テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
R
23
#執着
さぶれ
1,448
──車で郊外のアウトレットモールに出かけて、その場で買った服に着替えてはみたけれど、春樹の表情は終始曇ったままだった。
あまり寄り道もせずに彼の部屋まで戻ると、身の置き所もないような気まずい時間だけが過ぎた。
「……あの、ごめんね、本当に。……私が、急に予定変えたりしたから……」
間が保てなくて、ごめんねと口にすると、
「……なんで、ごめんとか言うんだよ」
春樹がキッとした眼差しで横目に睨んだ。
「……。……それとも、謝らないといけないようなことを、おまえはしたのかよ?」
おもむろに尋ねられて、「……えっ」と、息を呑む。
「…………。」
「……どうして、何も答えられないんだよ?」
春樹に冷ややかな目で見つめられ、声を出すこともできずに、喉元を苦いえぐみだけがせり上がる。
彼が昨夜の出来事をどこまで気づいているのかは知れなかったけれど、だからと言ってそれを確かめてみるようなことは恐くてできなかった……。
「いいよ、もうこの話は……」
何も言い出せずにいると、春樹の方から会話は打ち切られた……。
沈黙に居たたまれなさを感じていると、
「……今日は、もう帰れよ……」
春樹が口を開いて、一言を切り出した。
「だけど……、」このまま帰っていいんだろうかと感じる。
「……帰れって、もう。今日は、なんか…あんまり、気分もよくないし……」
訝しげに細められていた彼の目が、つと横へ逸らされて、
「……ごめんね」そう言うしかないような思いで、もう一度謝った。
「だから、謝るなっつってんだろ……!」
春樹がいつにない声を荒げて、そうして自分の声の大きさに、「……悪い」と、低く謝った。
「いいから、今日はもう帰ってくれよ……」
苦悶に歪んだ表情でぽつりと漏らす彼に、「……うん……」とだけ応える。
「……じゃあ、また、連絡してね……」
返事も聞けないまま、玄関へ向かう。ドアを開けて外に出るまでの間、春樹が声をかけてくるようなことはなかった……。
帰りの電車内で、シートに座り、着ていた服を詰めた紙袋を膝に乗せると、本当に何か匂いがするのかが気になった。
確かめようと紙袋に顔を突っ込んでみたけれど、やっぱり私には何もわからなかった。
だけど春樹にはわかってたんだよね……同じ男同士だから、気づきやすいのかな……。
そう思って、”男同士?”と自問をした。
まさか、鷹騰社長といっしょにいたって……彼は気づいていて……。
だって、そんなわけ……そこまで考えて、ないとは言い切れないと感じた。
春樹ははっきりとは指摘はしなかったけれど、あの口ぶりからして何かしら察していたのは明らかなように思えた。
ごめんね……。
心の中でくり返して、なんて自分はバカなんだろうと思う。
春樹を傷つけるような真似をして、ごめんねしか言えない自身の浅はかさ加減に、つくづく嫌気が差してくるみたいだった……。
電車に揺られながら、せめて彼に何かメッセージを送っておこうと思い、スマホを立ち上げた。
でもいざ送ろうとするとどんなメッセージにしたらいいのか考えつかなくて、開いたネットの画面をぼんやりと見るともなく見ていた。
すると、ネットニュースの中に、
『クールズ・コーポレーション鷹騰社長、M&A失敗』
という記事があるのが目に入って、酔って話してたのはこのことだったんだと思った。
記事をスクロールして読んでみると、
『事業拡張のため、老舗の某大手メーカーの獲得を狙った鷹騰社長が、創業者一族の反発に合いM&Aを断念』
と、書かれていた──。
ニュースの感想コメントが書き込める欄には、『業界の寵児も、ざまぁないな』なんていう心ない中傷もあって、
あんなに悔しそうだった鷹騰社長の顔が浮かぶと、まるで自分のことのように悔しくもなってくるみたいだった……。
コメント
1件
みぅです🤍🥀 第30話読みました…。 春樹くん、絶対何か気づいてるよね。あの「謝らないといけないようなことしたのか」って問い詰める感じ、重くて苦しかった…。 主人公が「ごめんね」しか言えないもどかしさ、そして春樹くんが「謝るな」って怒るのも、どっちも切なすぎるよ…。 最後の鷹騰社長のニュース、ここで繋がるんだね。あの夜の酔った言葉の意味がわかって、また別の胸の痛みが…。 蒼乃さん、重層的な感情の描き方、本当に上手です🌙