「……っは?」
「まぁでも、今のテメェに拒否権はねぇ」
ぞくりとするような冷たい声で、囁かれる。
思わず全身を凍らすと、突然、ぐいっと腕を引っ張られた。
そのまま強引に倒され、倒れた拍子に腰を痛めた。
「っ!」
腰の痛みに一瞬だけ顔をしかめると、その一瞬のうちに、棪堂が腹の上に乗っかり、馬乗りになった。
「っおい!どけ!」
「…..桜ァ….」
奴の息遣いが、間近で感じられる。
ぞくりとした悪寒が、背中を這った。
「っおい!やめろ!棪堂!」
必死に抵抗しても、奴はビクともしない。
次第に恐怖が、足元から襲ってきた。
狂気に満ちた目に、囚われる。
それは愛おしそうに、けれども獲物を狙うように、殺意が混じった狂気。
「……おい…..っ」
「桜。愛してる」
___ゾワッ
全身の毛が、逆立った。
そんな狂気に乱れた愛、誰が必要とするか。
きっとコイツは、俺をその殺意と愛に満ちた身体に捕えて、ぐちゃぐちゃに殺すんだ。
そう思わされる程、奴は異様な空気を漂わせていた。
「…..っ離せ!!」
ドカッ!
嫌悪感に身を任せ、震える体で棪堂の腹を蹴る。
すると棪堂の巨体は中空を飛び、砂ぼこりを立てて地面に叩きつけられた。
奴の頭が強く叩きつけられ、一瞬だけ棪堂の動きが止まる。
その、一瞬。
その一瞬を利用して、俺は立ち上がって走り出した。
___逃げるなら、今だ。
1人で闘おうなんて、微塵も思わなかった。
こんな狂気に満ちた奴、誰が相手にするか。
コイツはもう、人じゃない。
___化け物だ。
走って走って、走った。
足に少し痛みが走ったが、構わず走った。
逃げなきゃ。
それだけが、頭に残った。
痛む足を庇いながら、走り続ける。
そうして、やっと出口が見え始めた。
眩しく、輝かしい光に向かって、走る足を速めた。
その時だった。
「_____逃げらんねぇよ、さーくら♡♡」
バンッ!!
後ろから頭を掴まれ、思いっきり壁に叩きつけられた。
途端、激しい痛みが顔中に広がる。
「っぐあ!」
「逃げようなんて、考えんな?」
痛みに耐えきれず、思わず尻もちをつく。
棪堂は座り込んだ俺に目線を合わせるようにしてしゃがむと、にたぁ…っと笑みを浮かべた。
「____お前は、一生俺のモノだ」
「_____っ!!」
逃げられない。
本能が、そう叫んだ。
今まで感じたことのない程、むせあがるような恐怖が、体中を這う。
っと___。
「____っ」
「おっ!さすがの桜でも、あの一撃は効いたか」
棪堂の言う通り、あの一撃がかなり効き、瞼が重くなってきた。
次第に視界は暗くなり、頭もぼーっとしてきた。
薄くなっていく意識の中。
暗い視界に映る奴の顔は、ずっと笑っていた。
コメント
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☆+☆)/マヂサイッコーデス😭👍✨