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“この研究所はまもなく爆発する”
皇后崎が放送室からそう発信した直後、凄まじい音と共に研究所の一部が爆発した。
足元に感じる揺れの大きさから、かなりの威力だったことが想像できる。
「結構揺れる…!」
「あの野郎…!」
『おい!皆、大丈夫だろうな!?』
皇后崎からの問いかけに、羅刹組・鬼國隊それぞれが反応を示す。
現時点では皆無事だが、爆発がこれで終わりなはずはなく…
緊張状態の中での救出作戦は、まだ始まったばかりだ。
司令塔である乙原と皇后崎のやり取りで、この後の方針が決まる。
連携の取りやすさを利用して鬼國隊が人質と爆弾の捜索を、そして羅刹組(牙隊はその補助)がその人質の救出を担当することになった。
鳴海と一ノ瀬も互いに気合いを入れて、走る速度を上げた。
そうして10分が経とうかという頃、突然鳴海の脳内に等々力の焦ったような声が届く。
『鳴海!!』
「颯ちゃん!どうした!?」
『すぐに来てくれ!蛭沼さんと鳥飼が…!』
話を聞けば、2人が移動中に桃次歪という桃太郎とエンカウントし攻撃を受けたとのこと。
等々力の因縁の相手である彼の強さは凄まじく、どちらもかなりの重傷だった。
“部下を向かわせる” と伝え、乙原に最短ルートでの案内をお願いした鳴海だったが、そんな彼を止める声が聞こえてくる。
『鳴海さん…』
「灯ちゃん…!喋らないで、安静にしてて!すぐそっちに『来なくて、いいです…』
「え?」
『私は…ここまでです…』
「そんな言葉聞きたくない!響太郎ちゃん、案内!」
弱気な蛭沼の言葉を無視し、鳴海は一ノ瀬に一言告げてから来た道を引き返す。
だが鳴海と等々力がいる位置はかなり距離があることに加え、桃太郎を避けながらとなるとさらに時間を要する。
必死に足を進めても、やはり蛭沼の命を繋ぎ止めることはできなかった。
長い年月を共に過ごした仲間同士で交わす最期のやり取りを、鳴海もまた涙目で聞いていた。
命の灯が消えた瞬間、彼の足も速度を落とす。
静寂が続く中、鳴海は思いっきり壁を殴りつけた。
まだ鳥飼の治療がある。自分が足を止めてしまえば、救える命はもっと減ってしまう。
再び走り出した鳴海に、乙原は行き先を変更するように伝えた。
「医務室に直行…でいいの?」
『うん!今皇后崎君に鳥飼さんのところに向かってもらってるんだ。そのまま医務室に案内するから、そこで合流して欲しい』
「了解!俺も急ぐね!」
『ありがとう。鳴海も気をつけて…!』
「うん!」
それからまた走り続けて、鳴海はようやく医務室へと到着した。
壊れて開きっぱなしになっている自動ドアから中を覗けば、そこには既に皇后崎の姿があった。
「迅!」
「鳴海!ここまで大丈夫だったか?」
「うん!それより羽李ちゃんは!?」
「俺の血を輸血して、今は落ち着いてる」
「輸血?誰かにやってもらったの?」
鳴海の問いかけに、皇后崎は部屋の後方を見やる。
視線を辿って振り返れば、そこには先程まで彼と戦っていた桃尾旋律(と、途中観戦していた晶)がいた。
どういう経緯でこの状態になったのか…疑問ばかりが浮かぶが、まずは何より鳥飼の様子を確認する鳴海。
脈や呼吸に乱れはなく、輸血のお陰で顔色も正常に戻りつつある。
傷を負っている箇所の治療をサッと済ませると、鳴海は室内にいるもう1人の桃太郎の存在に目をやった。
「…この妊婦は?」
「途中で倒れてたから一緒に連れて来た」
「お、偉いぞ…ねぇ、その子の少し体の具合を診ても?」
「! あぁ、頼む。」
旋律に一声かけてから、鳴海は鳥飼と同じようにベッドに横たわっている女性の診察を始めた。
パッと見て大きな外傷はなく、バイタルも安定している。
お腹の子も動きを確認でき、母子ともに危険な状態ではなさそうだった。
「頭の傷だけ治しておくから。そこまで酷くはないけど、強く打ってるかもしれないから早めに病院に行くこと」
「分かった。…ありがとな」
「そっちが仲間助けてくれたからこっちも恩を返しただけだよ。ありがとね2人のこと助けてくれて」
相手が桃だと分かっているのか疑わしいほどに、鳴海は当たり前のように旋律へ笑顔を向けるのだった。
旋律と会話をしている鳴海を、鳥飼のベッド横にあるイスに座りながら眺めていた皇后崎。(晶は見張り)
相手が何か妙な動きをしたらいつでも割って入れるように身構えていたのだが…
想定とは違う理由で、皇后崎は彼の元へ駆け寄った。
「鳴海、お前ケガしてねぇか?」
「ん?あーうん…でもまぁ平気だよ!」
「平気じゃねぇよ!見せろ!」
会話の途中で鳴海の腹部が血で染まっていることに気がついた皇后崎。
最初は走って来たからだと思っていた呼吸の乱れが、未だに続いていること。
よく見れば、額や首元に汗が滲んでいること。
慌てて問いただせば、やはり想い人はケガを負っていた。
「撃たれたのか?」
「まぁ。でも掠っただけだし痛くないよ」
「そういう問題じゃねぇ!俺は…鳴海が痛い思いすんの嫌なんだよ…」
「迅…」
「斑鳩鳴海!」
「は、はい!」
「そこ座れ」
「へ?」
「噂で聞いただけだけど、お前自分のことは治せないんだろ?俺が診てやる」
突然の申し出に、鳴海と皇后崎は顔を見合わせる。
今までの言動から悪い人ではないと思いつつも、鳴海は恐る恐る指定されたイスへと向かった。
座って一息つけば、今までアドレナリンのお陰で抑えられていた痛みや熱感が一気に襲って来る。
「…掠っただけっつーかガッツリ中まで入ってるぞこれ」
「え、そうなの?」
「(この状態で走って来て、すぐにケガ人の状態を診れるもんなのか?少しも痛そうにしてなかったぞ…?)」
「ほっとけば治るから別にいいよ?」
「よくねぇだろ。中にある弾取らねぇと後々厄介だから取るからな。…傷口触るぞ?痛くて我慢できなそうなら、俺の腕とか肩とか掴んでろ」
「あー!汚いからいいよ!自分でやるから!!」
そう言って鳴海は傷口に躊躇無く指2本を突っ込み弾を探す。
どう考えても痛いであろうその行動を躊躇いもなく行う鳴海を見て固まる2人。
特に苦戦することも無く弾を摘出した鳴海は、ふーっと大きく息を吐いた。
痛みが取れたわけではないし、我慢したせいで体力も奪われただろうに、鳴海はまたしても旋律に笑顔を見せる。
真っ直ぐなお礼の言葉を言われれば、彼の手は自然と鳴海の肩に置かれていた。
「痛かっただろ。よく頑張ったな」
「あ、いや、そんな…!」
「(救護担当の人間は俺たちほど痛みに慣れてない。痛みに慣れていたとしてもここまでやる事はまず無い…)」
「?」
「(なのにこいつはそこから全力で走って、鬼も桃も関係なく目の前の奴を治して、聞かれるまでケガのことを口にすらしなかった)…強ぇんだな、お前」
「まさか!全然だよ。」
「そうじゃなくて、心が…ってこと」
「そっちか…!ごめん!ありがと!」
「(ふっ。確かに一緒にいて飽きねぇのはその通りかも。あいつが惚れんのも分かる気するわ)…これでお前との貸し借りもなしだからな」
「押忍!」
「……桃尾旋律」
「ん?」
「俺の名前。ちゃんと覚えとけよ。鳴海」
「覚えた!旋律ちゃん!」
忘れないように口の中で自分の名前を唱えている鳴海を、旋律は楽しそうに見つめるのだった。