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「君の笑顔が、俺にだけ向いていないなら」
アルの回想シーン
この部屋の匂いが好きだ。
アーサーの匂いが染みついているから。
――布団、シャツ、髪に触れたときの、あの微かな甘さ。
全部、俺のものになった。やっと、やっとここまで来れた。
だけど、時々、思い出す。
「アーサー、今日の昼、アイツと何話してたんだい?」
問いかけたのは高校の頃。教室でアーサーと、別のクラスの男が肩を寄せ合って笑っていた日。
「あ? ああ、アイツか。課題で一緒になっただけだよ」
「……楽しそうだったね」
「は? 何、嫉妬?」
からかうように笑ったアーサーの声が、頭の中で何度も再生される。
あの時、喉の奥がぐっと詰まって、答えが出てこなかった。
(……違う。違う違う。そうじゃないんだぞ)
俺は、嫉妬なんかじゃない。
もっと深くて、もっと黒くて、もっとどうしようもない感情を――初めてそのとき、自覚したんだ。
アーサーが誰と話すか、誰と笑うか、そんなことに一喜一憂してる自分が気持ち悪くて、
でも、気づいてしまった以上、もう目を背けられなかった。
“俺の世界は、もうアーサーで埋め尽くされていた”
夜、ベッドに横たわると、思い出すのはアーサーの横顔。
眠っている時のまつ毛の長さ、ふとした瞬間に見せる無防備な表情。
誰にも見せたくない。誰にも触れさせたくない。誰の記憶にも残らせたくない。
全部、俺だけのものにしたい。
(もし君が、俺を選ばないなら――)
その時は、壊すしかないとさえ、思っていた。
でも――
「君は俺のこと、どう思ってるんだい?」
ふと漏れたその問いに、アーサーは軽く笑って言った。
「どうって……ガキの頃からずっと一緒だったろ。家族、みたいなもんだろ」
(――違う、違う、違う)
その言葉が、心臓をぐしゃりと踏み潰した。
(俺は、君をそんな目で見たことは一度もないのに)
家族? 友達?
そんな生ぬるい関係じゃ、もう俺は耐えられないんだ。
そう気づいた日、俺の中で何かが決定的に音を立てて、壊れた。
(……俺が君を好きになったのは、罰だと思ってた)
(でも、違った。これは“運命”なんだ)
君といるためなら、どんな手を使ってもいい。
たとえ、君がそれを“狂ってる”と言っても――構わない。