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……起きると、以前と同じように彼の姿はそこにはなかった。
昨夜の熱が籠もる身体を、ベッドからのろのろと起き上がらせる。
ぼんやりとしたままリビングへ出ていくと、既にスラックスを履きシャツを纏って、政宗医師がソファーにもたれていた。
「……まだ、寝ていてもいいのですよ?」
私を見ると、長めな睫毛をしばたいて視線を投げかけ、そう口を開いた。
「……昨日の夜は、……苛烈だったでしょう?」
続けられた台詞に、顔が否応もなく紅潮する。
「……思い出されたのですか?」
言いながらソファーを立ち、こちらへ近づいて来ると、
「どこまで、思い出されたのです?」
私の頬に、ひたりと手の平で触れた。
その手の冷たさに、この男の心の冷たさまで感じられるように思う。
触れた手を、頬から引き剥がして、
「……。……昨夜のことで、もう私を虜にしたとでも思っているんですか?」
メガネの奥にある感情の欠片も映さない眼差しを、上目に睨んだ。
「違うのですか?」
一言を尋ね返されて、
「……違う……」
それだけを苦々しく吐き出して、顔をそむけた。
わかっていた……例え虜になったって、この男が私を愛することなどはない。