「失礼します。ユウトさんをお連れしました」
「…おっ、入ってくれ」
レイナさんに案内されて応接室に入るとそこにはギルマスが座っており、机にはいくつかの資料と豪華な印が押されている手紙が置いてあった。ギルマスと目が合うとこちらに座るようジェスチャーで促してきた。
「では私はこれで…」
「おっと、レイナ。君も同席してくれないか?」
「えっ…私もですか?!」
俺が席に座るのを確認するとレイナさんは退室しようしたがギルマスに呼び止められた。俺もまさかレイナさんも一緒にとは思ってなかったからびっくりしたが、彼女も何も聞いていなかったらしく目を丸くして驚いていた。
レイナさんが隣に座るとギルマスが一つ咳払いをして話を始めた。
「さて、早速だが本題に入ることにしよう。今日君に来てもらったのは先日、本部から君に呼び出しの手紙が届いたからだ」
「えっ、よ、呼び出しですか…?」
冒険者ギルドの本部が俺を呼び出し…?!
俺は何か悪いことでもしたかと一生懸命記憶を掘り起こすが特に思い当たる節がない。
何か少しでも関係があることと言えば以前、王都に行った時の例の事件だがあれは自分で言うのもあれだが褒められることをしたと思うんだが何か知らないうちにやらかしてしまっていたのだろうか。
俺は少し不安に感じながらもギルマスに尋ねる。
「あの…よ、要件は一体…?」
神妙な面持ちでギルマスを見つめているとそんな俺を見てギルマスは口角が少し上がった。
「いやいや、これは君が考えているような悪いことではない。手紙によるとギルド本部にいらっしゃるかのグランドマスターが君にぜひとも会いたいと仰っているらしいのだ。ユウトよ、以前王都に行った際に何かあったのか?」
えっ、グランドマスターが俺に会いたい…?
もしかして公爵から何か伝わったのだろうか。
俺はここに来る前に感じていた嫌な予感が的中してしまった気がした。
「…いえ、特に何もありませんでしたよ」
「そうか、まあグランドマスターからの呼び出しだ。ぜひとも会ってきてもらいたい」
「あのー、ちなみにそれって拒否出来たり…」
ほぼ返ってくる答えは分かりきってはいたが恐る恐る聞いてみる。
すると先ほどまで笑顔だったギルマスがいきなり真顔になってこちらを見てきた。
「…行ってくれるな?」
「…は、はい」
分かってました、分かってましたとも。
ギルマスの口調からもグランドマスターをギルマスがどれほど敬っているのかがひしひしと伝わってくる。そんな人からの頼みを断るなんてできるわけないよな…
「まあそう不安がる必要はない。グランドマスターは非常に慈悲深くとてもお優しい方だ。私も一度だけお会いしたことがあるが、とても素晴らしい人格者だった。それにあの方はこの王国にある冒険者ギルドを腕っぷしと知略でまとめ上げているこの国随一の実力者だ。君も会ってみれば何かいい刺激を貰えるかもしれない」
このギルマスにここまで言わせるグランドマスターって一体どんな人なんだろうか。
別にギルマスに上手く乗せられた訳ではないが少し興味が出てきた。
「分かりました。本部に行ってきます」
「ああ、それでは君が向かう旨を本部へと送っておこう」
「あの…そのお話でどうして私が同席する必要があったのですか?」
話が二人で終わってしまいそうな雰囲気を察して隣に座っているレイナさんが恐る恐るギルマスに尋ねる。たしかにこれだけの話ならレイナさんには何も関係ないように思えるけど。
「ああ、説明が遅れてすまない。君にはユウトのギルド職員として付き添いをしてもらいたいのだ。それと本部から頼まれた資料を届けてほしいのだ。頼めるだろうか?」
「え、あ、はい。それはもちろん大丈夫ですけど、どうして私なのでしょうか?」
「いや、特に大した理由はないのだがこのギルドの職員の中でユウトの付き添いなら君が適任だろうと思ったからだ」
「あっ、な、なるほど…そういうことでしたら私にお任せください!!」
レイナさんは不安が晴れたような明るい表情で返答した。
まあ確かにレイナさんが付き添いだと安心できるな。
「それでは二人ともよろしく頼む。馬車はこちらで手配しておく、おそらく3日後になると思うから各自出発の準備をしておいてくれ」
俺とレイナさんは揃って返事し、ともに応接室を後にする。
部屋を出ると隣で緊張の糸が解けたレイナさんが大きく息をついた。
「…まさかこんなことになるとは思いませんでしたね。何はともあれユウトさん、どうぞよろしくお願いします!」
レイナさんはそう言うと俺に向かって頭を下げる。
俺もそれにつられてレイナさんに頭を下げた。
「こちらこそよろしくお願いします!」
お互いに頭を下げ合っているこの状況に思わず二人とも顔を見合わせて笑ってしまった。
そうして二人は王都へと向かう準備をすることとなった。
俺は前回の時とは違う緊張感を感じており、念入りに準備をしていた。
レイナさんもギルドの仕事をしながら準備を進めていたらしくかなり大変そうだったが、話を聞くと滅多に王都に行く機会なんてないからとても楽しみにしているとのことだった。
ある意味俺のせいでレイナさんも王都に行く羽目になってこんなに忙しくしてしまったのだから少し申し訳なさがあったのだが、本人はむしろ旅行に行くかのような気持ちでいてくれていてちょっと安心した。
準備をしている時にセラピィが「セレナに会いに行くの?」と聞いてきたのだが王都は恐ろしく広いため、偶然お嬢様に出会う可能性は低いだろうと伝えた。そう言うと少し残念そうにしていたが、よくよく考えてみるとお嬢様ともセラピィは契約したのだからセレナが呼べば会えるはずだけど…
そう思っていると俺の考えていることを察したのかセラピィが少し膨れ顔で答える。
「セレナ、全然セラピィのこと呼んでくれないんだよ」
「ああ、なるほど。お嬢様もいろいろと忙しいかもね」
確かに貴族って会食にパーティにお茶会とか社交会にいろいろと出席したりなんだりで何かと忙しいイメージがあるな。お嬢様も貴族たちから畏怖の目で見られているとはいえ、公爵家の一員だから大変なのだろう。
俺はとりあえずいじけているセラピィをなだめる。
まあもしかしたら会える可能性も0ではないからな。
そんなこんなで早くも三日が過ぎ、再び王都へと出発する日がやってきた。しかし、この旅行感覚の王都行きからこのさき大波乱に巻き込まれることになろうとは夢にも思っていなかった。
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