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「早く大人にならないと」
私の母の口癖です。
いつも、私が何をしてもこの一言を息を吐くように言います。
この言葉を聞くと、幼いながらに胸が重くなったのを覚えています。
母は厳しい人でした。
幼い頃からほとんど外に遊びに行ったことがありませんでした。
――いや。学校には行かせてもらっていました。
友達と遊んでくると母に言うとやっぱり母は
「早く大人にならないと」と言いましたが。
あ。そういえば一度だけ母と2人で遊園地に行きました。
あの日のことはすごく覚えています。
私、迷子になっちゃったんですよね。
迷子になったらどうしたらいいのかなんてまだまだ小さくて、多分幼稚園児ぐらいだったかな。
一人で園内を歩き回りました。
でも途中で足が痛くなってしまって。
大声で泣きながら園内の大きな木の下でうずくまっていました。
すると母が私の名前をそれはそれは大きな声で呼びながら走ってきたんです。
――はい。母も心配していたんでしょうね。
私の顔を見た途端、「帰っちゃったのかと思った」
と言って泣き崩れていました。
――他には、ですか。
そうですね。母との思い出はこれぐらいです。
あとは、うん。嫌な思い出ぐらいしか。
――あー。なら母は花が嫌いでしたね。
一度友達と遊んでいるときに綺麗な花畑を見つけたんです。可愛いお花で母に見せてあげようと思って、
なん本かを手折ったんです。
そしていざ帰って母に見せると、泣きそうな顔になっていました。
――はい。感動とか嬉しいとかじゃなくて、
苦しい怖い。そんな顔です。
母は言いました。
「ごめんなさい。思い出してしまうの。」
そういって私に背を向けて寝室から1日出てきませんでした。
1日たってようやく出てきたと思ったら、昨日のことなんてなかったみたいに萎れた花を見て、
「ゴミは早く捨てなさいよ」
と言うんです。
――いいえ。母は悪くないんです。
私が全部悪いんですから。
――あまり母を悪く言わないでください。
あの母が母でなくても私の母ですから。
――思うところはあります。
あんな母でしたから。
――でもやっぱり思ってしまうんですよね。
あの日、いやあの日々には確かに愛があったって。
――改めて考えるとあの母の口癖も私を隠すためだったんでしょうか。
――母が亡くなってから言うのは卑怯でしょうか。
一体私の母はどこにいるのでしょうか。
2023 3.4 取り調べの書き起こし
『幼子誘拐事件 調査結果 2023 3.12』
・容疑者△△は×歳女性。
すでに亡くなっており原因は自殺と考えられる。
○○と△△の血縁関係はないされていたが○○の母と△△は友人関係であり、当時病室にいた赤子である○○を無断で誘拐し、監禁していたと考えられる。
しかし、○○の母がどうして易々と誘拐を許したのか、未だ不明である。
・○○は繰り返し「母に会いたい」と発言。
○○の母はすでに他界している。
父親は未だ不明。
『幼子誘拐事件 調査結果2 メモ 2024 1.23』
・○○の母と△△の関係が明らかになってきた。
○○の母、この場では仮に××としておく。
××に出産記録は見つからなかった。
・△△と××は恋人同士であり、
女性同士であったため
子を授かることはできなかった。
よって、医療従事者であった××が病院から赤子の○○を誘拐。そうして○○は××と△△によって監禁される。
××はしばらくたったある日自殺にて他界。
遺書が残されておりそこには、誘拐した日の贖罪と
△△への感謝。そして謝罪。その遺書には花の押し花が挟まれてあったという。
以上のことがこの事件についてわかっていることだ。
この内容は○○が誰にもバレぬように隠し持っていた△△の遺書の内容である。
これ以上の調査は必要ないだろう。
すでに関係性のあるものは調査済み。
そして○○を含めた事件の関係者3名はすでに
首を吊って自殺している。
#おかあさん
とーと
7
主マン
39
#ファンタジー
コメント
1件
みぅです、読みました……🥀 このエピソード、すごく重くて苦しくて、でもなぜか温かい。遊園地で迷子になった話と、花を摘んだ日の話、どちらも「母」のぎこちない愛情が透けて見えて胸が締め付けられました。そして最後の調査記録で全部の意味が反転する感じ……「あの日々には確かに愛があった」って言葉がめちゃくちゃ刺さります。とーとさん、短いのにこんなに深い物語を描けるんですね。大切に読みました。