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【俺はもう、大丈夫だヨ】
Episode.9 上手いから
《🎼🍍side》
朝のアラームが鳴る前に、目が覚めた。
天井は、いつもと同じ色。
カーテンの隙間から、薄い光。
……隣。
父さんは、寝てる。
胸が、上下している。
一回。
二回。
それを確認してから、
ゆっくり息を吐いた。
🎼🍍「……よし」
小さく呟いて、布団を抜け出す。
起こさないように、
足音を殺して、リビングへ。
今日は、学校。
父さんも、仕事。
平日だ。
キッチンで、軽く朝の準備をする。
トースターを回して、
味噌汁を温め直して。
最近は、
こういうのが当たり前になった。
できることが増えた、って言えば
聞こえはいいけど。
本当は、
できるようにならなきゃいけなかっただけ。
部屋の方を、ちらっと見る。
起きる気配は、まだない。
……もう少し、寝てていい。
父さんは、
寝てる時が、一番安心できる。
学校の準備を終えて、
ランドセルを玄関に置いた頃。
🎼🍵「……ひまちゃん」
後ろから、声。
振り向くと、
父さんが立っていた。
少し眠そうな顔。
でも、ちゃんと笑ってる。
🎼🍵「おはよう」
🎼🍍「おはよ、父さん」
いつも通りの挨拶。
🎼🍵「早いね」
🎼🍍「うん。なんとなく」
嘘。
でも、
これはもう、癖みたいなものだった。
🎼🍍「朝ごはん、できてるよ」
🎼🍵「…いつもありがとう」
父さんは、テーブルに座る。
動きは……
昨日より、少しだけ、重い。
でも、
見なかったことにする。
俺は、上手いから。
気づいてない振り。
🎼🍍「今日、仕事?」
🎼🍵「ん。打ち合わせある日」
🎼🍵「ひまちゃんは?」
🎼🍍「普通の日」
“普通”。
その言葉を、
お互い、何回使ってるんだろう。
朝ごはんを食べ終えて、
玄関で靴を履く。
🎼🍍「いってきます」
🎼🍵「いってらっしゃい」
🎼🍍「……父さんも、気をつけて」
一瞬、
父さんの動きが止まった。
でも、すぐに笑う。
🎼🍵「ひまちゃんこそ」
いつもの声。
いつもの父さん。
……大丈夫。
そう、思い込んで、
俺は家を出た。
《🎼🍵side》
ドアが閉まる音。
ひまちゃんの足音が、
遠ざかっていく。
それを聞きながら、
俺は、しばらく動けなかった。
……ふう。
椅子に座り直して、
深く息を吸う。
胸が、少し痛む。
でも、
まだ、我慢できる。
今日は、仕事。
パソコンを立ち上げて、
デザインの修正に入る。
画面を見てると、
時間が、曖昧になる。
……その方が、楽だ。
咳が出そうになるたび、
水を飲む。
ひまちゃんがいないから、
無理に抑える必要はない。
でも。
🎼🍵「……っ」
一度、咳。
二度目は、
胸の奥が、きつく締まった。
🎼🍵「……はぁ……」
手を、机につく。
……午前中は、
これ以上、無理しない方がいい。
そう判断して、
一度、横になる。
目を閉じると、
さっきの朝の光景が浮かぶ。
ちゃんと、笑えてた。
ちゃんと。
……気づかれてない。
でも、気づかれてる。
それでも、そう信じないと
やってられない。
《🎼🍍side》
学校は、
いつも通りだった。
授業を受けて、
友達と話して、
笑って。
でも、
頭の片隅には、
ずっと、家のことがあった。
父さん、
ちゃんと仕事できてるかな。
無理、してないかな。
……帰ったら、
すぐ顔、見よう。
*
放課後。
今日は、
まっすぐ帰る日。
玄関を開けると、
家は静かだった。
🎼🍍「……ただいま」
返事は、ない。
……仕事中かな。
ランドセルを置いて、
リビングへ。
テーブルの上には、
メモ。
『先に軽く横になってる。
起きてたら声かけて』
字は、
少しだけ、乱れてた。
胸が、きゅっとする。
でも、
深く考えない。
俺は、上手いから。
自分の部屋に行って、
ゲーム機をつける。
今日は、
少しだけ、遊ぶ。
コントローラーを握って、
画面に集中する。
敵を倒して、
ステージを進めて。
……楽しい。
楽しい、はずなのに。
ふと、
音を消したくなる。
ゲームを一時停止して、
耳を澄ます。
──奥の部屋から、
微かな音。
呼吸。
ちゃんと、聞こえる。
……よし。
再開。
何度も、
その繰り返し。
《🎼🍵side》
目を覚ますと、
夕方だった。
身体が、重い。
でも、
起き上がれる。
時計を見る。
……もうすぐ、ひまちゃんが帰ってる時間。
咳を、ひとつ。
……血は、出てない。
今日は、
まだ、大丈夫な日だ。
リビングに出ると、
ひまちゃんがゲームをしていた。
真剣な顔。
俺に気づいて、
ぱっと振り向く。
🎼🍍「父さん、起きた?」
🎼🍵「うん。おかえり」
🎼🍍「おかえりじゃないよ」
そう言って、
小さく笑う。
……元気そうだ。
🎼🍵「ゲーム?」
🎼🍍「うん。久しぶり」
🎼🍵「いいねぇ」
🎼🍍「父さんもやる?」
🎼🍵「今回は遠慮しておこうかなぁ」
🎼🍍「わかった!」
今は、
座って見てるだけでいい。
ひまちゃんの後ろ姿を見ながら、
胸の奥が、少しだけ、温かくなる。
……まだ、
こうしていられる。
それだけで、
十分だ。
🎼🍵「夕飯、どうする?」
🎼🍍「簡単なのでいいよ」
🎼🍍「……俺作る」
🎼🍵「ひまちゃん?」
🎼🍍「大丈夫」
その一言に、
少しだけ、甘える。
……ごめんね。
心の中で、
そう呟いた。
next.♡900
コメント
11件
🍍くんが自分でやることが増えて、できていく度、 寄り添おうとしているのに逆に、🍵くんとの距離が離れていってる感じがして 胸がぎゅっと掴まれる…… 「まだ」お互いがそう思っているからこそ、儚い… 続き、楽しみにしてるねん🫶🏻︎💕︎︎🙂🎐
もう絶対時間ない…😭😭 忙しい中の最高な作品マッッジでありがとうございます!! 悲しいけど感動するてぃあさんのストーリー大好きです! 続き楽しみに待ってます〜
まだ、って、、🍵くんのまだ耐えれるがいつまで続くか、というかほんとに耐えれるぐらいの苦しさなのかな..... 2人とも心配すぎるわ、、、