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教室でも攻防は続いた。
隷は給食を食べる守葉の席の前に立ち、食事指導を始めた。
「守葉。食事は定められた時間内に、音を立てずに、一口ずつ咀嚼し、残さず食べきることが規律だ。お前の咀嚼音がうるさい」
守葉は、仮面の下で小さな口を開閉させながら食事を続けていた。
「ふむ。俺はしっかりと噛み、味わっておる。音など、米を噛み砕く、自然の調べであろう。それを『*うるさい*』とは、其方は繊細すぎるのだ」
「自然の調べなど、この学園に必要ない。あるのは規律だけだ。残さず食べろ」
隷は冷たい視線で守葉の給食のトレイを見下ろした。
守葉はどう見ても苦手そうな、緑色の野菜が大量に乗ったサラダに手をつけていなかった。
「これは無理な相談だ。俺は幼少の頃より、この手の青物には手を付けぬ。苦手なものまで無理に食らうは、自己を律することに反する。己の身体を顧みるのも、また規律の内であろう」
「屁理屈で規律を捻じ曲げるな。苦手だからと逃げれば、将来、お前は自分の望まない戦場から逃げ出すぞ」
その言葉に、仮面の下の守葉の目が、ほんの一瞬、凍りついたように見えた。トラウマに触れる言葉。
「……其方、余計なことを申すな」
守葉の周囲の空気が一気に冷えた。
彼が持つ闇の魔法の魔力が高まっている証拠だ。
「このサラダなど」守葉はフォークを構えた。
「食らう必要はない。俺の従者に処理させる」
守葉が小さく呪文を唱えると、サラダの皿の底から影のような小さな黒い手が現れた。
その手は音もなく、緑色の野菜を一瞬で影の中へと引きずり込み、皿を空にした。
「これで、皿は空になった。規律違反ではないな、生徒会長」
隷は目の前で起こった魔法による規律の回避に、感情を露わにすることなく、ただ冷たい怒りを覚えた。
「お前は、いつまでもその魔法で、全てから逃げ続けるつもりか」
「逃げているのではない。俺のやり方で、規律の要求を満たしただけだ。俺の冷たさも、其方の冷たさも、どちらもこの学園の秩序を乱すまい。所詮、俺と其方は鏡合わせだ」
隷は、その言葉を否定も肯定もせず、ただ冷たく言い放った。
「その鏡合わせを、俺が力ずくで割ってやろう。次の規律指導は、放課後の魔法実習だ。覚悟しておけ」
二人の間には常に冷たい緊張感が漂い、学園の生徒たちは彼らに近づくことさえできなくなった。
彼らの冷たい日常の攻防は、まだ始まったばかりだった。