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R
23
#執着
さぶれ
1,448
フロアに着いてインターホンを鳴らすと、春樹が慌ただしく部屋を飛び出して来た。
「舞! 昨日はどこに行ってたんだよ!?」
私の姿を見るなり気が気でない様子で切り出すのを、後ろめたいような思いで上目に見ると、昨日はあんまり寝ていなかったらしく、彼の目が赤く充血して腫れているのがわかった。
「……心配かけたよね……ごめんね」
眠れないほど心配をさせてしまったことに頭を下げると、
「……おまえになんにもなくてよかったよ。俺、今度電話しても繋がらなかったら、警察に連絡しようかとも思ってたぐらいだからな……」
春樹が言って、心底安心したようにふぅーっとため息をついた。
「ごめん……ごめんね、春樹……」
くり返し謝りながら、そんなにも気にかけていてくれたんだと思うと、込み上げる心苦しさで彼の顔さえもまともに見られなかった。
「……無事だったんならいいから、もう中に入れよ」
「……うん」頷いて、部屋へ上がりソファーに腰を下ろす。
「……ほら、あったかいコーヒー」と、彼とペアのマグカップが差し出されて、「……昨日来られなかったのは、どうしてだったんだよ?」と、わけを問いただされた。
「うん……その、ちょっと……友達が、急に会いたいとか、言ってきたから……」
使い馴染んだコーヒーカップを両手でぎゅっと包んで、緊張で渇いた口にコーヒーをごくっと流し込んだ。
「…………。そうなのか……友達……なんの用だったんだよ?」
疑わしげに訊き返されて、彼が私の苦し紛れの言い訳をすぐに察したことに気づく。
「……その……友達が、彼氏と別れそうだとかで……それで、どうしても……私に、相談に乗ってほしいからって……」
頭に浮かんだことでなんとか場を取りつくろおうとして、偽りを塗り重ねていくことに、顔がだんだんとうつむき加減になっていく。
「彼氏と、別れそうか……」
もう嘘にはきっと気づいているのだろう春樹が、言葉尻を捕らえて、
「……それで、別れることは、避けられたのか……?」
私の顔を真正面からじっと見つめて尋ねてきた。
「う、うん……」
「そう、か……よかったな…」
「うん……」
ぎこちない沈黙が続いた後に、「……なぁ、」と、彼が口を開いた。
「……今日は、服でも買いに行かないか?」
思ってもみない急な提案に、「服?」と、わけがわからずに問い返す。
「ああ、アウトレットモールにでも連れて行ってやるから」
その理由も話すことなく、畳みかける春樹に、
「うん、でも、服はそんなに……」
服を買いに行くような雰囲気でもない気がして、そう言いかけると、
「……その服、着替えろよ」
急に春樹がぼそりと低い声で、私の話を遮った──。
「えっ、どうし、て……」
張り詰める空気感に口ごもると、彼が食い気味に「匂いがするんだよ……」と、口にした。
「匂い……?」
一瞬なんのことかわからずに尋ねると、
「……服に、しみついてんだよ匂いが。気づかないのか、おまえ……」
春樹が言い、眉間にしわを寄せ顔をしかめた。
「えっ……」
慌てて自分の服の袖に鼻を近づける。
「……友達のかなんだか知らないが、他の奴の匂いがする服なんて、着替えろよ……」
自分自身ではどんな匂いがしているのかはわからなかったけれど、春樹にはどういう匂いなのかが、既にわかっているような気もした……。
コメント
1件
みぅです🤍 春樹くん、本当に心配してたんだね…目の充血とか、警察に連絡しようと思ったって言葉に、舞さんへの想いが重く伝わってきた。 でも、舞さんの苦し紛れの嘘はすぐバレてるし、最後の「匂いがする」で一気に空気変わったのが怖かった…。 執着の裏にある不安と独占欲がひしひしと感じられて、胸が締め付けられる回でした。