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深い森の中、苔むした井戸の周りをローブの女達が手を繋ぎ、ぐるぐると周っている。
その傍らには祠があり、剣を天に掲げた赤いローブの女性が膝まづいている。
「・・・・・・」何を発しているか分からないが、もごもごと口元が動き経文のようなものが聴こえる。
井戸の底からは、くぐもった叫び声、いや怒声だろうか、この世のものとは思えないほどおぞましい声が聞こえてくる。
井戸の中の何かが叫ぶ度、ビリビリと空気が震え、草木がざわめく。
徐々に女達の唱える呪文のようなものも大きくなり、儀式の終わりが近づいていることを感じる。
そして赤いローブの女性が、「・・・・・・!」何かを叫び、祠に剣のようなものを突き刺した。
その瞬間、地の底響く獣のような叫び声が上がり、女達の儀式、祈りの声も止んだ。
そこで目が覚める。冷や汗で枕と布団がびしょびしょだ。「また、この夢か…」ここ最近毎日おかしな夢を見る。地の底から響くようなあの声が耳から離れない。
玄関のチャイムが鳴り、「おーい!猛!行くよー!」奈美の呼ぶ声がする。そうだった、今日はキャンプに行く約束をしていたんだった。
俺は九州の片田舎に住む大学二年生、夏休みに入り、彼女の奈美とキャンプの計画を立てた。目的地は、島根の山奥にあるキャンプ場。
素泊まりができる&奈美の出雲大社に行きたいという要望から選んだ。
奈美を部屋に入れ、俺はシャワーを浴びた。「早くしてよ〜」奈美がすりガラス越しに急かしてくる。
シャワーを終え、身支度を整えリュックを背負う。
「お待たせ奈美!行こっか!」
新幹線で約五時間、島根県出雲市に到着した俺たちは、出雲大社に向かった。神在月(神無月)に全国から八百万の神々が集まり神議が行われることで有名な出雲大社。今では縁結びの神様としても有名だそうだ。
「出雲大社すっごいね〜!見て見て猛!おっきな縄があるよ!」奈美が指さす方を見ると、たしかにとてつもなく大きな縄があった。「でかいな!大注連縄って言うらしいよ。重さは五トンもあるんだって」「ご……五トン?」奈美が口をぽかんと開ける。
手水舎で身を清め、お祈りをしようとする。「出雲大社は二礼四拍手一礼なんだって!猛知ってた?」「そうなんだ、初めて知った、なんでなんだろ」「さあ?わかんない!」奈美がにこにこ笑っている。
俺は気を取り直してお祈りを考える。ここは無難に健康祈願だろうか、いや縁結びにまつわることがいいのだろうか。迷っているうちに奈美は目を瞑り手を合わせている。「よし、決めた」俺も願いを込めて祈る。
「猛は何お願いしたの〜?」奈美が顔をのぞき込むように聞いてくる。俺はそっぽを向き、聞こえないふりをする。「え〜けち!」口を尖らせる奈美。そんな子どもっぽい部分を可愛いと思ってしまい、なんだか負けた気持ちになった。
「よ、よしじゃあキャンプ場に向かおっか」「そうだね!楽しみだな〜」
バスで揺られること一時間、山奥のキャンプ地に到着した。敷地は広く、平家のコテージが六つと管理棟兼食堂が一つある。
「うわ〜空気が綺麗だね!マイナスイオン浴びないと!」奈美がぱたぱたと顔を仰ぐ。
「たしかに空気が美味しいね」
管理棟で鍵を借り、コテージの扉を開ける。木製の独特な香りが鼻を抜ける。ワンルームとキッチンの着いた簡素な作りだが、日当たりもよく過ごしやすそうだ。