いより先に浮かんだ感情は——。
🦈「……ありがとう、すちさん」
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