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第八十話 夢の途中
十一月の終わり。
紅葉の季節が少しずつ終わりに近づき、
街には冬の気配が混ざり始めていた。
湊は大学の図書館で、
一人パソコンに向かっていた。
画面に映っているのは、
写真の撮り方や編集についての資料。
最近、写真を撮るだけではなく、
撮った後のことも考えるようになった。
どうすれば、この写真を見た人に
自分が感じたことを伝えられるのか。
構図。
光。
色。
そして、写真を見せる順番。
知れば知るほど、
分からないことが増えていく。
「……まだまだだな」
湊は小さく呟いた。
以前なら、
分からないことがあると不安になっていた。
でも今は違う。
分からないなら、
知ればいい。
できないなら、
練習すればいい。
そう思えるようになっていた。
その日の帰り。
湊は写真店に立ち寄った。
店内には、
カメラやレンズが並んでいる。
以前なら、
ただ眺めるだけだった場所。
今は違う。
店員に写真について質問したり、
実際にカメラを触らせてもらったりする。
少しずつ、
自分の世界が広がっている気がした。
店を出ると、
スマートフォンに紬からメッセージが届いていた。
『今日、大学で国際交流のイベントあったよ!』
写真が一枚送られてくる。
そこには、
いろいろな国から来た学生たちが
笑っている姿が写っていた。
『楽しそう』
『うん!いろんな話聞けて面白かった』
『紬、そういうの好きだよな』
少しして返信が来る。
『うん。もっといろんな人と話してみたい』
湊はその言葉を見て、
以前の紬を思い出した。
海外へ行く前、
「もっと知らない世界を見てみたい」と話していた。
今、その気持ちをちゃんと形にしている。
湊も同じだった。
写真を好きだと思う気持ちを、
少しずつ未来につなげようとしている。
『俺ももっと写真頑張る』
そう送る。
すると、
『お互い夢の途中だね』
と返ってきた。
湊はその言葉を何度も読み返した。
夢の途中。
まだ何者でもない。
まだ、夢を叶えたわけでもない。
でも――
だからこそ、
これから何にでもなれる。
夜。
湊は自分の部屋で、
これまで撮った写真を整理していた。
高校時代に撮った写真。
留学中の紬から送られてきた写真。
卒業後に撮った写真。
写真を並べてみると、
自分が歩いてきた時間が見えるようだった。
一枚一枚に、
そのときの気持ちがある。
楽しかった日。
悩んだ日。
離れていた時間。
再会した日。
夢について話した日。
全部、写真の中に残っている。
湊は一枚の写真を手に取った。
高校生の頃、
まだ写真を仕事にしたいなんて
考えていなかった頃の写真だった。
「……変わったな」
自分でも驚くほど、
考え方が変わっていた。
けれど、
写真を好きだという気持ちだけは変わっていない。
湊は新しいアルバムを作り始めた。
タイトルは、
「夢の途中」
まだ完成していない。
だからこそ、
これから撮る写真も入れていく。
夢が叶うまで。
そして、
夢が叶ったあとも。
その夜、湊は窓の外を撮った。
冷たい冬の空。
街の明かり。
静かな夜。
特別な景色ではない。
それでも、
今の自分にしか撮れない一枚だった。
📷 Photo.080「夢の途中」
撮影日:11月30日
夢は、見つけた瞬間に終わるものじゃない。
そこへ向かって歩き続ける時間こそが、
未来につながる大切な一枚になる。
――次回、第八十一話「冬の知らせ」へ続く。
コメント
1件
「夢の途中」って言葉、すごく響きました。まだ完成してないからこそ何にでもなれるっていう湊の気持ち、写真を整理しながら自分の歩んできた時間を見つめるシーン、じんわり沁みました。紬も夢に向かってちゃんと歩いてて、お互いに影響し合ってる感じが温かい。特別じゃない夜の一枚が「今の自分にしか撮れない」ってところが特に好きです。まだまだ続く物語、見届けたいです📷🤍