テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
私は知らぬと沼に自発性異常味覚になっていた。
いつからなっていたのだろうか。
仕事はいつも忙しくて夜遅くに帰っては、朝の時に作った料理を冷蔵庫から取り出し、1人寂しく食べている。
私には家族がいるけれども、こんな夜遅くの深夜に子供や夫と触れ合う機会なんてほとんどなかった。
休みの日に一緒に公園に行ったり遊園地をしに行くだけ。
子供の世話はほとんど帰りが早い夫に頼んでいるので子供は少し夫に親しみがあった。
朝起きて顔を洗ったあとに鏡をみる。
目の下にクマができ、目はたるみ、顔は笑顔一つもなく無表情の自分が映っていた。
鏡を見続けていたら夫が壁にぶつかりながらここへ走って来たのを見た。
「美紀!さえが..!」
水を出しっぱなしにして洗面所を後にして子供のさえの所に走っていった。
「さえ!さえ!大丈夫!?」
「目を開けてるのに反応がないんだ!それにおしっこが漏れてる..!」
「あぁ…うぁ…」というさえの精一杯出している声を聞いて涙がぶわっと流れてきた。
急いで救急車に来てもらい、搬送されていった。
会社を休むように電話をしようとした…
手が滑ってスマホを落としてしまった。
「あ…あれ..?」突然な事に不安を抱いているのかと思ったが違った。
会社側からなんて言われるのか怖い。
職場に戻ったらなんて言われるんだろう…?
不安要素を何百通りと想像ができる程に。
結局会社にそのまま行くこととなった。
夫は「大丈夫。俺が見とくから。」
と言ってくれたものの、さえが心配で仕方がない。
仕事を終えてまた深夜になった頃、さえの入院している病院に向かった。
電車で向かっている途中、お尻を誰かの手で触られたようで、痴漢にあったような気がした。
必死に我慢して、電車を降り、急いで病院へ向かった。
「さえ!!」
さえはベッドに横たわっていた。
夫はさえの手を握りながら上半身をベッドへ倒れ込んでいるように寝ていた。
下半身麻痺、感覚障害など、様々な後遺症が出ているらしい。
医師からその言葉を聞いて泣き崩れた。
神様…私の子供は何もしていません..なのに何故…こんな無惨なことが出来るのですか…
いつの間にか我が家のベッドにいた。夜は明けて朝日が直接私を照らしていた。朝を知らせる太陽に嫌気が差した。
急いで家事をし終えて、朝食を食べようとした。
その時に起こった、私にも襲いかかる不幸。
「苦い…」
全ての食べ物が負の味しか感じられなくなっていた。
「何…これ…」
先が真っ暗になるよな気がしてフラフラと目が回ってきた。
その勢いで手を振り回し、皿を割った。
パリィン!という割れる音に夫が気づき、
「どうした!?」さえの事があったから不安気に駆け寄ってきた。
「味が…味が無くなったの…!!」
さえと同じ病院に行き、診断をしてもらったところ、強いストレスによって特定の味しか感じられなくなっていたそうだ。
カウンセリングを受けながら生活を続けていれば治るそうだ。
その言葉に安心はした。
治らない障害なら私はどうしていいのか分からなくなっていたと思う。
肩を落として上を向いた。
帰る途中、夫が不安気に聞いてきた
「もしかして、家族関係に不満でも…あったか…?」
「あぁ!いや!!ちょっと…疲れただけだよ…家族が嫌だなんて思ってないよ…」
「そう…だよな。」
気まずい空気感がじめじめと空気を重くしていった。
突然の事で会社に休みのことを伝えるのを忘れていた。
スマホを見ると同僚からの鬼電がかかっていた。
「通知…134件…」
【ごめん、突然味覚障害になっちゃって病院に行ってたの。報告出来なくて、ごめん。】
[病院行ってる間に報告してくれればよかったのに。]
【本当にごめん。障害の事で頭がいっぱいで…考え込んじゃってて…】
[もう過ぎた話なんでいいんだけどさ、仕事俺に擦り付けられたから早く戻ってきてくださいよ。仕事量半端じゃないから。 ]
【うん。お世話かけるけど、今日家でちゃんとやっておくから、内容送ってくれないかな?】
[はいはい、コレやっといてくださいね。じゃ、明日また会社で。]
送られてきた資料などかどっと出てきた。
「こんなに今日仕事あったの…?」
徹夜のつもりで仕事をこなし続けていた時…夫がヒョイっと顔を出して
「あんま、仕事せずに休んだ方がいいよ。ストレス溜まるばかりだからさ。」
「あ、うん。ありがと。」
そうだった。ストレスが原因でこうなったことを忘れかけていた。
「少し休憩入れようかな…」
そのまま後ろに倒れ込み、寝てしまった…
気がつく時には遅かった。
「朝の…4時…?」
「まだ仕事終わって…!?ない…。」
今日は最悪の日だ。上司に怒られ、同僚にも飽きられ、しまにい昼食の弁当は苦いだけ。
ストレスが蓄積し続けていた。
快楽なんてものはひとつもなかった。
この職場で助けてくれる人は誰一人もいなかった。
頼れるのは私の夫だけ…
昼食を食べていた時、とある社員が旅行から帰ってきて、お土産としてヨーグルトを持ってきてくれた。
「おっ!これ中々手に入らない超レアなやつじゃん!ありがと!!」
みんなが目を輝かせてそのお土産に食いついていた。
社員全員に配られ、勿論私にも配られた。
でも旨みという味が今では分からない私にそんな物は要らなかった。
(帰って夫にでもあげよう…)
そう思い、自分のエコバッグに入れようとした瞬間、
「あれ?先輩食べないんすか?」
と同僚が口を出してきた。
「えーっと…ちょっと弁当でお腹いっぱいになっちゃって…」
「でもまだ弁当半分しか食べてませんよね ?」
「もしかして他人からもらった物は食べないタイプですか?」
みんなの視線がジロジロとこちらの方へ注目してきた。
「一口だけなら…」
「いやー全部食べてくださいよ。せっかくくれたんだし。」
「う..うん。」
パクっとヨーグルトを口の中に入れた瞬間
案の定苦味が舌を攻撃した。
今にも吐き出しそうだが、その追い討ちをかけてきたのがヨーグルトのドロドロだった。この気色悪いドロドロとした感じが人が食べていいようなものではないと感じつい
「うっ…」と吐き出してしまった。
みんなは
「え?」というような表情になった。
その日から私はケチおばさんと言うようなあだ名がついてしまった。
お土産を渡されるとその場で吐き出してしまうような味にケチをつけるような人だと思われてしまった。
同僚からも距離を置かれ、社員からも、誰もが私からの目を背けた。
ついには社内でいじめが勃発し、日に日にエスカレートして行くようになった。
居場所がない私は休みの時にはいつも屋上で日を浴びていた。
太陽は嫌いなのに今は好きになっていた。
誰もが自分を嫌いになった時、自分は嫌いな人を好きと思うようになるのだろうか。
そんな訳の分からない考察までするような頭になってしまった。
「どいてください。」
空を眺めていたら突然女性三人組の人達が私に向かって言ってきた。
「ここ、私たちのスペースなんですけど。」
「邪魔。」
ドンと手で押されてフラっとよろけるように私は後を引いた。
頭が段々とフラフラしてきた…
あれ…ここどこだっけ…
目が…くらくら…してき…た…
ガジャァン!という音とともに私は屋上から落下した。
女性三人組の1人が落ちる様子に気づいて
「キャァァァァァ!!」と叫んだ。
転落防止の柵と一緒に私は落下ー
第四感覚【味】〜完〜