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【俺はもう、大丈夫だヨ】
Episode.8 普通の振り
《🎼🍍side》
布団に入って、電気を消したあと。
暗闇の中で、
父さんの呼吸を、俺は数えていた。
……一、二、三。
少しだけ、間が長い。
🎼🍍「……今日さ」
俺は、急に口を開いた。
🎼🍍「学校でさ、算数あって」
父さんが、少しだけこちらを向く気配がした。
🎼🍵「うん」
それだけの返事。
でも、俺は止まらなかった。
🎼🍍「分数のやつで、俺ちょっと間違えてさ。でも、先生が黒板で説明してくれて、あ、そういうことかってなって」
🎼🍵「へえ」
🎼🍍「で、こさめがまた変な答え書いててさ。先生に『どうしてそうなった』って聞かれて、堂々と間違えてて」
小さく、笑う。
🎼🍍「……あいつ、すごいよ」
父さんも、少し笑った。
🎼🍵「こさめちゃんらしいね」
その声を聞いて、
俺は少しだけ安心して、
でも、まだ話すのをやめなかった。
🎼🍍「あと、体育でさ、ドッジボールやって。俺、最後まで残ったんだよ」
🎼🍵「それはすごいねぇ」
🎼🍍「うん。でも、いるまが強くて。投げ方がずるい」
🎼🍵「ずるいって?」
🎼🍍「ずるいんだよ」
くだらない話。
どうでもいい話。
でも、
口を閉じたら、
静かになったら、
何かが壊れそうで。
だから、俺は話し続ける。
🎼🍍「給食もさ、今日はカレーで。前よりちょっと辛くなった気がして」
🎼🍵「最近、変わったらしいねぇ」
🎼🍍「そうなの?」
🎼🍵「学校から連絡来てたよ」
父さんは、ちゃんと聞いてくれている。
そのことが、
胸の奥を、ぎゅっと掴む。
🎼🍍「……父さん」
🎼🍵「ん?」
呼んだだけ。
続きは、言えなかった。
代わりに、
また、どうでもいいことを言う。
🎼🍍「明日も、学校あるし」
🎼🍵「そうだね」
🎼🍍「ちゃんと起きるから」
🎼🍵「ひまちゃんは毎日、ちゃんと起きてるよ」
🎼🍍「……うん」
少し間が空く。
その沈黙が怖くて、
俺は、また言葉を探す。
🎼🍍「今日、公園でさ」
そこまで言って、
一瞬、言葉に詰まった。
父さんが、静かに言う。
🎼🍵「楽しかった?」
🎼🍍「……うん」
声が、少しだけ揺れた。
父さんは、何も聞かない。
何も言わない。
ただ、
ゆっくりと手を伸ばして、
俺の頭を撫でた。
🎼🍵「それなら、よかった」
その一言で、
胸の奥が、いっぱいになる。
話しすぎたことも、
黙れなかったことも、
全部、見透かされている気がして。
でも、父さんは、
“普通”の顔をしている。
だから俺も、
“普通”の声で言う。
🎼🍍「…おやすみ」
🎼🍵「おやすみ、ひまちゃん」
父さんの声は、少し掠れていたけど、
俺は、気づかないふりをした。
話し続けることで、
この夜を、
つなぎとめていた。
父さんが ここにいるって、
確かめるために。
《🎼🍵side》
ひまちゃんの寝息が、一定になるまで。
俺は、動かなかった。
呼吸は浅く、規則的で、
ときどき小さく喉が鳴る。
──完全に、眠った。
それを確認してから、
ようやく、胸に溜めていた息を吐いた。
🎼🍵「……っ」
喉の奥が、ひりつく。
無理に押さえ込んでいた違和感が、
一気に浮かび上がってきた。
布団の中で、
そっと上体を起こす。
音を立てないように、
なつを起こさないように。
……でも。
次の瞬間、
肺が、強く縮んだ。
🎼🍵「……っ、は……」
声にならない。
口元を、慌てて手で塞ぐ。
咳。
一度。
二度。
三度目は、
押さえきれなかった。
🎼🍵「──っ、……!」
喉の奥から、
熱を持った何かがせり上がってくる。
俺は、ベッドの端に身体を寄せ、
床に置いてあったティッシュを掴んだ。
咳き込む。
必死に、音を殺して。
でも、
視界が一瞬、白くなる。
……まずい。
そう思った瞬間、
手の中のティッシュに、
濃い色が滲んだ。
赤。
思ったより、はっきりした色。
🎼🍵「……はは…」
笑おうとして、
喉が引きつった。
笑えない。
前は、
まだ、笑えていた。
血を見ても、
「大丈夫だ」って、
自分に言い聞かせられた。
でも、今日は。
……今日は、無理だった。
胸が、痛い。
息を吸うだけで、
肺が軋む。
肩で呼吸をしながら、
俺は、ひまちゃんの方を見た。
布団を被って、
小さく丸まっている背中。
さっきまで、
楽しそうに学校の話をしていた。
聞かれてもないのに、
一生懸命。
……あれは、
俺のためだったんだろう。
話すことで、
この家の「普通」を
保とうとしていた。
🎼🍵「……ごめんね」
小さく、呟く。
届かない声で。
俺は、ゆっくり立ち上がり、
足音を殺して洗面所へ向かった。
鏡の前。
顔色は、
明らかに、悪い。
目の下の影も、
前より濃い。
口をゆすいで、
血を流す。
水が赤く染まって、
すぐに消えていく。
それを、ぼんやり見つめながら、
頭の中に、あの言葉が浮かんだ。
──半年。
……本当に、半年もあるのか?
今日みたいな夜が、
これから増えていくのに。
ひまちゃんは、
どこまで気づいているんだろう。
いや。
きっと、もう気づいてる。
気づいた上で、
“気づいてない振り”を
している。
俺と、同じだ。
洗面台に、手をつく。
指先が、少し震えていた。
……倒れるわけにはいかない。
まだ、
なつの前では。
普通の父親でいなきゃいけない。
咳もしない。
弱った顔もしない。
それが、
俺にできる、最後の役目だ。
next.♡800
長くなってすみません💦
コメント
9件
ああああ、、見逃してたぁぁぁ、 🍵くん最後なんて言わないで..... 半年以上、いやこれからも🍍ちゃんと幸せに暮らして欲しいよぉ....
思ったより短いんですけど?! 🍵君はもう🍍君の秘密に気づいてて…関係が凄い複雑になってきたのにも関わらず説明できるてぃあさんは天才です✨夜の時間が凄い切ない…😭 続き楽しみに待ってます〜
少しでも🍵くんと話していたいから夜に会話を繋げようとする🍍くんと、 少しでも🍍くんの父親でいたいから限界を超えて話そうとする🍵くんがもう……😭 お互いが普通を偽っているから、普通じゃなくなってる感じがあってすごく心がぎゅっと掴まれる… 忙しいのに投稿なんてありがとね😭 てぃあちゃんもたまにはゆっくり休んで!🌙*゚ 続き楽しみにしてるねん🫶🏻︎💕︎︎🙂🎐