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アズマさんは今にも押し潰されそうだった。
「早く逃げてください!! 貴方は……魔法攻撃は防御出来ても、魔獣の腕力には敵わない!!」
しかし、歯をギチギチと僕を必死に守る。
「アゲルってよぉ……いつもヤマトのことばっかで、目的のことばっかでさ……」
「はい……だってこの世界の救済を……」
そして、僕に向かって叫んだ。
「俺はお前とも仲間なんだよ!!」
そして、魔獣サンドラを投げ飛ばした。
「どう……なって……」
ふと見ると、アズマさんの両手には大量の水の魔力が集められていた。
本人はアドレナリンが出ていて気付いていない。
しかし、攻撃魔法は使えないはずじゃ……。
「そんなデカい図体してんのに、力は大したことねぇんだなぁ! 魔獣さんよぉ!!」
そして、魔獣サンドラを指差した。
決して腕力が弱いなんてことは絶対に有り得ない。
「セーカより腕力は劣るけどな……一応ヤマトよりかは腕力はあるんだぜ……。これなら、俺一人でもコイツに勝てちまうかもなぁ!」
そして、アズマさんは両腕を顔の前に出し、ボクシングポーズの構えを取った。
そんなはずはない。
いくらセーカさんが炎の神 ゴーエンに鍛えられた怪力だとしても、魔獣なんかの腕力と比べたら、人間との筋肉量が違いすぎる……。
「ガアアッ!!」
魔獣はまたも咆哮を上げる。
すると、雨雲はバチバチ!と光る。
「アズマさん! 避けてください! 落雷です! 落雷は魔法じゃないから防げない!!」
「ヤバっ……!」
雷の速度に人間が敵うはずがない……!
「なん……だ……こりゃ……」
アズマさんに降り注ぐはずだった落雷は、頭上で方向を変え、地面に降り注いでいた。
「ジャジャーン!」
すると、水の神 ラーチは座り込む僕に並ぶ。
「守護神 ロロちゃんの雷魔法だよ!」
「でも……ロロさんの雷魔法は洗脳では……?」
「ちょっと違うの! 洗脳じゃなくて脳に信号を送ってるだけだからね! 『電波』の方が近いかな!」
「わ、私も役に立てましたか……?」
恐る恐るロロさんも僕に並んだ。
ロロさんの雷魔法は、『電波』させること。
蓄電場所を設置し、雷の降り注ぐ位置を強引に変えてしまったのだ。
水の神 ラーチは、そのまま座り込んだ。
「さーて、僕たちに出来ることは、本当に後方支援だけになっちゃったね。あの人、あんなに強かったんだ」
いや、アズマさんは強い人ではない……。
「君ー! 僕たちで落雷の方は防御するから、全力でその魔獣ぶっ倒しちゃってよー!」
手を振りながら、ラーチは声を掛けた。
「マジっスか! なら全力で殴ってみます!」
そう言いながら、アズマさんは笑顔を見せた。
そして、一気に魔獣へと駆ける。
「無理です……! さっきのがたまたまにせよ……魔力量にだって限りがある……ここは一時撤退を……!」
しかし、アズマさんは、
「ガアアッ!!」
「オラァッ!!」
魔獣サンドラの雷を帯びた拳を、ただのパンチで殴り返し、そのまま尻を突かせた。
「何が起きているんだ……?」
「ハハッ! 俺って意外と力あるのかな!」
そして、勢いのまま魔獣へまた駆け寄った。
さっきよりも足が速くなってる……!?
どう言うことだ……アズマさんに一体何が起こってるんだ……!?
アズマさんの足には、拳と同じように水の魔力が集められていた。
しかし、こんな魔力の使い方……すぐに……。
最悪、魔力の底を知らないアズマさんは、自分の許容量も知らずに死んでしまうかも知れない……!
そして、何度も魔獣サンドラの激しい殴りや蹴り、更には落雷までもその足で避けてみせた。
「ハハっ、すごいすごい! 水を得た魚だ!」
「ああっ! ラーチ!」
よく見ると、水の神 ラーチは、魔力切れを起こさせないように、自身の水魔力をずっと流していた。
「僕たちの仕事は後方支援、だもんね?」
そう言うと、ニヤッとラーチは笑みを向けた。
役立たずは、僕だけになってしまった。
その後も、アズマさんは魔獣サンドラを圧倒して殴り続けるが、致命傷に至らせることが出来なかった。
魔力の方は、水の神 ラーチから膨大に注がれている為、切れるということはなかったが……。
「ハァハァ……まだ倒れないのか……」
元々戦闘に参加しないアズマさんは、もう息も絶え絶えになってしまっていた。
「なあ、アゲル……いい策でもねぇかな……」
「なんで僕なんですか……僕なんか……」
すると、アズマさんは珍しく怒った顔で、僕の胸ぐらを思い切り掴んできた。
「さっきも言っただろ!! 仲間だからだ!! こっちは頼り切りなんだよ!! お前の頭脳を!!」
そして、静かに僕を離す。
「あとその、アズマ “さん” っての、やめてくれよ。俺たちは仲間なんだろ。協力して世界救うんだろ!」
何を言っているんだ、この人間は……。
ヤマトと僕は特別な存在なんだぞ……。
「何ニヤけてやがんだよ……こっちゃ怒ってんのに」
ニヤけてる……? 僕が……?
本当だ……この人間の戯言が面白かったか……?
バベル様の記憶が、スッと脳に過る。
「ミカエル、お前は僕の従事者なんかじゃないぞ。僕たちは仲間なんだ!」
はぁ……皆さん、まるで分かっていない。
バベル様も……何も分かっていない。
僕は……。
「アズマ、よく聞いてください。あの魔獣サンドラは、“雷獣” との異名を持つ魔獣です。水は雷に対して圧倒的に分が悪いです」
「じ、じゃあどうすれば勝てるんだ……?」
ああ、本当だ。
僕はいつの間にか楽しくなってしまっているんだ。
この旅が。
「僕に策があります。アズマに、雷の大敵である、岩の魔力を与えます」
「岩の魔力……? そんなこと出来るのか……!?」
「思い返してください。ヤマトは、未だ光魔法を扱えないのに、“光剣” を振るうことで、光魔力の力を一部ではありますが使用して戦闘することが出来ています」
アズマは、混乱した様子を露骨に示す。
「ふふ……貴方に賭けてみましょう。まさか魔獣をたった一人の人間が倒せるなんて奇跡ですからね……」
そして僕は、“光槌” をその手に出現させた。
「なんだこれ……光の……トンカチか……?」
「そうです。ただ一つ、ヤマトに渡している物と違うのは “岩魔力が付与されている” ことです」
アズマは光槌を受け取る。
「こんな小さいトンカチで勝てんのか……?」
「僕たちの勝利条件は殺すことじゃない。あの魔獣を戦闘不能に追い込むことです。魔獣の脳天に光槌をぶつけたら、いつもの様に思い切り魔力を放ってみてください」
アズマは僕を信じ切った目で小さく頷いた。
「アズマ! 落雷が来ます! ロロさん!」
「任せてください……!!」
ロロさんの雷魔法で落雷を防ぐ。
「脳天に ぶつける為にはジャンプ力が必要です! ラーチ、水魔力を存分に注いでください!」
「分かったよー!」
ラーチは、目に見える程のエネルギーを両手で注ぐ。
目眩しにはなるか……!
他の人にはダメージを与えないくらい魔力を絞る……。
「 “光魔法 ブラックヘル” !」
魔獣サンドラは、視界にいきなり光が差し、目を両手で覆った。
「今です! アズマ!!」
「オッラァァ!!!」
体勢を崩した魔獣サンドラの直前で、足に集中させた水魔力でアズマは思い切り飛び上がる。
そして、魔獣サンドラの脳天に光槌をぶつけた。
「そのまま魔力放出をしてください!!」
「信じてるぜ……アゲル……!!」
笑いながら、アズマは思い切り魔力放出をした。
小さな光槌に触れた箇所から、魔獣サンドラを分厚い岩がゴツゴツと包み、次第に覆った。
「すげえ……本当に岩が出ちまった……」
呆気に取られながらも、ニカっと笑い、僕たちにピースサインを送るアズマ。
「よく頑張りました、“アズマ” 」
「ハハっ、やっと呼び捨てしてくれたな!」
まったく……本当に世話が掛かる。
でもどうしてか、僕は自然と笑っていた。