ビィン…………
静まり返る闘技場、”あの音” が鳴り響く。
そして、全員の顔は青褪める。
「これでも…………シールドの破壊には至らなかったのか…………!」
リオンが強く手を握る中、リリムは急いでヒノトの元に駆け付ける。
「だ、大丈夫!? ヒノト…………!」
しかし、ヒノトはボロボロになりながらも、
「アンタ…………」
笑っていた ―――――――― 。
「すげぇ…………ブレイバーゲーム…………楽しい…………!」
「そ、そんなこと言ってる場合じゃ…………!」
「なあ、リリム……教えてくれ……。あの雷シールドの弱点の属性ってなんだ…………?」
「え…………雷シールドは……炎とか……氷……かしら……」
ヒノトはペロリと魔族から目を離さない。
「リリム、作戦がある…………!」
そう言うと、ヒノトはニシっと笑った。
――
呆気に取られていた風紀委員たちも、カナリアの先導により全員が魔族を囲った。
「レオはいいの?」
レオとソルは、傍目から見て動かなかった。
「元々は風紀委員と愚民たちの戦い。雷シールドなら私の魔法は効かないしな。見物をさせてもらおう」
「僕も賛成…………どうやらあの魔族さん、まだ何かを隠しているみたいですし…………力の温存をしておかなければいけないでしょう。観客席の生徒が固まっているのは、恐らく魔族さんの洗脳魔法…………。普通に戦っている風に見えてるのか、既に気絶させられているのか…………。どちらにせよ、この人数を洗脳に掛けている時点で、魔族さんの魔力もかなり消費されるはずです」
立ち尽くす二人の話を聞きながら、ルークは悠長に地べたに腰を下ろした。
「ふぅん…………二人とも随分ヒノトを買ってるね。まあ、面白いとは確かに思うけど」
「キャンディス!! DIVERSITYの岩魔法使いと共に、ヒノトくんに雷シールドを張ってやるんだ…………!」
「は、はい…………!」
“雷防御魔法・雷衝陣”
「行くぞ…………! リオン…………!!」
「ああ!! カナリア!!」
“雷攻撃魔法・グロウサンズ”
“水放銃魔法・水葬”
ブォッ…………! と、魔族を覆うように、大量の磁場と水撃が現れ、幾度となく感電を起こす。
「小癪だな…………こんなことをしても、僕のシールドは全く削れないと言うのに…………!」
ボン!!
その瞬間、狙い澄ましヒノトが突撃する。
”あの音” は鳴った…………何度も繰り返せば、シールドを破壊できると全員が切に願うが…………。
「さっきのは、油断しただけ…………。こんな感電で痺れさせられても、もう君の攻撃は当たらない…………」
そうして、ヒノトはそのまま吹き飛ばされる。
「まだだ…………! もっと感電を強く…………!!」
(僕にできるサポートは……全部やるんだ…………!)
「グラムのシールドに……メガネの人のシールド…………。すげぇ……吹っ飛ばされても全く痛くねぇ…………」
ボン!!
そして、再び魔族に襲い掛かる。
「だぁかぁらぁ…………!!」
声を荒げた一瞬、 ボン!! ヒノトは目の前で再び暴発をさせ、魔族の手を交わす。
「なっ…………!!」
“陽飛剣・魔力弾”
ボゴォン!!
しかし、ニタニタ笑うと、ヒノトの頭を掴んでいた。
「君……魔力量落ちてるね…………終わりかな…………?」
「あぁ……そろそろ終わりにしよう…………魔族!!」
その瞬間、魔族の背後には炎が舞い散る。
“炎魔剣・陽炎”
「炎魔剣のガキ…………!!」
「俺はただの囮だ…………!!」
そのまま、ズブリとシールドを避け、リゲルは魔族に炎を纏わせた剣を突き刺す。
「ぐあああああああああ!!!」
魔族も歯を食いしばると、ヒノトをそのままリゲルにぶつけ、二人諸共吹き飛ばした。
「洗脳に掛けられ、ようやく技を使えていたようなしゃしゃり出るな!!!」
しかし、その瞬間、 ゴォン!! と、突如、魔族の雷シールドは破壊される。
「なっ…………?」
目の前には、リリムが立っていた。
「魔王の…………娘…………!!」
“闇魔法・影縫”
リリムは、風紀委員の炎使い、シャマを技ごと気配を消し、魔族に炎を当て続けていた。
魔族には相当高い防御力とシールドがある為、ヒノトの撹乱により気付くことが出来なくなっていた。
「人ってのは、アンタが思ってるより強いのよ……!!」
「ふふふ…………想像以上だ…………。正直、貴女様がいてもこのシールドは破られないと思っていた…………」
「私に様なんて付けないで!! 私はもう魔族とは関係ない!! ただのリリム・サトゥヌシアなの!!」
すると、魔族の身体は、まるで土人形のように、リリムの前でボロボロと崩れ落ちてしまった。
その光景に、リリムはハッとし、警戒態勢を張る。
「大丈夫ですよ、リリム様…………。もうここでやるべきことは終えましたから…………」
すると、無傷の魔族がリリムの背後に出現する。
「っ…………!!」
「リリム…………!!」
「今まで皆さんが戦っていたのは、僕が洗脳で見せていた僕の分身体。分身体とは言え、僕のシールドを破ったことに変わりはない。誇っていいよ」
そう言うと、余裕綽々と笑みを浮かべた。
「君たちの力量…………予想以上で益々楽しみになってきたよ………… “戦争” が…………!!」
「戦争…………!?」
「ああ、僕のことをそこらの魔族の残党と一緒にしないでくれるかい? 僕の名前は魔族軍 四天王 雷の使徒 セノ=リューク。魔族軍の再臨だ…………!」
そう言うと、バサバサっと舞い上がる。
「また会おう…………若人たち…………。この世界が絶望に染まるのを見届けるのは、君たちだ…………」
ビュン! と、落雷が落ちたかのように消えると、観客席の生徒たちも全員が気を失った。
セノ=リュークの言葉に、驚愕に動揺していると、レオは真ん中に立ち、剣を地面に突き刺した。
「狼狽えるなァ!!」
「レオ…………? で、でも…………魔族軍の復活なんて、勇者もいない今、僕たちには何も…………」
「これは機密事項だったのだが、三王国は、魔族軍の復活を予測していた。だからこそ、このブレイバーゲームに精を出し、魔法や剣術を我々に習わせていたのだ」
「でも…………今の魔族の力は…………」
四天王の一角、とは言っても、実力差がありすぎた。
その現実を前に、全員が打ちひしがれていた。
「その為の “公式戦” だ。まずはここにいる四パーティは、確実に公式戦に参加するだろう。そこで、王国軍の選抜として引き抜かれる働きを示せ。そうすれば、魔力に優れたエルフ族の元で特殊訓練を受けられるよう手配済みだ」
「エルフ族の元で…………特殊訓練…………!?」
「ふふ、それは光栄な時間になりそうだね」
今まで沈黙を極めていたソルも、ニヤッとやる気に満ち溢れた表情を浮かべる。
粗方の話を終えたレオは、ヒノトの元へ歩む。
「さっきから項垂れているが…………貴様はそこでいつまでも地べたにいる気か…………?」
そうして、いつもの様に剣先を向けた。
「なあ…………レオ…………」
全員が、心配そうな目でヒノトを見遣る。
「俺…………また、あの強い奴と戦いたい…………! 」
ゾク…………
「コイツ…………」
ヒノトの目は、また、獲物を見る眼になっていた。
その眼光に、レオもニヤリと笑みを浮かべる。
ヒノトは、ゆったりと立ち上がる。
「お前の言いたかったこと、三王国が考えてること、なんとなく分かった。だから改めて…………」
「「 公式戦で、お前を潰す…………!! 」」
二人は睨み合いながら、剣を向き合わせた。