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藤白りいな…お転婆で学校のマドンナ。天然で、先輩や後輩など学校のほぼすべての人が名前を知ってる。
海と仲が良いが、最近結構意識してる
天童はるき…ツンデレの神。りいなのことが大好きだが、軽く、好きなど言えない。嫉妬深い。
男子と仲のいいりいなが誰かにとられないかと心配してる。海に嫉妬中!
佐藤海(かい)…りいなのことが昔から好き。りいなと好きなど軽く言い合える仲。
結構チャラめ(?)デートなどはゲームだと思ってる
月下すず…美人だがなぜかモテない。はるきと海の幼馴染。りいなのことは好きだが、嫉妬中(?)
はるきと海のことが気になってるが、どちらかというとはるきのほうが好きらしい(?)
藤堂透…りいなに一目ぼれした。イケメン転校生。さらっとドキッとなるようなセリフを言ってくる。
はるきと海に嫉妬されてる。(笑)
日曜日の朝。横浜駅の改札前。人の波が行き交う中、りいなは小さなリュックを背負って、スマホを見ながらきょろきょろしていた。
「……あ、すず!」
すずは遠くから手を振りながら駆け寄ってくる。白いワンピースにスニーカー、髪には小さなイルカのヘアピン。
「りいな〜!お待たせっ!今日の水族館、楽しみすぎて昨日眠れなかった〜!」
「え、ほんとに?すずって遠足前の小学生みたいだね」
「失礼な!私は“青春群像劇の実況係”だから、現場入りは命なの!」
りいなは笑いながら、すずの腕を軽く引いて改札を抜ける。
「はるきと海、まだかな……」
そのとき、背後から声がした。
「おーい、りいな〜」
振り返ると、はるきがゆるいパーカー姿で手を振っていた。隣には、黒のシャツにイヤホンを首にかけた海が、無言で立っている。
「はるき、海!おはよ!」
「おはよ〜。すず、今日も元気だね」
「はるきくんも、もうちょっとテンション上げてこ〜!今日は水族館だよ?ペンギンだよ?クラゲだよ?青春だよ?」
海は少しだけ笑って、りいなに目を向ける。
「……楽しみにしてた?」
「うん。みんなで行くの、初めてだし」
その言葉に、海の目がほんの少しだけ柔らかくなる。
電車に乗り込む4人。座席は2対2に分かれて、りいなと海、すずとはるきが並ぶ。
車窓の外を眺めながら、りいなはふと考える。
(海の隣って、なんか落ち着く。すずといると楽しい。はるきは……なんだろう、安心する)
(でも、誰かを“選ぶ”って、どういうことなんだろう)
そのとき、海が何気なくりいなの頭に手を乗せてポンポン。
「今日の髪、いい感じじゃん。イルカピン、すずに借りた?」
「え、なんでわかるの?」
「俺、すずの小物センス、けっこう好きなんだよね。りいなにも似合ってる」
りいなはちょっと照れながら、海の手を軽く払いのける。
「……軽いなぁ、海って」
「軽いけど、りいなには本気かもよ?」
その言葉に、はるきが隣からぼそっと言う。
「……調子乗んなよ、海」
海「え、なに?嫉妬?」
はるき「別に。うるさいだけ」
すず「はいはい、男子たち〜!りいな争奪戦、開幕ですか〜?」
はるきはすずの言葉にむすっとしながら、りいなにだけ目線を向ける。
「……俺は、りいなと手つなぐの、別に嫌じゃないし」
りいな「え、はるきまで……」
はるき「でも、言わない方がよかったか。……なんか、恥ずかしいし」
すず「はい、爆弾落ちました〜!海くん、朝から攻めてます〜!」
りいな「ちょっと待って、なんで私限定なの!?すずは!?」
すず「私は“実況係”だから、手をつなぐより、心をつなぎたいの♡」
りいな「……なんか、うまいこと言った風だけどずるい」
車内は笑いに包まれる。でも、その笑いの奥で、それぞれの心が少しずつ揺れていた。
海は、りいなの横顔を見つめながら思う。
(今日こそ、少しでも近づきたい)
はるきは、りいなの笑顔に目を細めながら思う。
(なんで、俺はこんなに嬉しいんだろう)
すずは、ふたりの視線に気づきながら、心の中でつぶやく。
(私だって、りいなの隣にいたいよ)
りいなは、誰にも気づかれないように、そっと窓の外に目を向ける。
(選ばないって、ほんとはちょっと怖い)
電車は、ゆっくりと水族館の最寄り駅へと近づいていく。
座席に座ると、海はりいなの隣にすっと腰を下ろし、何気なくりいなの頭に手を乗せてポンポン。
「今日の髪、いい感じじゃん。イルカピン、すずに借りた?」
「え、なんでわかるの?」
「俺、すずの小物センス、けっこう好きなんだよね。りいなにも似合ってる」
りいなはちょっと照れながら、海の手を軽く払いのける。
「……軽いなぁ、海って」
海はその手を払い返されても、まったく気にせず、むしろニヤッと笑う。
「軽いって言われるの、慣れてる。でも、りいなに触れるときは、ちゃんと理由あるよ」
「……え?」
「今日、隣に座るのも、頭ポンポンするのも、全部“りいなだから”ってこと」
りいなは一瞬、言葉に詰まる。海の目は、ふざけてるようで、どこか真剣だった。
その空気を、はるきが隣からぼそっと切る。
「……調子乗んなよ、海」
海「え、なに?嫉妬?」
はるき「別に。うるさいだけ」
すず「はいはい、男子たち〜!りいな争奪戦、開幕ですか〜?」
はるきはすずの言葉にむすっとしながら、りいなにだけ目線を向ける。
「……俺は、りいなと手つなぐの、別に嫌じゃないし」
りいな「え、はるきまで……」
はるき「でも、言わない方がよかったか。……なんか、恥ずかしいし」
海はその言葉に、すっとりいなの手に触れる。
「じゃあ、俺は言う。今日、手つなぎたい。りいなと」
りいな「……海っ」
すず「はい、爆弾落ちました〜!海くん、朝から攻めてます〜!」
はるき「……ほんと、うるさい」
すず「はるきくん、顔赤い〜!ツンデレ炸裂〜!」
りいな「ちょっと待って、なんで私限定なの!?すずは!?」
すず「私は“実況係”だから、手をつなぐより、心をつなぎたいの♡」
りいな「……なんか、うまいこと言った風だけどずるい」
車内は笑いに包まれる。でも、その笑いの奥で、それぞれの心が少しずつ揺れていた。
海は、りいなの横顔を見つめながら思う。
(今日こそ、少しでも近づきたい。ちゃんと“俺”を見てほしい)
はるきは、りいなの笑顔に目を細めながら思う。
(なんで、俺はこんなに嬉しいんだろう。……でも、海には渡したくない)
すずは、ふたりの視線に気づきながら、心の中でつぶやく。
(私だって、りいなの隣にいたいよ。でも、私は“選ばれない”役でいいのかな)
りいなは、誰にも気づかれないように、そっと窓の外に目を向ける。
(選ばないって、ほんとはちょっと怖い。でも、誰かを選ぶのも、もっと怖い)
電車は、ゆっくりと水族館の最寄り駅へと近づいていく。
水族館の入り口。青いガラスのトンネルをくぐると、ひんやりとした空気と、海の匂いがふわっと漂ってくる。
「わ〜!クラゲゾーン、めっちゃ幻想的〜!」 すずがテンション高く駆け出す。はるきはその後ろをゆるく歩きながら、りいなと海は並んで歩いていた。
海は、りいなの手を自然に取る。今度は、指を絡めるように。
「……え、ちょっと」
「ダメ?」
「いや……その、びっくりしただけ」
「じゃあ、慣れさせて。今日一日、ずっとこうしてたい」
りいなは顔を赤くしながら、手をほどこうとする。でも、海は少しだけ力を込めて、離さない。
「俺、りいなのこと、ちゃんと好きだよ。軽いって思われてもいい。でも、触れたいって思うのは、嘘じゃない」
その言葉に、りいなは言葉を失う。
すずが振り返って叫ぶ。
「はい、海くん爆弾投下〜!ペンギンゾーンで恋の火花〜!指絡めてる〜!青春の暴力〜!」
はるきがすずの隣でぼそっと言う。
「……うるさい。実況、控えろ」
「え〜?はるきくん、嫉妬?」
「してない。……ただ、見ててムカつくだけ」
すず「それ、嫉妬って言うんだよ?」
はるきはりいなの手を引き寄せるように、海から奪う。
「……イルカのとこ、行くって言ってたろ。俺が案内する」
「はるき……?」
海は一歩引いて、笑いながら言う。
「強引だね。でも、りいなが選ぶなら、俺は引かないよ」
はるき「選ばせる気、ないけど」
すず「はいはい、修羅場です〜!ペンギンよりも冷たい空気〜!青春の三角関係、爆発寸前〜!」
りいなは、ふたりの手の間で立ち尽くす。
(海の手、あったかかった。はるきの手、ちょっと震えてた)
ペンギンゾーン。小さなペンギンたちがよちよち歩いている。すずがガラスに張り付いて叫ぶ。
「かわいすぎる〜!ペンギンって、なんでこんなに青春なの!?」
海がりいなの耳元でささやく。
「ペンギンって、一途らしいよ。つがいになったら、ずっと一緒なんだって」
「……へぇ」
「俺は、りいなとそうなりたい。今日だけじゃなくて、ずっと」
りいなは、海の言葉に胸がざわつく。
はるきが後ろから声をかける。
「……俺は、そういう言葉、軽く言えない。でも、りいなと一緒にいたいって思ってる。ずっと前から」
すずはその空気を感じながら、心の中でつぶやく。
(私だって、りいなの隣にいたい。でも、私は“選ばれない”役でいいのかな)
イルカゾーン。水槽の中を泳ぐイルカたちが、くるくると回っている。
はるきがぽつりと言う。
「……イルカって、群れで動くけど、ちゃんと相手を選ぶらしいよ」
「え、そうなの?」
「うん。……俺は、選ばれたいって思うけど、選ぶのって怖いよな」
海が後ろから声をかける。
「でも、選ばないって、誰にも近づけないよ。りいなは、誰かに触れていいと思う。俺にでも、はるきにでも。……すずでも」
すず「え、私も入るの!?それはそれで爆弾〜!」
りいなは、イルカの泳ぐ水槽を見ながら、そっとつぶやく。
「……触れるのって、勇気いるね。でも、触れたら、戻れない気がする」
すずが静かに言った。
「でも、戻れないからこそ、青春なんだよね。選ばないって、優しさだけじゃない。逃げでもある」
4人は、イルカの泳ぐ水槽の前で、しばらく黙って立ち尽くしていた。
それぞれの心に、ペンギンの一途さと、イルカの選択が、静かに波紋を広げていた。
クラゲゾーン。 青白い光が水槽の中で揺れている。 静かで、幻想的で、まるで時間が止まったみたい。
水槽の前に立つと、クラゲたちはゆっくりと漂っていた。 まるで、何かに逆らうことなく、ただ“今”を生きているように。
「……ここ、好きかも」 りいながぽつりとつぶやく。
「わかる。クラゲって、流されてるようで、自分で動いてるんだよ」 すずが隣で言う。 「私たちも、誰かに流されてるようで、選んでるのかもね」
りいなは、クラゲの揺れを見つめながら思う。 (私も、流されてるだけなのかな。誰かに、何かに)
海がりいなの隣に立ち、そっと肩に手を置く。 その手は、あたたかくて、でも少しだけ重かった。
「りいなは、誰に流されたい?」
「……え?」
「俺なら、ちゃんと受け止める。流されても、沈ませない」
りいなは、海の手を見つめる。 その手は、あたたかくて、でも少し怖かった。
はるきが後ろから声をかける。
「……流されるくらいなら、俺が引っ張る。りいなが迷ってるなら、俺が決める」
「はるき……」
「でも、俺が選んでも、りいなが選ばなきゃ意味ない。……だから、選べよ」
その言葉に、りいなの胸がぎゅっとなる。
すずが、少し離れた場所でクラゲを見ながらつぶやく。
「クラゲって、触ると痛いんだよ。綺麗なのに、危ない。……青春って、そういうもんだよね」
りいなは、すずの背中を見つめる。
(すずも、痛いの知ってるんだ。なのに、笑ってる)
海が、りいなの手を取る。 指先が触れた瞬間、りいなはびくっとした。
「俺は、痛くてもいい。りいなに触れられるなら」
はるきも、りいなの手を取る。 その手は、少し震えていた。
「俺は、痛くさせたくない。でも、触れたい」
りいなは、ふたりの手の間で立ち尽くす。
(どっちも、怖い。どっちも、嬉しい。……でも)
すずが振り返って、静かに言う。
「りいな。選ばなくてもいい。でも、誰かに触れてみて。それが、始まりだから」
りいなは、そっと海の手を握り返す。
「……今だけ。ほんとに、今だけだから」
海は、少し驚いた顔をして、でもすぐに笑った。
「今だけでも、俺には十分」
はるきは、目を伏せて、何も言わなかった。
すずは、笑いながら言った。
「はい、クラゲゾーンで青春の選択〜!痛みも、揺れも、全部抱きしめて〜!」
でもその声は、少しだけ震えていた。
クラゲたちは、静かに揺れていた。 誰かを選ぶこと。誰かに触れること。 それは、痛みを知ることでもあった。
でも、りいなはその痛みを、少しだけ受け入れてみようと思った。
その瞬間、クラゲの水槽の奥で、ひときわ大きなクラゲがふわりと浮かび上がった。 まるで、りいなの選択を祝福するように。
すずがぽつりとつぶやいた。
「……クラゲって、光に集まるんだよ。 でも、光が強すぎると、焼けちゃうこともある。 それでも、近づきたいって思うのが、青春なんだよね」
りいなは、すずの言葉に胸がきゅっとなる。
(私も、近づきたい。痛くても、怖くても)
海は、りいなの手を握ったまま、そっと言った。
「俺、今日だけじゃなくて、明日も隣にいたい」
はるきは、何も言わずに、クラゲを見つめていた。
その背中は、少しだけ遠く感じた。
りいなは、クラゲの揺れを見つめながら思う。
(選ぶって、怖い。でも、選ばないままじゃ、何も始まらない)
クラゲゾーンを出るとき、りいなはそっとすずの手を握った。
「……ありがとう。すずがいてくれて、よかった」
すずは、少し驚いた顔をして、でもすぐに笑った。
「私は“選ばれない実況係”だからね。でも、りいなに触れてもらえるなら、それでいい」
その笑顔は、少しだけ泣きそうだった。
クラゲゾーンを出たあと、すずがパンフレットを広げながら言った。
「ねえねえ、次のゾーン、ペアで回ると効率いいって書いてある!時間も限られてるし、分かれて回ろうよ!」
海「いいね。じゃあ、俺は――」
はるき「待て。勝手に決めんな」
すず「おっと、男子たちの火花再燃〜!青春のペア分け、運命の瞬間〜!」
りいなは、3人の視線が自分に集まるのを感じた。
(え、私が決めるの?)
海は、りいなの手を握ったまま、少しだけ強く言った。
「俺は、りいなと回りたい。さっきの続き、ちゃんと話したいし」
はるきは、りいなの手を見つめながら、低い声で言った。
「……俺も、りいなと行きたい。クラゲのとき、何も言えなかったから」
すずは、少しだけ笑って言った。
「私は誰でもいいよ。りいなが決めて」
りいなは、クラゲの揺れがまだ胸に残っているのを感じながら、ゆっくりと口を開いた。
「……じゃあ、はるきとペアになる」
その瞬間、空気が止まった。
海「……そっか」
すず「はい、青春の選択〜!クラゲの余韻からの、はるきペア爆誕〜!」
海は、手を離しながら言った。
「じゃあ、俺はすずと回るか。……すず、よろしく」
すず「お任せあれ!実況と爆弾処理、両方担当します!」
海は、りいなに目を向けて、少しだけ笑った。
「はるきと回るなら、ちゃんと見てあげて。あいつ、言葉足りないけど、気持ちはでかいから」
はるきは、目をそらしながらぼそっと言った。
「……余計なこと言うな」
すずと海が先に歩き出す。りいなとはるきは、少しだけ距離を保ちながら並んで歩き始めた。
沈黙が続く。水族館の静かな空気が、ふたりの間に流れていた。
「……さっきの、クラゲのとこ」 はるきがぽつりと言った。
「うん」
「俺、ほんとは……りいなの手、ずっと握ってたかった」
りいなは、はるきの横顔を見つめる。
「……なんで言わなかったの?」
「言ったら、逃げられる気がして。……俺、りいなに嫌われたくないから」
その言葉に、りいなの胸がぎゅっとなる。
(はるきって、ずっと素っ気ないのに、こういうとこ……ずるい)
はるきは、立ち止まって、りいなに向き直る。
「俺、りいなのこと、好きだよ。ずっと前から。 でも、海みたいにうまく言えないし、触れ方もわかんない。 だから、今日だけは……隣にいてほしい」
りいなは、はるきの手をそっと握った。
「……私も、はるきの隣、落ち着く。 選ぶのって怖いけど、選ばれたままじゃ、もっと怖いから」
はるきは、少しだけ目を見開いて、そして照れたように笑った。
「……りいなって、ずるい。俺のこと、ちゃんと見てるくせに」
「はるきこそ。ツンデレ炸裂しすぎ」
ふたりは、手を繋いだまま、水族館の奥へと歩き出した。
その背中を、すずが遠くから見つめながらつぶやいた。
「……りいな、選んだんだね。 でも、選ばれないってことは、選ばれた誰かを支えるってことでもあるんだよね」
海は、すずの言葉に目を細めて言った。
「すずって、実況係のくせに、いちばん深いこと言うよな」
すず「でしょ?でも、ほんとは……選ばれたかったよ」
その声は、クラゲの揺れよりも静かで、でも確かに痛みを含んでいた。
水族館の奥、ひっそりとした休憩スペース。 壁には青い波模様、天井にはクラゲのライト。 BGMは、かすかな波音と、遠くのイルカの鳴き声。 まるで“秘密基地”みたいな場所に、ペア行動を終えた4人が、時間差で集まってくる。
すずは、ソファに座ってペットボトルを開ける。 海は、少し離れたベンチに腰を下ろし、天井を見上げる。
すず「……なんか、疲れたね」
海「うん。人混みもあるけど……気持ちが、ね」
すずは、ペットボトルを握りながら、ぽつり。
「選ばれなかったって、言われたわけじゃないのに、勝手に傷ついてる。……バカみたいだよね」
海は、少しだけ笑って、すずの方を見た。
「俺も、同じ。りいなに“選ばれた”気がして、嬉しかった。でも、はるきといるときのりいな、すごく楽しそうだった」
すず「……見ちゃった?」
海「うん。笑ってた。俺には見せない顔だった」
すずは、少し黙ってから、言った。
「でもさ、りいなって、誰かを選ばないことで、全部を守ろうとしてる気がする。……それって、優しさだけじゃなくて、怖さでもあるよね」
海「選ばないって、逃げでもある。でも、選ぶって、誰かを傷つけることでもある」
すず「……青春って、めんどくさいね」
海「でも、めんどくさいから、忘れられないんだと思う」
ふたりは、静かに笑い合った。 その笑顔は、少しだけ切なくて、少しだけ優しかった。
りいなは、少し照れたように笑っている。 はるきは、無言でりいなの隣に立つ。 ふたりの距離は、明らかに近かった。
すずは、すぐに察して、笑顔を作る。
「おかえり〜!青春ペア、どうだった?」
りいな「……楽しかった。はるき、意外と優しいし」
はるき「意外って何だよ」
海は、ふたりの様子を見て、少しだけ目を伏せる。 その視線に、すずは気づいていた。
すず「ねえ、次のゾーン、“秘密基地”って呼ばれてるらしいよ。ちょっとした迷路になってて、4人で回れるみたい!」
りいな「秘密基地……なんか、いいね」
はるき「子どもっぽいけど、悪くない」
海「秘密って、誰かと共有すると、特別になるよな」
すず「じゃあ、4人で共有しよ。今日の“秘密”を、ここに置いていこう」
4人は、立ち上がって、迷路ゾーンへと向かう。
りいなは、ふと立ち止まって、3人を見渡す。
「……今日、誰かを選んだ気がするけど、 ほんとは、誰も選びきれてない気もする」
すず「それでいいんだよ。青春って、そういうもんだから」
海「でも、俺は、選ばれたいって思ってる」
はるき「……俺も」
りいなは、迷路の中へと一歩踏み出した。
(選ばないって、優しさだけじゃない。 でも、選ぶって、怖いだけでもない)
その背中を、3人が追いかける。
壁に貼られた“秘密の質問カード”を見つける。
「今日、一番ドキドキした瞬間は?」 「誰かに言えなかった気持ちは?」 「選ばれたいと思ったこと、ある?」
すずは、カードを見ながらつぶやく。
「……全部、言えなかったことばっかりだ」
海「でも、言えなかったことって、心に残るよな」
はるき「言えなかったからこそ、強くなる気持ちもある」
りいなは、カードをそっと折りたたんで、ポケットに入れる。
「じゃあ、これは“今日の秘密”にする。誰にも見せないけど、忘れない」
4人は、迷路の出口に向かって歩き出す。 その背中には、それぞれの“選ばれなかった気持ち”と、“選ばれたことの重さ”が、静かに揺れていた。
出口の前で、りいなが立ち止まる。
「……ねえ、みんな。今日のこと、全部“秘密”にしてもいい?」
すず「うん。でも、私はちょっとだけ覚えてたい」
海「俺も。りいなが笑ったこと、忘れたくない」
はるき「……秘密って、誰かに見つかるから、意味があるんだと思う」
りいなは、少しだけ笑って、言った。
「じゃあ、見つけて。私の“秘密”」
4人は、迷路を抜けて、光の差す出口へと向かう。
その瞬間、青春の“揺れ”が、少しだけ形になった気がした。
迷路の中は、静かだった。 壁は水色で、ところどころに鏡が貼られている。 自分の姿が、何度も映る。 まるで、自分の気持ちを見つめ直すように。
4人は、少しずつ距離を取りながら、迷路を進んでいた。
すずと海が、左の通路へ。 りいなとはるきが、右の通路へ。
すずは、鏡の前で立ち止まる。 鏡の中の自分は、少しだけ笑っていた。
海「……すずって、強いよな」
すず「強くなんかないよ。笑ってるだけ。泣かないように」
海は、すずの隣に立って、鏡を見つめる。
「俺、今日ずっと考えてた。りいなに“選ばれたい”って思ってた。でも、それって、すずを傷つけることでもあるんだよな」
すず「……うん。でも、私も、誰かに“選ばれたい”って思ってる。誰かに、ちゃんと見てほしいって」
海は、すずの手を取ろうとして、途中で止めた。
「……ごめん。今、手を握ったら、嘘になる気がした」
すずは、少しだけ笑って、言った。
「ありがとう。嘘つかない海、好きだよ」
その言葉は、告白みたいで、告白じゃなかった。 でも、海の胸には、静かに響いていた。
はるきは、壁に貼られた“質問カード”を見つける。
「“今日、誰かに言いたかったことは?”」
りいなは、カードを見て、黙った。
はるき「……俺、言いたいことある」
りいな「……なに?」
はるきは、少しだけ顔を赤くして、言った。
「今日、りいなとペアになって、すごく嬉しかった。 でも、それだけじゃなくて……俺、ずっと前から――」
そのとき、りいなが小さく首を振った。
「待って。……今、聞いたら、答えられないかもしれない」
はるきは、言葉を飲み込んだ。 その沈黙が、ふたりの間に流れる。
りいな「でも、嬉しかったよ。はるきが、そう思ってくれてること」
はるき「……じゃあ、いつか、ちゃんと言う。りいなが“選べる”ようになったら」
りいなは、少しだけ笑って、言った。
「そのときは、私も“選べる自分”になってるといいな」
ふたりは、通路を抜けて、出口へと向かう。
出口の前で、すずと海が待っていた。 りいなとはるきが合流すると、すずが言った。
「ねえ、みんな。今日の迷路、どうだった?」
海「……鏡に映った自分が、ちょっとだけ、好きになれた気がする」
はるき「言えなかったけど、言いたかったことは、ちゃんと残ってる」
すず「私も。言えなかったけど、伝わった気がする」
りいなは、3人を見渡して、言った。
「……今日、誰も“選ばなかった”けど、 誰も“選ばれなかった”わけじゃない気がする」
その言葉に、3人は静かにうなずいた。
4人は、出口を抜けて、光の差す広場へと出る。
その瞬間、青春の“言えなかった言葉”が、 確かにそこにあったことを、誰もが感じていた。
夜の水族館。 ライトアップされたイルカステージには、青と白の光が交差している。 観客席には、カップルや家族、友達同士――それぞれの“関係”が並んでいる。 その中に、4人も並んで座っていた。
すずと海が左側。 りいなとはるきが右側。 間には、微妙な距離と、言えなかった言葉たち。
イルカがジャンプするたびに、水しぶきが光を反射する。 歓声が上がる。 でも、4人の間には、静かな空気が流れていた。
(イルカって、誰かに教えられたわけじゃないのに、 ちゃんとタイミングを合わせてジャンプするんだ)
(私も、誰かと“タイミング”を合わせたいって思ってる。 でも、誰かを選ぶって、誰かを置いていくことでもある)
すずが、イルカのジャンプに合わせて小さく拍手する。 海は、静かにその横顔を見ている。 はるきは、りいなの隣で、何か言いたげに口を開きかける。
「……りいな」
りいなは、はるきの方を見た。 その瞬間、イルカが大きくジャンプして、 水しぶきが観客席に届いた。
すず「きゃっ、冷たい!」
海「すず、ほら、タオル」
すず「ありがと。……海って、やっぱ優しいね」
海は、少し照れたように笑う。
はるき「りいな、濡れてない?」
りいな「うん、ちょっとだけ。でも、気持ちいい」
はるきは、ポケットからハンカチを出して、りいなに差し出す。
「……これ、使って」
りいなは、ハンカチを受け取りながら、ふと考える。
(誰かの優しさって、こうやって、静かに届くんだ)
(でも、私はまだ、誰かを選ぶ勇気がない)
イルカが、最後のジャンプを見せる。 ステージが青く染まり、音楽が高まる。
その瞬間、りいなは――
すずの手を、そっと握った。
すずは、驚いた顔をして、りいなを見る。
りいな「……今だけ、いい?」
すずは、少しだけ笑って、手を握り返す。
海とはるきは、その様子を見て、何も言わなかった。 でも、どこかで納得しているような、そんな顔だった。
イルカショーが終わり、観客席がざわめく。 4人は、立ち上がって出口へ向かう。
その途中、りいなは言った。
「今日、誰かを選ぶことはできなかったけど、 誰かと“今を共有する”ことはできた気がする」
すず「それって、選ぶより大事かもね」
海「でも、俺は、いつか選ばれたいって思ってる」
はるき「……俺も。今日じゃなくても、いつか」
りいなは、イルカのステージを振り返って、つぶやいた。
「イルカって、ジャンプする前に、 ちゃんと水の中で助走してるんだよね。 私も、今はその“助走”の途中かもしれない」
その言葉に、3人は静かにうなずいた。
夜の水族館。 イルカのジャンプは終わったけれど、 4人の“青春の助走”は、まだ続いていた。
イルカショーの余韻が残る夜の水族館。 出口近くのお土産屋には、光るアクセサリーやぬいぐるみが並んでいる。 店内は、イルカの鳴き声を模したBGMが流れ、どこか夢の続きのような空気。
4人は、並んで店内に入る。 すずは、さっそく目を輝かせて棚を見渡す。
すず「はい注目〜!ここで青春ドラマ恒例、“お土産屋での選択イベント”が発生しました〜!」
海「……すず、実況始まったな」
すず「もちろん。ここは私のホームグラウンドだからね。 さてさて、誰が誰に何を渡すのか。選ばれたい気持ちが、形になる瞬間です!」
はるき「……うるさいけど、ちょっとドキドキするな」
りいなは、棚の前で立ち止まる。 そこには、“つなげると♥になるキーホルダー”が並んでいた。
青と白のイルカ型。 ふたつ合わせると、真ん中にハートが浮かび上がる。
すず「おっと、これは“ペア持ち”の王道アイテム! 渡したら最後、関係性が一歩進むやつ〜!」
はるきは、少し照れながら、りいなに言う。
「……りいな、これ、どう?」
りいな「え、えっと……かわいいけど、ちょっと照れるかも」
はるき「じゃあ、俺が買う。りいなに、持ってほしいから」
すず「きたー!はるき選手、攻めに出ました! これは“選ばせる”じゃなく、“選びに行く”スタイル!」
海は、少し離れた棚で、別のキーホルダーを見ていた。 でも、視線はずっと、りいなとはるきの方へ向いている。
すず「そして海選手、静かに嫉妬モード突入か……? このまま黙って見てるだけじゃ、青春は逃げるぞ〜!」
はるきが、レジに向かおうとしたその瞬間――
海が、すっと手を伸ばして、キーホルダーを取り上げた。
海「それ、俺が買うよ。……代わりに、こっちを渡したい」
海が差し出したのは、赤と黒のシンプルなハート型キーホルダー。 ペアじゃないけど、ひとつで完結する“選ばれたい”の象徴。
すず「うわっ、海選手、まさかの“横取り”ムーブ! これは波乱の展開!イルカショーより跳ねてるぞ〜!」
はるき「……海、それ、ずるいだろ」
海「ずるいよ。でも、俺、ずるくなってもいいって思った。 りいなに、選ばれたいから」
すず「青春って、ずるくなる勇気が必要なんだよね。 でも、ここでりいな選手がどう動くかが、最大の見どころ!」
りいなは、ふたりの間で、キーホルダーを見つめる。 青と白のイルカ。赤と黒のハート。 どちらも、誰かの“気持ち”が込められている。
すず「さあ、りいな選手、選択の時です! “選ばない”という選択肢もあるけど、それは果たして逃げか、優しさか――」
りいなは、ふたりのキーホルダーを両手に持って、言った。
「……どっちも、もらっていい?」
海とはるきは、驚いた顔をする。
りいな「どっちも、嬉しかった。どっちも、選びたかった。 でも、今はまだ、選べない。だから、両方持って、 “選ばない私”を、選ばせてほしい」
すず「うわぁ……それ、最高にりいならしい。 “選ばない”ことで、全部を受け止める。 それって、誰よりも強くて、誰よりも優しい選択だよ」
海は、少しだけ笑って、言った。
「……それ、りいならしいな」
はるき「ずるいけど、許す。りいなだから」
すず「じゃあ、私も何か買おうっと。りいなとおそろいの、ペンとか! “選ばれない実況係”も、ちゃんと青春してるからね!」
りいなは、ふたりのキーホルダーをポケットにしまいながら、つぶやいた。
「……選ばないって、誰かを傷つけることかもしれないけど、 選ばれないって、誰かの優しさを知ることでもあるんだね」
すず「名言出ました〜!青春名言ランキング、堂々の1位!」
お土産屋を出る4人。 ポケットの中には、ふたつのキーホルダー。 りいなの“選ばない”が、誰かの“選ばれたい”を、そっと包んでいた。
そしてすずは、最後に小さくつぶやいた。
「……でも、いつかりいなが誰かを選ぶとき、 私はその瞬間を、ちゃんと実況するから。 泣いても、笑っても、全部見届けるから」
夜の水族館。 イルカのジャンプは終わったけれど、 青春の“選ばれたい”は、まだ跳ね続けていた。
水族館を出た4人。 夜の空気は少し肌寒くて、でも心にはまだ熱が残っている。 イルカショーの光、お土産屋でのキーホルダー事件――それぞれの“選ばれたい”が、静かに揺れていた。
駅までの道を、並んで歩く。 すずと海が前を歩き、りいなとはるきが少し後ろ。
すず「いや〜今日の水族館、ドラマ満載だったね!イルカショーにキーホルダー事件、そして“選ばない”りいな選手の名言!」
海「……すず、実況はもう終わりでいいんじゃない?」
すず「え〜?青春は24時間実況対象だよ? 今だって、誰かの心がざわついてる気がするし」
海は、笑いながらも、どこか目が笑っていない。 すずは、その横顔を見て、ふと声を落とす。
すず「……海、悔しかった?」
海は、少し黙ってから、ぽつりと答える。
「……悔しかった。すごく」
すず「……そっか」
海「はるきが、りいなにキーホルダー渡そうとしたとき、 俺、心臓がぎゅってなった。 “ああ、俺じゃないんだ”って、思った」
すず「でも、りいなは“選ばない”って言ったよ。 それって、海のこともちゃんと見てるってことじゃない?」
海「わかってる。頭では、わかってる。 でも、心が納得してくれないんだよ。 俺、今日ずっと、りいなの隣にいたかった。 イルカショーも、キーホルダーも、全部―― 俺が渡したかった。俺が笑わせたかった」
すずは、海の言葉に、静かにうなずく。
すず「……海って、いつも余裕あるように見えるけど、 ほんとは、誰よりも“選ばれたい”って思ってるよね」
海「……そうかも。俺、誰かに“特別”って思われたくて、 でもそれを隠すのが癖になってて。 今日、りいながはるきに笑ったとき、 俺、初めて“嫉妬”って感情が爆発した」
すず「爆発してたね。キーホルダー、取り上げたとき、 私、実況しながら内心ドキドキしてたもん」
海「……ごめん。あれ、ほんとはやっちゃいけないことだった。 でも、止められなかった。 りいなが、はるきの手を取る前に、俺が何かしたかった」
すず「それって、青春じゃん。 “止められない感情”って、まさに青春の証拠だよ」
海は、少しだけ笑って、言った。
「……でも、りいなは“選ばない”って言った。 それが、優しさだってわかってるのに、 俺は“選ばれたい”って思ってしまう。 それって、わがままだよな」
すず「わがままじゃないよ。 誰かに選ばれたいって思うのは、 誰かを大事にしてる証拠だから」
海「……それ、りいなも言ってたな」
すず「うん。りいなって、誰かを傷つけないように、 全部を受け止めようとする子だから。 でも、誰かが“選ばれたい”って言ってくれないと、 りいなは、ずっと“選ばない”ままでいる気がする」
海「……じゃあ、俺、ちゃんと言うよ。 りいなに、選ばれたいって。 今日じゃなくても、いつか。 そのときは、俺のこと、ちゃんと見ててって」
すずは、海の言葉に、少しだけ笑って言った。
「よし、実況係として、しっかり記録しました! “海、選ばれたい宣言”――青春名言ランキング、2位!」
海「1位は?」
すず「もちろん、“選ばない私を選ばせてほしい”だよ。りいな、強すぎ」
そのころ、りいなとはるきは、少し離れた場所で歩いていた。
はるき「……りいな、今日さ、俺、何回も言いかけたんだ」
りいな「うん。わかってた」
はるき「でも、言えなかった。 りいなが“選ばない”って言ったとき、 俺、言葉が全部止まった」
りいな「……ごめん。はるきの気持ち、嬉しかった。 でも、今の私は、誰かを選ぶより、 みんなと一緒にいたいって思っちゃった」
はるき「わかってる。りいなは、そういう子だって。 でも、俺は、選ばれたいって思ってる。 それって、わがままかな?」
りいなは、少しだけ立ち止まって、はるきの方を向く。
「わがままじゃないよ。 誰かに選ばれたいって思うのは、 誰かを大事にしてる証拠だから」
はるき「……じゃあ、いつか選ばれるように、俺、頑張るよ」
りいな「うん。私も、いつか“選べる自分”になるから」
ふたりは、また歩き出す。 その背中には、言えなかった言葉と、こぼれた本音が、静かに揺れていた。
すずと海が、コンビニの前で立ち止まる。
すず「ジュース買ってく?青春の締めに」
海「いいね。りいな、はるき、何か飲む?」
りいな「じゃあ、レモンティー」
はるき「俺は、ミルクコーヒー」
すず「了解〜!青春ドリンク、発注入りました!」
海は、レジに向かいながら、ふとつぶやいた。
「……選ばれない夜って、ちょっと苦いけど、 誰かと分け合えたら、甘くなる気がする」
すず「それ、実況に使わせてもらうね。 “選ばれない夜は、誰かと分けると甘くなる”――名言!」
4人は、ジュースを手にして、駅へ向かう。 夜風が、少しだけ優しくなった気がした。
街灯の下、4人の足音がリズムの違うメロディみたいに響く。静かな海辺の道。暗い空にイルカのショーの歓声がまだどこかに残ってるような気がして。
りいなが、突然、ぽつりと口を開いた。
「ねぇ、すずってさ、結局どっちなの?はるき派?海派?てか、あたし、みんながすずのこと好きなのわかってたよ?てかむしろ、あたしのこと好きって言いなよ。そしたらすべて丸く収まるでしょ?」
笑ってるつもりだった。冗談みたいに言ったつもりだった。でも空気が、急に音をなくした。3人が足を止めて、同時に「え?」って息を呑んだのがわかった。
その瞬間、頭が真っ白になった。冗談として流せばいいのか?それとも、りいなの言葉には何か気づきがあったのか?すずが照れてるのも、はるきが眉間に皺寄せてるのも目に入る。だけど、りいなだけが笑ってる。無邪気に、でも少し寂しそうに。
「全部わかってるよ」って、その笑顔はなんなんだ。怖いくらいに、鋭い。
「俺が…すずを好きってことも、りいな知ってたのか?」 内心でそう呟いたけど声に出せなかった。すずのことを見てる自分に、りいなが気づいてたことも、なんとなく恥ずかしくて。海がすずを見てる視線にも、ずっと気づいてた。でも、その“好き”が、もう俺じゃないかもってことを、りいなの言葉がはっきりさせてしまった。
どう反応していいかわからず、「お前…そういうの、言いすぎ」ってだけ、絞り出す。
心臓が跳ねた。りいなの言葉は、なんでそんなに真ん中を撃ち抜くの。冗談みたいに言うくせに、全部知ってるみたいな顔して。
はるきの視線、海の沈黙。そして、りいなの笑顔。 自分の気持ちが、みんなの前で晒されたような気がして、でもそれは本当は自分自身もまだ曖昧で。
「わたし…別にどっちって…」って言いかけたけど言葉にならなかった。
3人はちょっと距離を置いて歩き出す。すずの横には海。背後からはるき。りいなは先頭で歩きながら、「なんか空気重くない?あたし、正直者すぎ?」って笑う。その声が、夜に溶けていく。
この帰り道。誰かが嘘をついていたわけじゃない。ただ、誰も本当の気持ちを出せなかっただけ。
夜の駅。 水族館の余韻を抱えた4人は、並んで電車を待っていた。 ジュースの缶を手に、誰もが少しだけ沈黙している。 でも、その沈黙は、心の中でざわめいていた。
電車が到着し、4人は並んで座る。 すずとりいなが窓側、海とはるきが通路側。 車内は空いていて、静かだった。
すず「さてさて、青春列車が発車しました〜! このままじゃ終われないよね?何か、イベント起こそうよ!」
はるき「じゃあ、ゲームでもする?」
海「ゲームって?」
はるき「スマホの“青春ルーレット”ってやつ。 質問とか罰ゲームがランダムで出てくるやつ」
すず「きたー!青春ルーレット! これは“選ばれたい”と“選ばれたくない”が交差するやつ〜!」
はるきがスマホを取り出して、アプリを起動する。
はるき「じゃあ、順番に回していこう。最初は……俺から」
スマホの画面がくるくる回り、止まった。
「罰ゲーム:隣の人の耳元で“好き”って囁く」
すず「うわっ、いきなりドキドキ系きたー! これは、青春列車の急加速!」
りいな「え、ちょ、まって……」
はるきは、りいなの方を見て、少しだけ笑う。
はるき「……罰ゲームだし、やるよ」
りいなは、顔を真っ赤にして固まっている。 すずは、ジュースを握りしめながら実況を続ける。
すず「これは、青春の“耳元爆弾”! りいな選手、回避不能の照れモード突入!」
はるきは、そっと顔を近づけて、りいなの耳元に囁いた。
「好き」
その声は、静かで、でも確かに届いた。 りいなは、顔を真っ赤にして、ジュースを一気に飲み干す。
すず「うわぁぁぁ!これは実況不能!青春の爆発音が聞こえた! 耳元で“好き”って、反則級の破壊力!」
海は、黙ってスマホを見つめていた。 その目は、笑っていない。 拳が、少しだけ震えている。
すずは、海の様子に気づいて、そっと声をかける。
すず「……海、嫉妬してる?」
海「……してる。めちゃくちゃ」
すず「でも、罰ゲームだよ?」
海「罰ゲームでも、俺はりいなに“好き”って言いたかった。 俺が言う前に、はるきが言った。 それが、悔しくて、苦しくて、どうしようもない」
すず「……青春って、そういうもんだよ。 “言いたかった”が、誰かに先を越される。 でも、それがあるから、次は“言いたい”じゃなくて、“言う”になる」
海は、スマホを手に取って、次のルーレットを回す。
画面がくるくる回り、止まった。
「罰ゲーム:好きな人の名前を言う」
すず「うわっ、これは“本音直撃系”! 青春列車、ついに告白ゾーン突入!」
海は、画面を見つめて、少しだけ笑った。
「……りいな」
その言葉は、静かで、でも誰よりも強かった。
りいなは、驚いた顔で海を見る。 はるきは、少しだけ目を伏せる。 すずは、ジュースを落としそうになりながら叫ぶ。
すず「きたー!海選手、ついに告白! “罰ゲーム”という名の本気宣言!青春名言ランキング、更新です!」
海「……罰ゲームって言えば、言える気がした。 でも、ほんとは、ずっと言いたかった。 イルカショーのときも、お土産屋でも、電車に乗る前も。 ずっと、言いたかった」
りいなは、何も言わずに、ポケットの中のキーホルダーを握りしめた。 青と白のイルカ。赤と黒のハート。 どちらも、誰かの“好き”が詰まっている。
はるきは、静かに言った。
「……俺も、りいなが好きだよ。 でも、海の“好き”は、俺よりずっと深かった気がする」
すず「うわぁ……これは実況じゃなくて、感想になっちゃう…… でも、青春って、そういうもんだよね。 “好き”がぶつかって、誰かが傷ついて、誰かが前を向く」
りいなは、そっとポケットからキーホルダーを取り出した。 ふたつのキーホルダーを見つめながら、つぶやく。
「……選ばないって、誰かを傷つけることかもしれないけど、 選ばれたいって言ってくれる人がいるって、 それだけで、私は救われてる気がする」
電車は、次の駅に近づいていた。 でも、4人の“青春列車”は、まだ止まらない。
クロスシートの電車。窓の外には海がぼんやり広がってて、みんながそれぞれジュースを飲んでる音だけが鳴ってる。
はるきがふとスマホを取り出して、いたずらな表情で言う。
「水族館のゲームで一番ポイント低かったやつ…罰ゲームってことで、“誰かに本気っぽい告白”ね。」
「うわ、えぐ〜!」「マジ!?」「楽しそう〜!」って反応が散ったあと、スマホのルーレットアプリがくるくる回り——止まった先には、《りいな》の名前。
「うえ〜、あたしかい!でも…逃げないし!」
ふざけるテンションで立ち上がり、海の方を指差す。みんなの視線がぴくって動く。
「じゃあ言うね、罰ゲームだけど、海のこと好きです。海の冗談とかで場を盛り上げてくれるとことか困ったときにいつも一番に気づいてくれるとことかが、ずるいくらい好きです。…てか、りいなのこと好きでしょ?わかってんだから。」
笑ってる。ほんとはちょっと照れてる。でも、それ以上に“言ってしまえ精神”が強くて、本気と冗談の間を走ってる。
はるきとすずが少し黙ってしまったあと、空気を変えるようにりいなが海の肩をポンっと叩く。
「いや〜、罰ゲーム告白って言ったけど、ほんとに言うと思わなかったでしょ?てか、海の顔ちょっと赤い〜!」 「別に…赤くないし。」 「はい照れてる〜!りいなのこと好きなんでしょ〜?」 「…まぁ、嫌いではない。」 「それ、遠回しすぎん?もっとこう!好きって言って〜!」
2人のやりとりに、はるきが「お前らテンポ良すぎだろ」と笑って呟くけど、どこか胸がざわついていた。
すずはそのやりとりを見つめながら、ふとペットボトルのキャップをぎゅっと握る。りいなが冗談みたいに海に“好きだよ”って言って、海が「冗談じゃなくて普通に好きかもよ」ってさらっと返す——そんな会話が、ただの遊びみたいで、だけど本当はすごく羨ましかった。
言葉が出ない。目をそらしたいけど、できない。りいなの告白は、罰ゲームの枠を超えてた。本当の“好き”が混じってる。それが伝わって、心臓が跳ねた。
すずの方をちらっと見た。彼女が一瞬目を伏せる。その様子で、海は自分の心に確信が芽生えてしまった。 ——“気になるのは、すずだったのに。”
でもりいなの真っ直ぐさに、嘘で返すことはできない。
「…罰ゲームってこんな空気になるっけ?」って心の中で叫んでた。
りいなの告白が冗談なのか本気なのか分からない。でも、すずの視線が海を追ってるのを見て、全部がひっくり返った。
自分が、すずの中にいないかもしれない——それがハッキリ見えて、背筋がちょっと寒くなる。
何も言えない。ジュースを飲む音だけが響いてる。
笑えなかった。りいなの告白を見て、海がどんな顔をしているかずっと気になってた。
それが、あの無口な彼が赤くなってることで全部伝わった。 ああ、海はりいなの“好き”に照れてる。でもその顔、すごく複雑で。誰も知らない海の揺れを感じた。
そして、自分の心が“ざわざわ”って鳴ってる。 ——海がりいなの“好き”を受け止めたとしたら、自分の気持ちはどうなる?
ドアが開いて、少し風が入り込む。
りいなが「次はすず!罰ゲーム返しで、誰かに告白してみて〜!」と無邪気に笑う。車内は緊張と沈黙、そしてどこか期待と不安が入り混じってた。
すずが、膝の上でペットボトルのキャップをくるくる回してる。心の中では、いくつもの名前が浮かび、消えていく。
はるきとすずが少し黙ってしまったあと、空気を変えるようにりいなが海の肩をポンっと叩く。
「いや〜、罰ゲーム告白って言ったけど、ほんとに言うと思わなかったでしょ?てか、海の顔ちょっと赤い〜!」 「別に…赤くないし。」 「はい照れてる〜!わたしのこと好きなんでしょ〜?」 「…まぁ、嫌いではない。」 「それ、遠回しすぎん?もっとこう!好きって言って〜!」
2人のやりとりに、はるきが「お前らテンポ良すぎだろ」と笑って呟くけど、どこか胸がざわついていた。
すずはそのやりとりを見つめながら、ふとペットボトルのキャップをぎゅっと握る。りいなが冗談みたいに海に“好きだよ”って言って、海が「冗談じゃなくて普通に好きかもよ」ってさらっと返す——そんな会話が、ただの遊びみたいで、だけど本当はすごく羨ましかった。
「じゃあ次は、“お互いのことを10秒間見つめ合う”とかどう?」 りいなが急に言い出す。 「すずと海でやってみて〜!」
海は一瞬固まる。すずは「え…それ罰ゲームじゃないじゃん!」って笑うけど、頬が赤くなってる。
「じゃあ、罰ゲーム風に言ってあげようか。“すず、海のことちょっと好きなんでしょ?”」 りいなの無邪気な爆弾発言。 また空気が止まる。でも、誰も否定しない。
車窓の向こうには、街のネオンが滲む海岸線。クロスシートで向かい合った4人は、さっきまでの罰ゲームの名残りを少し引きずっていた。
けれど、空気はすこしずつ変化していく。りいなが、海とふざけ合いながら笑ってる。その笑い声に少し安心しながらも、他の3人の気持ちは、静かに軋んでいた。
「だからさ~、海はりいなのこと好きなんでしょ~?」 「うるさい、そういうの人前で言うな」 「はいはい〜好きって言った~!てか、あたしも海のその照れ方けっこう好きだよ~?」
りいなの爆弾みたいな言葉が車内に響く。軽いけど、それだけじゃない。“軽さ”の中に“深さ”が見える。海は、少しだけ視線を逸らしながら、
「……マジで、冗談っぽく言うけど…実際、好きだよ。りいなのこと。」
視線を合わせずに言ったその一言が、車内の温度を変えた。
その会話、全部聞こえてた。でも目を合わせられない。 ペットボトルのキャップを握ったまま、小さな溜息。 胸の奥がきゅってなった。自分が何を感じてるかなんて、誰にも言えない。でも、海が“好き”を本気で言った時の声のトーン——それは、すずの中のなにかを確かに揺らした。
ふと、はるきの視線を感じた。彼もすずを見ている。だけど、すずはそれに応える余裕がなかった。
海がりいなに“好き”って言ったその瞬間、はるきはすずの反応ばかり見ていた。 りいなの笑い声の裏で、すずがちょっと唇を噛んだのを見た。 ああ、やっぱり——。すずは、海を見てる。
でも、それでも自分の中の“好き”は変わらない。言えないけど。気づかれなくても。 自分の“好き”は、すずが笑ってくれるその瞬間にあった。
アの上の電光板が光って、「次は◯◯駅です」と流れる。 りいながふと、すずの顔を覗き込む。
「ねえ、すず。ちょっと顔赤いよ〜?好きな人がいるってことじゃない〜?」
「ちがっ…あの…!」 すずは慌てて否定しかけるけど、声が震えてる。
「じゃあ、誰のこと気になってるの?海?はるき?それとも……あたし?」
冗談みたいなりいなの問いかけ。でも、誰にも笑えない。
すずは、そっと海を見た。だけど——
「……わかんない。まだ、わかんない。」
車両の揺れに身を任せながら、小さな声でそう言った。 けれどそれは、誰かを拒絶したんじゃなくて——誰かを選びたい気持ちが、まだ揺れてるということ。
車内は静かだった。誰も降りないこの時間、外のネオンが反射して窓は鏡のように揺れている。りいなと海がスマホを見ながらくすくす笑っているその横で、すずはペットボトルのキャップを指で何度も何度も回していた。
彼女は、さっき海がりいなに向けた“好き”の言葉を聞いていた。冗談のようでいて、本気のニュアンスが混じったあの一言。自分には、向けられていない。向けられるはずだと思っていたから——その違いに、小さな痛みが生まれる。
「うわ、りいなの顔がくまになった。やば、これ保存するわ」 「ちょっと!くまの顔で保存とか人権ないじゃん〜」
ふざけたやりとりの中に、ふたりだけの呼吸があった。誰かが割り込む余地はなくて、しかもふたりはそれを特別だと思ってない——自然すぎて気づかないだけ。でも、それがすずにはよく見えた。
海の“好き”が、りいなに向いている。それが真実だと確信した瞬間、すずは心のどこかで、そっと“あきらめ”を選び始めた。
「ねえ、りいな。あのときの罰ゲーム、ほんとはさ…お前が罰じゃなかったらよかったって、思ってた。」
ぽつん、と海が漏らしたその言葉に、りいなの笑顔が少し止まる。 でもすぐ、ふざけて返す。
「…なにそれ~今さら好感度上げようとしてる?」 「別に…うるせぇな。上げるつもりねぇし。」
でも、その声のトーンは、照れ混じりの本気だった。
「ねぇ、すず。顔赤いけど?好きな人いたんじゃない~?」 「……いないよ。…もう、いない。」
りいながちょっとからかうように声をかけたとき、すずは小さく否定した。 だけどその声は、少しだけ震えている。
「じゃあ、誰か気になる人とかいないの?海?はるき?それとも…あたし?」 「……わかんない。でも、ただ見ていてくれる人の方が嬉しいって思った。」
その言葉を口にした瞬間、自分でもびっくりした。 気づいたんだ、自分の中で大事だったのは“好き”って叫ばれることじゃなくて、“見ていてくれたこと”だったんだって。
すずはそっとバッグのポケットを開いて、小さな紙に気づく。 ペンギンの絵——自分が描いたものに似ている。誰かが真似して描いてくれた。 震えた文字のひとこと。
「すずの世界に、俺も入りたい。」
それを見たとき、すずは顔を上げて、はるきを見つめた。 はるきは目を逸らさず、静かに頷いた。
アナウンスが鳴る。「次は〇〇駅です。」 ドアが開く。でも、誰も立ち上がらない。
りいなが少しだけ真剣な顔ですずを見る。
「ねえすず、あたしってけっこう本気で好きごっこするタイプなんだけど、どう?」
すずは、一瞬驚いて笑う。 そして、小さく言った。
その言葉に、りいなはニヤリと笑う。 海は不思議そうにすずを見て、はるきは黙って座っていた。
でも、もう言葉じゃない何かが、車内を包んでいた。 それぞれの“本気”が、少しずつ重なっていく。 それが、すれ違いなのか運命なのかは——まだ、この電車がどこまで走るか次第。
終電が近づく時間帯、車内はまばらな乗客と淡い蛍光灯に満ちている。 クロスシートの四人、それぞれが“誰を見てるか”によって、空気の温度が違っていた。
「おい、それ俺の制服の袖じゃなくて腕な、触りすぎ」 「え〜?勝手に隣に座ってるくせに〜」 「隣空いてんだから、ちょっとぐらい詰めるだろ普通」 「普通じゃないでしょ、この近さは〜。ちょっと、好きってことでしょ?」
りいなが軽く肩を海にぶつける。それに海は呆れた顔をしながら、でも——
「…そういうとこ、マジでずるい。そういうの言うから、俺、ほんとに好きになるだろ。」
声は低くて、照れてて、だけど噓じゃなかった。 りいなは口元を手で隠して、ほんの少し赤くなった頬を隠そうとする。 「…じゃあ、ほんとの“好き”ってどんなのなの?」
海は一瞬黙って、そして耳元に近づく。 「“俺の隣にずっと座ってろ”って言いたくなるやつ。」
静かな車内に、心臓の音だけが響いていた。
はるきは目の前で起きている光景を、まるで映画のワンシーンみたいに眺めていた。 海とりいなが、目で、距離で、言葉で、あからさまに引き合っている。 ——でも自分も、同じくらいりいなのことが好きだった。
けれど自分の“好き”は、目立たない。 でも、伝えたかった。
はるきは、リュックの前ポケットに入れていた小さなチョコをひとつ、りいなの荷物の上にそっと置いた。 メモも何もない。ただ、包装紙の柄がりいなの好きそうな“ゆるくま”だった。
すずがそれに気づいて、はるきをちらっと見る。 はるきは目をそらさず、りいなを見ている。
「……りいなのこと、ずっと前から好きだった。」
声が小さかった。でも、ちゃんと届いた。 りいなの顔が、ぱっと、すこしだけ驚いたように向けられる。
海の“近さ”も、はるきの“静けさ”も、ぜんぶ心をくすぐる。 車内の揺れが、自分の気持ちの揺れと重なってくる。
「もー…そういうこと急に言うの、ずるいってば。どうしたらいいかわかんなくなるじゃん…」
りいながそう言ったとき、すずはすこしだけ微笑んで、窓の外を見ていた。 それぞれの“好き”がりいなに向いてる。 でもその中心にいるりいなは、まだ誰かを選べない。 それが——一番青春らしくて、甘い夜。
ドアの上のランプが光る。車両が揺れる。
「ねぇ海、次の駅でも隣座っててよ?その方が落ち着く」 「だから、そういうの言うなって。……まあ、降りるまで座っててやるけど」
「ありがとう。ってか、それちょっと好きな人に言うやつでしょ?」
「だから言ってんだって…わかれよ」
その言葉を聞いて、はるきはすこしだけ肩を落とす。 でも、それでも見ている。 りいなのことを、誰より真剣に。
終電前、ゆったり揺れる電車の中。ふたりの“好き”が向いているのは、りいな。 はるきは静かに真剣で、海は軽やかに冗談交じりで。 そのふたりの視線の真ん中にいるりいなが、ふいに口を開いた。
「ねぇ、罰ゲームってまだ続いてるんでしょ?じゃあさ、次は…“りいなが誰を選ぶかゲーム”ってどう?」
言った瞬間、すずが「それ罰ゲームじゃなくて告白じゃん!」って笑う。 でも笑いのあと、少しだけ空気が変わった。
りいなは制服の袖を引っ張って、ちょっと考えるポーズをしながら続ける。
「選択肢はもちろん、はるきか海。あたしのこと好きって言ったんだし。」 「えぐいゲーム…」と海がつぶやく。 「……選ばれるのって怖いな」とはるきが小さく言う。
でもりいなは、楽しそうに続ける。 「じゃあ、質問に答えてもらって選ぼっかな?」
「第一問。あたしが風邪ひいた時、どんな看病してくれる?」
・海:「絶対りいなの家でゲームしながら看病する。ポカリ飲ませてスマブラして、笑わせて治す」 ・はるき:「鍋つくって、薬飲ませて、静かに横に座る。でもあんま喋んないかも」
りいな、にやにやしながら「どっちもいいなぁ…」って言う。
「第二問。夜中に“ひとりで泣いちゃった”ってLINE送ったら、どう返す?」
・海:「『今から行くけど、牛丼食う?』って返すかも。わりと雑な優しさ」 ・はるき:「『電話しよ』って送ると思う。声聞けば、少し落ち着くでしょ」
「うわー、それもどっちもアリ…」とりいなが両手で顔を覆う。 すずは笑いながら、「選ぶって難しいんだね」と言う。
「じゃあ、最後の質問。あたしが“誰にも選ばれないかも”って思ったら、どうする?」
・海:「え、誰にも選ばれないって…あんた、誰より選ばれてんじゃん。むしろ俺が不安だし」 ・はるき:「そんなこと言わせない。おれずっと見てるから。りいなのこと、ずっと見てる」
沈黙が流れる。車両の揺れと、夜の鼓動が重なったみたいな時間。
そして、りいながそっと手を伸ばして、すずの肩に寄りかかる。
「ねえ、すず。これってさ……“どっちも好き”って言っちゃダメかな?」
すずは微笑む。「それ、青春すぎるでしょ」
りいなは笑いながら、「じゃあ、あたしは今夜くらい“全部好き”ってことでいい?」と、小さく言った。 はるきも海も、それぞれ言葉にはしなかったけど——その言葉に、ほんの少しだけ安心しているようだった。
車両が少し揺れた瞬間、りいながふたりを見つめて言った。 照れでも冗談でもなく、でも笑顔は残しながら。
「じゃあさ…二人ともデートして決めるわ。あたし、どっちかひとりに絞るなんて無理だし」
一瞬沈黙。すずが「え、それってりいなが王様すぎん?」って爆笑する。
でも、はるきはまっすぐうなずいて「…いいよ。どんなデートでも付き合う」 海は手を上げながら「俺もOK!でも絶対楽しいやつにするから!」と宣言する。