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琴寧
38
#織田信長
常陸之介寛浩
173
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「さて……また、小笠原様と村上様のところへ行かねば」
方円は、ふと顔を上げる。
「………!」
そうして、隙を見て今川屋敷を飛び出した方円。
小笠原様は、待っていたと言わんばかりに、お屋敷の外で待っていた。
「待っておりましたぞ!!」
小笠原長時が、方円へ声をかける。
「方円殿……ささ、こちらへ」
ーーーーーー
そして、小笠原のお屋敷では、盛大な宴が開かれた。
私は招かれ、もちろん村上殿もいる。
百姓や兵――分け隔てなく賑やかで、笑い声が屋敷中に響いていた。
「いやー、よく働いてくれた!」
小笠原長時が、杯を掲げる。
「皆のおかげで、土地と誇りを取り戻すことができた。」
「村上殿も、よろしゅうございましたな」
「やはり、正々堂々と戦えば負けぬ」
「うむ」
村上義清も、杯を手に頷く。
「正々堂々と借りを返す場を得られたのは、小笠原勢の包囲のおかげ」
「真田を封じてくださったことにも、感謝する」
そして、村上は方円へ視線を向ける。
「そして、忘れてはいけない――」
「包円殿、感謝いたしますぞ!」
小笠原長時も、方円へ深く頭を下げる。
「この恩は必ず返します」
「何なりと、お命じを!」
村上義清と小笠原長時が、揃って言った。
「なら……」
方円は、静かに微笑む。
「そろそろ、動かしますかね」
「動かすとは……?」
村上が、首をかしげる。
「種があります」
方円は、ゆっくりと言葉を続ける。
「以前から仕込んでいた、埋伏の種――」
「そろそろ、動かす時です」
その笑みは、静かな狂気を帯びていた。
「内側から、崩してまいります」
「その前に――」
「……あの男に、手紙を送るとしましょう」
方円は、穏やかに微笑む。
「冷静さを取り戻させるために」
「???」
村上が、再び首をかしげる。
「それでは、こちらが不利になるのでは……?」
「ふふふ」
方円は、楽しげに笑う。
「私、皮肉は得意ですの」
槍を手に取る。
その瞳が、ほんのりと光った。
「大丈夫だろうか……」
小笠原が、不安げに呟く。
ーーーーーー
そして――あの男の元へ、その書状が届いた。
「皆の者――書状が届いた」
信玄は、集まった者たちへ告げる。
「今から読み上げる」
「距離は取ってくれ」
「また破り捨てられては困るからな」
そう言いながら、封を切る。
その手は、わずかに震えていた。
――――――――――
武田太郎殿、
良かったですね。
正しい領土に戻って――
正蛇 包円
――――――――――
「……ということらしい💢」
信玄の額に、青筋が浮かぶ。
「皆の者、何か案はないか」
「今度こそ、裏を取られるわけにはいかぬ」
「御館様――」
勘助が、慎重に声をかける。
「とりあえず、怒りは鎮めましょう?」
「……うむ」
信玄は、怒りを押し殺すように息を吐いた。
「動くにしても……」
典厩殿が、低く告げる。
「やはり、諏訪の皆様にも動いていただかねばなりますまい」
「先の敗戦で、兵が足りぬゆえ――」
「うむ」
信玄は、静かに頷く。
そして軍議は、何事もなく、いつも通り終わった。
そう――いつも通りに。
だが、妙な胸騒ぎがする。
勘助は、誰にも聞こえぬほどの声で、ぽつりと呟いた。
「…………」
――あの件が、勘助の胸に再び刺さる。
正体の見えぬまま、静かに状況を動かしていった“何か”。
その違和感だけが、今も拭えずに残っていた。
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その頃、由布姫の元にも動きが伝えられていた。
「……ということだそうで」
由布姫付きの女中が、小さく告げる。
「そう……ありがとう。教えてくれて」
由布姫は、静かに頷く。
(――そろそろですわね)
(父の仇……必ず!!)
胸の内で、強く誓う。
終わりの時が。
終着点が、近づいてきていた。
ーーーーーー
???
正蛇が、静かに嗤う。
「さあ、〆だ」
「愚かな武田の当主たちよ!!!」
「我らの裁きを、受け入れるのだ!!!」
コメント
1件
第十三話、読ませていただきました!方円の「皮肉は得意ですの」という笑みが本当に怖くてカッコよかったです…。あの短い手紙の〝良かったですね〟だけで信玄の青筋が立つ描写、最高に皮肉が効いてますね。由布姫の仇討ちへの決意も重なって、終幕に向けての緊張がぐっと高まってきました。勘助だけが違和感を覚えているシーンも気になります。次が待ち遠しいです!