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ヴィオラはベッドに座り、窓の外を眺めていた。
私は本当に歩けるようになるのか……。きっとこの場に、両親や兄弟姉妹は達がいたら鼻で笑うだろう。だが、それももうない。
「皆、いなくなっちゃったものね……」
唯一残っているのは、公爵家に嫁いだとされる姉のテレジアだけだ。会いたいかといわれたら、それはない。もう、何年も会っていないし、正直関心も無い。血の繋がった姉ではあるが、感情の上では他人と変わらない。
「レナード、さま……」
兎に角、レナードに会いたい。
彼は何故、こんな事をしたのだろう。彼にもう1度会えたら……理由を聞きたい。今は、ただそれだけだ。
悪人だーー
ふとした瞬間にテオドールの言葉が頭に蘇る事がある。
「そんな、ことない……」
あの笑顔も優しさも、全てが嘘だと思いたくない。だが現実は……。
◆◆◆
テオドールはヴィオラの部屋の前で立ち止まっていた。扉を開けようとした手はそのまま動かせない。
「レナード、さま……」
ヴィオラが切なそうに、あの男の名を呼んでいた。まさか、自分が誰かに嫉妬する日がくるなんて……自分で自分が可笑しく思う。
ヴィオラを初めてみたのは、この町の繁華街でだった。繁華街の中を男が少女を抱き上げ歩く姿はかなり目立ち、異様にも思え嫌でも目に付いた。
この町に立ち寄ったのは偶然で、長く滞在するつもりはなかったが、繁華街で見た少女の笑顔が頭から離れず、気になり暫く滞在する事にした。我ながら単純だとは思う。
また、別の日も彼女は男に抱き抱えられながら、買い物をしていた。
彼女は歩けないのだろうか……。なんとなく、そんな事が頭を過ぎった。
テオドールは、繁華街へ毎日のように足を運んでは少女を探した。そして数日に1回、男と少女は姿を見せた。テオドールは特に何をする訳でもなく、遠目で2人をただ眺めていた。
そしてテオドールはある日の宵闇の中、あるモノを目撃してしまった。
「あの、男……」
例の少女を抱き抱えていた男だった。従者と思われる数人の男達を引きつれている。
そして、あれは。
「人、か……」
暗くてよく確認は出来ないが、人間を担ぎ何処かに運んでいた。テオドールは気配を消し後を付ける。
森を抜けた先には、貴族の屋敷と思われる立派な建物が建っていた。男達は、抱えた人間を燃え盛る焼却炉へと放り込む。
「っ……」
火に照らされ見えた人間に、見覚えがあった。あれは確か……繁華街に店を構える店の店主の息子?か……。何度も通う内に自然と覚えていた。
従者達は下がり、男は1人になってもずっと焼却炉を眺めていた。手には男には似つかわしくないリボンを握りしめて。
暫くして、男は手のリボンを焼却炉に放り込み不敵に笑みを浮かべると、その場を後にした。
ガチャ。
テオドールは、扉を開け部屋の中へと入る。
「テオドール、様⁈」
テオドールは、ヴィオラの元へ歩いていくとそのまま抱き締めた。
「あ、あの!テオドール様⁈どうなさったんですか⁈」
僕じゃだめかな……そんな下らない言葉をテオドールは呑み込む。
「散歩に、付き合ってくれる?」