テラーノベル
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モトキが反応した時には遅かった。
涼架の拳が目前まで迫っている。
ギリギリで避ける。
だが。
完全には避けきれない。
衝撃で床を滑る。
「モトキ!」
ヒロトが駆け寄ろうとする。
その前に。
涼架が振り向いた。
冷たい視線。
「新規対象確認」
ヒロトの背筋が凍る。
知らない。
あんな涼架。
見たことがない。
優しくて。
ふわふわしていて。
少し抜けていて。
いつも笑っていた人なのに。
目の前にいるのは兵器だった。
榊の兵器。
「っ……!」
ヒロトが飛び出す。
猫獣人特有の速度。
低く潜り込む。
だが。
涼架は一歩も動かない。
そのまま。
ヒロトの動きを読んでいたみたいに腕を振る。
ヒロトは吹き飛ばされた。
「ヒロト!」
レイが動く。
赤い目が光る。
床が軋む。
研究員達が青ざめる。
「零号体だ!」
「下がれ!」
レイは一瞬で距離を詰めた。
今までなら。
相手が誰でも勝てた。
処刑犬すら止めた。
でも。
涼架の拳がぶつかった瞬間。
轟音が響く。
衝撃波。
強化ガラスが割れる。
研究員達が悲鳴を上げる。
そして。
レイが初めて後退した。
「……え」
ヒロトが目を見開く。
レイも驚いていた。
押し返された。
自分が。
涼架は静かに立っている。
表情一つ変えずに。
榊が満足そうに笑った。
「完成に近い」
その言葉にモトキの拳が震える。
完成。
そんな言葉で。
涼架を呼ぶな。
⸻
「涼ちゃん!!」
叫ぶ。
何度目か分からない。
でも。
呼ぶ。
呼び続ける。
涼架の瞳が微かに動く。
「……」
反応ありッ!
モトキは走った。
そのまま真正面へ。
ヒロトが叫ぶ。
「危ない!」
だが止まらない。
拳も構えない。
武器も持たない。
ただ。
真っ直ぐ。
涼架の前へ。
榊の目が細まる。
「愚かだな」
涼架の腕が動く。
攻撃。
確実に当たる。
だが。
モトキは避けなかった。
その代わり。
涼架を強く抱きしめる。
全員が固まる。
「帰ろう」
静かな声だった。
怒鳴らない。
泣き叫ばない。
ただ。
まっすぐで。
温かい。
「オレ達の家に」
涼架の瞳が揺れる。
「覚えてないなら」
モトキの声が震える。
「何回でも言う」
「オレはモトキ」
「ヒロトがいて」
「レイがいて」
「涼ちゃんがいて」
涙が落ちる。
「四人で暮らしてた」
部屋が静まり返る。
涼架の手が止まる。
榊の顔色が変わる。
「命令を実行しろ」
涼架の身体が震える。
「排除しろ」
震えが大きくなる。
「榊を守れ」
その瞬間。
涼架が頭を押さえた。
「……っ」
苦しそうな声。
初めてだった。
兵器になってから。
初めて。
感情らしい反応を見せた。
モトキの目が見開く。
「涼ちゃん!」
「……モト……キ……」
小さな声。
だけど、確かに。
名前を 呼んだ。
榊が叫ぶ。
「やめろ!」
研究員達が慌てる。
モニターの数値が暴れ始めていた。
人格固定が崩れている。
記憶が戻り始めている。
涼架の脳内で。
忘れさせられた日々が。
少しずつ。
少しずつ。
蘇っていた。
山奥の家。
焦げた鹿肉。
ヒロトの呆れ顔。
レイのぎこちない笑顔。
そして。
狼耳を揺らしながら笑う少年。
『涼ちゃん!』
頭の中で声が響く。
懐かしい声。
大切な声。
忘れたくなかった声。
涼架の瞳から。
ぽろりと涙が落ちた。
その時だった。
研究所全体に新たな警報が鳴り響く。
今までとは違う。
低く。
不気味な警報。
研究員達の顔色が一斉に変わる。
「先生!」
一人が叫ぶ。
「F-01が覚醒しました!!」
榊の表情が初めて変わった。
驚愕。
そして焦り。
モトキ達には分からなかった。
だが。
榊だけは知っている。
地下最深部に封印されていたものを。
そして。
研究所のさらに下。
誰も近づかない隔離区画で。
重い扉が、ゆっくり開き始めていた。
ひかまりん
9
🍏💕
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#ほんにんさまかんけいない
コメント
1件
うわあ、第19話……緊張感がすごかったです。モトキが涼架を抱きしめて「帰ろう」って言ったところ、涙が出そうになりました。覚えてなくても何度でも言うって、ああいう真っ直ぐな想いって強いんだな…。涼架の瞳が揺れて、小さく「モトキ」って呼んだ瞬間、胸がぎゅっとなりました。最後のF-01覚醒も不気味で、続きが気になって仕方ないです!