玲央は夜の研究所の片隅にいた。ゼノたちはすでに部屋へ戻り、研究所内は静まり返っている。今なら自由に動ける時間だ。
(……このチャンスを逃すわけにはいかないねぇ。)
玲央は慎重に部屋を抜け出し、研究所の隅にある古い無線設備に向かった。これはゼノたちがほとんど使っていない旧式の通信機器。
(ゼノたちのメインの通信機器を使うのは危険すぎる。こっちなら、うまくやれば気づかれずに済むはず。)
玲央は静かに装置の電源を入れる。電子音がかすかに響いた。
「……さて、どこに繋がるかねぇ。」
慎重にダイヤルを回し、千空たちが使っているはずの周波数を探る。しかし、しばらく試しても何も聞こえない。
(……まずいねぇ、千空たちはまだこの周波数を使ってない?それとも、範囲外か?)
焦りを感じながらも、玲央は諦めずに微調整を繰り返した。そのとき——
——ガガッ……ザー……ザー……
かすかにノイズの中から声が聞こえた。
『おーい、誰かいるかー!?』
クロムの声だ。玲央は一瞬、息をのんだ。
(……繋がった!)
「……ノってきたねぇ。」
『!?!?!?』
無線の向こうで何かがガタッと倒れる音がした。
『えええええええええええ!?!?』
クロムの絶叫が響く。
『おいおいおいおい!?マジかよ!?玲央か!?生きてたのか!?』
「まあねぇ。」
その瞬間——。
『待て。』
今度は千空の低い声がした。いつもの軽い調子ではなく、警戒心に満ちている。
『名乗れ。お前、本当に玲央か?』
玲央は軽く肩をすくめた。
「玲央以外に、こんな喋り方する奴がいるかねぇ?」
『証拠を出せ。』
「はは、疑り深いねぇ。じゃあ、あんたにしか分からないことを言ってやるよ。」
玲央はニヤリと笑った。
「昔、石神村で最初にライブをしたとき、最前列で”うるせぇ!”って叫んだのは誰だったかねぇ?」
『……』
無線の向こうで一瞬沈黙があった。
『……チッ、間違いねぇな。』
クロム「千空、それより玲央が生きてたんだぞ!?すげぇだろ!」
カセキ「ほえええ……玲央ちゃん、ほんに生きとったんかいのう……!」
スイカ「玲央お姉ちゃん……!」
ゲン「いやー、これは驚きだねぇ!まさか玲央ちゃんから通信が来るとは!」
しかし、千空だけはまだ警戒を解かない。
『……どこにいる?』
玲央はわざと軽い調子で答えた。
「まあ、そっちからはかなり遠い場所だねぇ。」
『……』
千空の沈黙。
クロム「え、どこにいるんだよ!?早く教えてくれよ!」
ゲン「そうそう!迎えに行けるなら、行くべきだよ!」
玲央は小さく笑った。
「それがさ……ちょっと、こっちを離れるのは難しくてねぇ。」
『……そっちに誰かいるのか?』
千空の声が鋭くなる。
玲央はほんの一瞬だけ考えた。
(ここでゼノのことを話すのは……まだ早いねぇ。)
「まあ……いろいろあるんだよ。」
『……そうかよ。』
千空は、それ以上追及しなかった。
『で、何が目的だ?お前、ただ生存報告したくて繋いだわけじゃねぇだろ。』
玲央はニヤリと笑った。
「やっぱり分かるかねぇ。……私は、そっちに戻るよ。」
『……戻る、ねぇ。』
千空は低く笑った。
『なら、一つ確認しておく。』
『お前、敵じゃねぇな?』
玲央は鼻で笑った。
「バカ言うんじゃないよ、千空。私は——」
「科学のライブに戻るつもりさねぇ。」
クロム「……!それって!」
ゲン「千空、これは……!」
千空は短く息をついた。そして——
『なら、協力してやる。』
玲央はにっと笑った。
(……さあ、脱出計画の始まりだねぇ。)
しかし、その瞬間——
ガシャンッ!
背後で物音がした。
玲央は即座に無線の電源を落とし、振り返る。暗闇の中、人影があった。
「……君、何をしている?」
玲央は一瞬、息をのむ。
(……やっちまったねぇ。)
玲央の脱出計画は、早くも危機に直面していた——。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!