テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
琴寧
38
#織田信長
常陸之介寛浩
173
ーーーーー
上田原、砥石城の戦を終え――
方円は、父・信虎のもとへ報告を行っていた。
……実の兄弟、信廉の死という知らせも持って。
「上田原、砥石城の戦は、すべて終わりました」
方円は、静かに頭を下げる。
「それと……申し訳ございません」
「弟の信廉を、死なせる結果となりました」
「……!!!」
信虎は、しばし目を伏せた。
「それは、もう聞いておる」
そして、苦い声で呟く。
「……派手に分からせてくれたのお」
「晴……信玄も、こたえておろう……」
しばしの沈黙。
やがて、信虎はゆっくりと顔を上げた。
「……包円」
その声は、かすかに震えていた。
「もう、良いのではないか」
「なあ……そろそろ、辞めないか」
「わしが悪かった」
「また、大事な子を失ってしまった……」
信虎は、苦しげに胸元を押さえる。
「ワシが至らぬせいで……」
「それは……」
方円が言葉を返そうとした、その瞬間。
「……っ、ぐ……」
再び、頭が激しく痛み始めた。
「方円?!」
信虎が、慌てて身を乗り出す。
「どうした!!!」
ーーーーー
正蛇の声が、頭の中に響く。
『キニスルナ!!』
『お前は、正しい……』
『さあ……顔を上げよ!!』
『そのまま、正しい道を進むのだ!!』
『さあ……仕上げといこうではないか!!!』
『ようやく、馴染んできたな』
『お前と我は――』
『ひとつとなる!!!』
『恐れることはない』
『我と、共に成し遂げよう!!!』
「……っ、ぐ……」
方円は、頭を押さえながら呻く。
「あなたは……!!」
………………
(正しく戻さねば……)
(正しく……正しく……)
ーーーーー
「包円!!!」
信虎の声が、再び響く。
「大丈夫か!?」
方円は、ゆっくりと顔を上げた。
「……大丈夫です」
「ご心配をおかけしました。」
そして、父をまっすぐに見つめる。
「……それと、父上」
「大変申し訳ないのですが……。」
わずかに間を置く。
「もう、止まることはできませぬ!」
「もう、進むしかないのです!」
「恨んでくださって、良いのです!」
方円は、手にした槍を握りしめる。
そして――父である信虎へ、真っ直ぐに向けた。
「これが――。」
「正しくするための道なのです。」
「ご理解を、父上!!!」
信虎の視線が、包円を捉える。
(包円……!!!)
ワシは――確信した。
娘を、完全に壊してしまったのだと。
あの槍を渡さねば良かった。
偽名を使って、動かすべきではなかったのだ。
「すまぬ……」
「すまぬ……」
胸が押し潰されるように痛む。
「あ……か……」
そして――名を呼ぼうとした瞬間。
「……もう名は違ったな……」
「……包円……」
そこで、言葉は止まった。
ーーーーー
その頭に、再び正蛇の囁きが響く。
『それで良い』
『進め、進め……』
『復讐を遂げよ!!!』
『記憶という供物を我に捧げた以上――』
『止まることは許さぬ!!!』
『正義のために、進むのだ!!!』
『覚えていない……?』
『ああ……そうか……。』
『その記憶も、我がもらっていたからな』
『……仕方ない。』
『今の我とのやり取りも、忘れさせてやろう!!』
『心配するな。』
『父とのやり取りは、そのままにしておこう。』
『復讐の仕上げに、専念できるようにな!!!』
コメント
1件
みぅだよ🤍🥀読んだ……第12話「先代の後悔」。 父・信虎が「すまぬ」って繰り返すところ、胸がぎゅってなった。娘を壊したと確信する親の後悔、重すぎるし、切ない……。 でも、もう方円は止まれないんだよね。「恨んでくださって良い」って言葉、正蛇に操られてるけど、どこか覚悟も感じて、余計に苦しかった。 正蛇に記憶も奪われながら進むしかない娘と、それを見送るしかない父。 琴寧さんの書く“正義”の歪み方、本当にゾクゾクする……。次、どうなるんだろう。