「あそこまで身体を許しておきながら、まだ違うなどと?」
「許したのは、身体だけです……」
そんな些細な抵抗をしたって、どうしようもないことくらいはとうにわかっているのに、そう言わずにはいられなかった。
「……面白いですね。まだ、私に心を許してはいないと……」
顔を僅かに歪め、ふと呟く彼に、
「それは、先生も同じですよね?」
挑発するように、そう問うた。
「私…ですか?」
彼が、手の平を自分の顎にあてがい、何事かを考えるように撫でさする。
「……私の心の内など、あなたにはわからないでしょう?」
そうして、こちらの胸中を探るようにも問い返してきた。
「わかります……」
その目をじっと睨み据えて答える。
「……あなたは、本気になんてならない。誰にも、私にも……」
私の言葉に、「くくっ…」と、彼が喉の奥で短く笑う。
「私が本気かそうでないかなど、君にわかるはずもない」
言いながら片手を伸ばし、私の頬を掴んでぐっと顔を仰のかせると、
感情を剥き出しにもしたような、いつにない激しさで、不意に口づけてきた──。
「……どう、思われているのです? 私のことを……」
口づけから解かれ、
「……心がない人」
固く握った拳でぐいと自らの唇を横に拭い、目の前の彼へ感じているままを口にした。
「……抱かれている時にも、そう思われていたのですか?」
「……。……その時は……」
不意の問いかけに、言葉に詰まる。どう言えばいいのか、咄嗟にはわからなかった。
「……答えてください」
彼が瞬きもせずに、私を見つめる。
「……その時には……少しは、感じたけれど……」
ごくっと唾を呑み下して返すと、
「……感じたのなら、」
彼が私の唇に親指の先で触れ、閉じていた口を開けさせると、
「愛情が、そこにあったとは思わないのですか?」
口元から覗く舌に引き出すようにちゅ…っと吸い付いて、さらに食い下がるようにも訊いてきた。
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