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まずは…やっぱ懐に入らないとな。チョロいと思ったけど、結構大変そう。隙ないし。ここに転校してきて、早々3週間がたつ。なのに、何だこの有り様は。もう、自分の弱いところは見せないって決めたのに。
「ああ〜…。ど〜しよ。」
そう。硝子と傑とは、この3週間のうちに仲良くなった。そのほうが、この先ここで上手くやっていけると思ったから。
それにしても、一日中口角を上げ続けるのは疲れる…。
演技が苦手な訳では無い。むしろ得意だ。まだ小さいときに、両親が出ていった後、周りを騙すために毎日のように偽りの笑顔を作っていた。
気を抜けるのはこの部屋の中くらいかな。
休める時間がないからか、私は一人の時間を好むようになっていた。
ふと鏡を見てみる。鏡を見るのはいつぶりだろう。身だしなみなんてここ最近気にもしなかった。そこに映る顔は、正直結構可愛い。その可愛い顔に、どこかミステリアスな感じがして、大抵の男は惚れる、そんな顔だ。
でも、私はこの顔があまり好きではない。この顔のせいで、私に寄ってくるやつらは外見しか見てない。私が出会った人々の中で、中身を見てくれた人は、いない。
まあ、いっぱい男と遊べるのは、この顔のおかげなんだけどね。
「あ…そろそろいかないと」
これから実践練習だ。私の術式の。
私の術式は、「伏霊操術」という。
私は、自分より弱い、つまり自分より呪力量が少ないやつを、服従させることができる。そして、好きなように操ることができる。伏兵みたいに。さらに、その服従させた相手の術式や呪力を吸い取って、今後自分のものとして使うことができる。だから、私は今結構たくさんの術式を使える。もちろん、呪力を吸われた相手は、もう術師ではなくなる。呪霊が相手でも同じだ。
まあ、呪術界では結構強いほうだとは思う。
でも、私が強いのは自分より弱い相手と対峙したときだ。自分より呪力量が多いやつと対峙したら、自分が強いということを証明しなけれならない。それはつまり、その敵を倒すことを意味する。倒すことができれば、その相手の呪力を吸い取り、術式を使うことは可能だ。
おっと、説明が長くなったかな。そろそろいかないと怒られる。
夜蛾先生が
「配置につけ。」
という。今日の相手は五条か。しんどいな。
「ああ。今日は術式はなしだ。」
「は?」
術式の練習するつもりだったのに…。こいつには体術では勝てない…。
「はあ〜?術式使っちゃいけねぇ〜の?つまんなぁ〜」
珍しくこいつと意見が一致した。
「グダグダ言ってるんじゃない!悟」
「へいへい」
「では…はじめ!」
結果は…。0勝3敗で私の負け。仮面の顔を保ちながら、よりによってこいつと体術で戦うとか無理ゲー…。
もうすっかり夏なので、結構暑い。
「あっち〜」
そう言いながら、服をパタパタさせている五条。私もそれに合わせて、
「そうだね〜。あっつ〜い!」
「…」
なんで黙るんだよ。完璧な笑顔だったでしょ?惚れたの?ていうか疲れてるから話しかけないで。
そんなことを思っていると、あいつが
「ジュース買いに行こーぜ〜」
と言ってきたので、私は軽くおっけ〜と言って、ついて行くことにした。ほんとは一刻も早く部屋に戻り違ったけどね。
そこは、校舎の裏だった。そこに、いくつかの自販機がズラーっと横一列に並んでいる。
五条はその中のひとつ、端の自販機に向かっていき、ボタンを押す。私も、同じ自販機でジュースを買った。ガコンッとジュースがでてきたので、それを取るために自販機に近づく。
そのとき、私に影が覆いかぶさった。
「ひゃあっ」
しまった。声が出てしまった。しかも結構大きな声で…。気が緩んでるのかな。
恐る恐る振り向くと、五条が肘から手までを自販機にもたれさせ、私の方を見下ろしていた。
「五条くん…?」
すると、今度はそのままもう片方の手を私の手に絡ませてきた。やっぱ手のつなぎ方上手いなこいつ。きもちいい。手がこすり合わさって、ビクッとする。
「んっ…」
あ、また声出ちゃった。私の耳が赤くなる。こいつに変な声聞かれるとか最悪なんだけど…。
五条は、私の声が聞こえたのか、表情をニヤッとさせて、私の手に指をこすり合わせたり、なぞったりし始めた。
さらに、私のもう片方の手を、自販機にもたれさせてる手で握ってきた。
えっ動けないんだけど。
抜け出そうとして動くが、本当にびくともしない。そして五条はというと、そんな私を見て楽しんでいる。なんなのこいつ。
でも、なんだか様子がおかしい。大量に汗をかいているし、顔が赤く、おまけに息まで荒い。もしかしてこいつ…
すると、今度は顔を近づけてきた。何がしたいんだ?てか、これ…
今気づいた。その状況他のやつに見られたらヤバくない?ぱっと見私がこいつに襲われてるようにしか見えないんだけど。
それにしても、年頃の男女って、ちょっと体が近づいても熱くなるもんなんだな。ただでさえ暑いのに、そこには一際しっとりとした、熱い雰囲気が流れていた。
どんどん顔が近づいてくる。
もうあいつの息も感じられる所まで来た時。
ドサッ。
五条が私に覆いかぶさってきた。私も、その重みで崩れ落ちて、座り込んだ体制になってしまった。
え、大丈夫?こいつ。
五条は、はあはあ言いながら、私の手を握ったまま片方の手を自販機にもたれさせている。
やっぱり…。
「五条くん、熱中症?」
声が出せないのか、五条はこくんっと小さく頷いた。苦しそう…。ああ、もうめんどくさいんだけど。
携帯をとろうとするが、片手しか使えない上、五条が覆いかぶさっているので、上手く動けない。
「…どうしよ。」
そろそろ私も暑いんだが。ああ…どうしよ。
クラクラしてきた。
すると、コンっと私の手に冷たいものが当たった。さっき買ったジュース。
そうだ、これを五条に飲ませよう。
あいつもジュース買ってたよな。どこにあんの?まあいいや。これを2人で飲めばいいし。
「五条くん、口開けて」
五条にジュースを飲ます。ちょっとはましになったみたいだ。
「ありがとう…まじ死ぬかと思った」
え…こいつさっきまで私にしてたこと忘れてんの…?結構やばいことやってたよ。もう帰りたいんだけど。
うう…頭が痛い…多分今顔めっちゃ赤い。
私の頭がガクンっと倒れた。あ、やばいかも。どんどん意識が遠のいてく。
「…ぁ…ね!ぉぃ!」
あいつの声が聞こえる。こうなったのは全部お前のせいだからな。私の金で買ったポカリも奪いやがって…160円返せ…。