青年は魚の焼く匂いがする方に向かい、柵に繋がれた小船からサバサンドを二つ買った。旅人と共に海峡際の欄干に陣取ると、向かいのアジア大陸に、モスク、建物、船着場が見える。行き交う船の腹にはローマ字以外の文字も見られる。桟橋から対岸への連絡船が出発した。航蛇がつくる紋が増強しあい、打ち消しあい、サバサンドの小船が上下している。青年の足元の、コンクリート護岸まで波がやって来る。黒い所は、波が上陸したところだ。
サバサンドから出る油が包装紙から漏れ、手首に伝う。
「この街、着いたばかりの頃はヨーロッパにしか見えなかったですよ」
旅人は左方向の金角湾の向こうに見える、中世ジェノバ人が造った塔を仰いだ。続いて、正面のアジア側に見えるイスラムのモスクに目を移した「でも、不思議と今はアジアに見えます」
「とんでもない。ここはヨーロッパですよ」青年は波しぶき跡が白みだした足元を踏んだ「ここからこっちは」
青年は、この海峡を境に向こうがアジア大陸、こっちがヨーロッパ大陸だと付け加えた。
「でも、宿のオーナーは、イスタンブールはアジアだって言ってましたよ」
「トルコ人の言うことなんか信じちゃダメだよ」と青年は答えた「あとで証拠を見せますよ」
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