この作品はいかがでしたか?
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店を出るとコリンが急に提案した。
「アザレ、植物園で皇帝ダリアが見頃らしいんだが、見に行くか?」
花が好きなので嬉しいお誘いだった。アザレアは大きく頷く。するとコリンも笑顔になった。
「よし、じゃあ行こう」
と言って、手を取ると植物園まで移動してくれた。
植物園はほぼガラス張りの丸みのあるフォルムで、横に長い建物だ。中央はドーム状になっており、そこに入り口、左右の長いガラス張りの部屋に亜熱帯植物園、中央のドーム内を直進して外に出ると、奥には広い庭園があり、四季折々の花が植えてある。
今の時期はコリンの言っていた通り、様々な種類の皇帝ダリアが咲き誇っていた。アザレアはゆっくりみて回った。花はいくら見ていても飽きることはなかった。
アザレアがそうしている間、コリンは鑑賞の邪魔をせず、優しく見守るように後ろからずっと静かについてきてくれた。
「ごめんなさい、付き合わせてしまって」
アザレアがそう言うと、コリンは微笑んだ。
「いや、俺も楽しませてもらってるから大丈夫。それより、歩いて疲れてないか?」
と言われ、自分が若干の疲労感を感じていることに気づいた。
「そうね、少しやすみましょうか」
そうアザレアが言うと、コリンはアザレアの手を引いて近くのベンチまでエスコートした。そして、お互いベンチに座ると、そこでコリンが大きく息を吐き呼吸を整えた。アザレアは、コリンが疲れてしまったのかと思い訊いた。
「どうしたの? 大丈夫?」
コリンは前方を向いたまま言う。
「大丈夫、好きな女性といるから緊張しているだけだ」
そしてこちらを見た。アザレアは、思わず目を反らす。コリンはまた前方を向く。
「さっきはミナさんに怒られてしまったからね、あれは確かによくなかった。だから仕切り直そうと思って」
そう言うと、アザレアを見つめた。
「アザレが好きだ。もうずっと前から愛してる。だが、君が昔から殿下を好きなのも知ってたし、見守るのが一番いいとわかってた。でも、今思うのは、あの時ああしていいれば、こうしていれば、そんなことばかりだ」
そう言ってまた前方を向いた。そして、自嘲気味に笑った。
「本当に今更だな」
しばらく沈黙が続いた。そしてこちらを向いてアザレアを見つめる。
「すまない、今こんなことを君に言っても、君は混乱するだけなのに。でも、考えてみて欲しい。君は目立つことは好きじゃない。どちらかと言うと読書やこうして花を愛でてゆっくり過ごす時間を大切にしているはずだ」
確かに言われてみればそうだ。アザレアが頷くと、それを見てコリンは続ける。
「俺と結婚すれば、本を読んだり好きな花を育てたり、そんな穏やかな生活を過ごすことができるんじゃないか? それに、俺はずっとこれからも君を愛し続ける。俺は君を大切にする。若し一緒になったら絶対に君を幸せにしてみせる。そう約束するよ」
そう言うと、ベンチから立ち上がった。
「返事はしないでくれ。いつまでかかったっていい、君の中で答えがでたら返事をくれればいいから」
そして、手を差し出し言った。
「さて、王宮にもどろうか」
アザレアはコリンの手を取り頷いた。その後はお互い無言で王宮へ戻った。
王宮に着き部屋の前までアザレアを送り届けるとコリンは言った。
「今日はアザレにゆっくりしてもらうつもりが、俺の一方的な気持ちばかり押し付けてしまって申し訳なかったね。ただ、伝えておきたかった。明日からも普通に接してくれ、おやすみ」
そう言うと、振り向きもせずに去っていった。
アザレアは夕食を済ませると、部屋でお茶を飲みながら色々なことをゆっくり頭の中で整理した。
コリンについては申し訳ないが、今は考えないことにした。対処しなければならないことが多すぎて正直考える余裕がなかった。
まずは、カルがアザレアに隠し事をしていることについて、一度カルとちゃんと時間を取って話をしなければならないと思った。
仕方がないこととはいえ、アザレアの知らないうちに、知らないところで色々なことが起きているのは嫌だったからだ。アザレアは近々必ずカルと話せる時間を作ろう、そう思いながら眠りについた。
ほどなくしてその機会は訪れた。その日、午前中の講義がヒュー先生の都合で休講となったからだ。今日しかない、とアザレアは朝食後にカルの元へ向かう。
おそらく、フランツもカルと一緒に色々と調べているのではないかと考えられたので、カルとフランツの二人が揃ったところで話を聞ける執務室を訪ねることにした。
部屋をノックし、執務室からの返事を待ち入室の許可をもらう。ドアを開けると狙い通りフランツもその場にいた。カルは机の上の書類から顔を上げてアザレアを見ると微笑んだ。
「君が執務室まで僕を訪ねてくるなんて、珍しいな、嬉しいよ」
アザレアも微笑んだ。
「忙しいところにごめんなさい」
そう言うと、早速本題に入った。
「カル、私の身辺について少し訊きたいことがありますの。お時間よろしいかしら?」
カルは頷く。
「ああ、もちろん。今日の午前中は休講だしね、それはかまわないよ。何か難しい話しかな? とりあえずそこに掛けて」
かるはそう言って執務室内の応接セットに座るよう促した。
「失礼しますわ」
アザレアが皮張りの座り心地の良いソファに腰かけると、カルもこちらに移動し正面に座った。まもなくメイドがお茶を持ってきた。
「フランツにも、話を聞いていてほしいんですの」
そう言うと、カルがフランツに向かって頷き、それを見てフランツも頷く。アザレアは口を開いた。
「まず、最近になって以前からずっと王宮の用意した護衛をつけられていたことを知りましたの」
カルは渋い顔になった。
「黙っていたのは申し訳なかった、あれは」
アザレアは右の手のひらをカルに向けて、話すのを制した。
「黙っていた理由は知ってますわ。それについてはしょうがなかったと思います。ところでどうやって、私がお忍びで外出していたことに気づきましたの?」
そう訊くと、カルは少し笑って答えた。
「君と食堂でご飯を食べたあの日、城下町を警備していた衛兵から報告があったんだ『城下町を左目が赤いオッドアイの娘が歩いてる』とね。すぐに君のことだと気づいた。そんな瞳を持つ人間は、この国では君しかいないからね」
そう言ってカルはソファに深く座り直すと、そのまま話を続ける。
「その後、一度はファニーからも報告があった。あとはイヤリングで場所を突き止めたりしていた。神出鬼没の君を補足するのは苦労したよ。君が王都に戻って来てからはシラーから情報をもらっていたから、問題なく補足できたが。でも、そのお忍びの護衛を請け負うことで、君のお父上であるケルヘール公に恩を売ることができたからね。君がちょくちょく城下町に出てきてくれて良かった」
そう言って微笑んだ。やはり以前王宮に向かう馬車の中でカルが『君のお陰でケルヘール公爵に借りを作ることができた』と言ってたのはこの件についてだったのだ。
アザレアは思いきって言った。
「正直、私に護衛をつけるのはしょうがなかったとして、それを|私《わたくし》に話してくださらなかったことが少しショックでした。もう少し私を信頼して下さっても良かったのではないでしょうか。それと、私を暗殺しようとしている者に関して調べているなら、話してください」
カルは一瞬驚いた顔をした。
「君がハッキリ自分の意見を僕に言ってくれたことが、私は心から嬉しいよ。それに、私は君を守ることに精一杯で君の気持ちを無視していたね。また同じ過ちを犯すところだった。私たちは一緒にいる時間が長かったのに、ちゃんと会話できていなかったんだね。申し訳ない」
そう言って、頭を下げる。カルに言われて自分でもちゃんと意見を言えていなかったことに気づき、アザレアもカルに謝った。カルは首を横に振る。
「君が怒るのも当然なのだから、謝らないでくれ。順を追って説明するよ」
そう言ったあと、少し目を閉じて何事か考えこんだあと、アザレアをまっすぐ見つめて話し始めた。
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