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数々の店舗を時間の許す限り回ったけれど、あの女性スタッフさんが話していたように、どこへ行っても蓮水CEOの来店は喜ばれた。
「今日は、疲れただろう」
帰りの車の中で、そう気遣いの言葉がかけられて、
「いえ、まったく」と、答えた。
「大人気なのを見せていただいて、感服しちゃいましたし」
「そんなに人気だっただろうか? 私が?」
助手席で腕を組んで考え込む仕草に、(そういうおごらないところが、人気なんですって)と、密かに思った──。
──家でひとりテレビを見ていると、紳士服HASUMIのCMが流れてきた。
新たなカラーが発売されたことを知らせる映像に、こないだの新作発表会で目にしたビジュアルが重なる。
「あっ、あの時のスーツ…」
蓮水さんが着ていたスーツをモデルの方がスタイリッシュに着こなして、画面に映し出される。
(モデルさんもすごくカッコいいけど、でもやっぱりあの人の魅力には敵わないよね)
ステージ上から送られたウィンクがにわかに思い出されると、また顔が熱っぽく火照ってくるのを感じた。
「ダメだな……。私ったら、ますます惹かれちゃいそうで……」
独り暮らしの部屋でぽつりと呟くと、(あの人は、こんな風に全国的にCMが流れるような有名メーカーの責任者で、しかもあんなに人望も厚くて。なのに自分は、どこにでもいるような一般人でしかないんだもの)と、大きな溝が目の前に横たわるのを感じた……。