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第八話 少しだけ、踏み込んで
いつもの時間。
サイトを開くと、
今日は珍しく相手の方から
先にメッセージが届いていた。
『今日、聞きたいことある』
『なに?』
『答えたくなかったら答えなくていい』
その前置きに、彼女は少しだけ身構えた。
『分かった』
『兄弟いる?』
思っていたより普通の質問だった。
『いるよ』
『へえ』
『そっちは?』
『俺もいる』
『何人?』
『それは秘密』
『なんで(笑)』
『なんとなく』
『またそれ?』
二人で笑う。
それだけの会話だった。
けれど、少しずつ
相手の生活が見えてくるような気がした。
家族。
学校。
友達。
休日。
今まで知らなかったことが、一つずつ増えていく。
『じゃあ、次』
『まだあるの?』
『好きな場所』
彼女は少し考えた。
『落ち着くところ』
『ざっくりしてるな』
『そっちは?』
『夜の公園』
『意外』
『なんで?』
『もっと明るいところ好きそう』
『どういうイメージ(笑)』
『なんとなく』
『またそれ言ってる』
笑いながら、二人は話を続けた。
好きなものを聞いて。
嫌いなものを聞いて。
苦手なことを聞いて。
少しずつ、お互いの輪郭が見えてくる。
それでも、肝心なところには触れない。
本当の名前。
顔。
住んでいる場所。
そして――
それぞれが何を抱えているのか。
そこだけは、まだ知らない。
『ねえ』
突然、彼女が送った。
『ん?』
『もしさ』
『うん』
『いつか会ってみたいって言ったら、どうする?』
送った瞬間、心臓が少し速くなった。
自分でも驚いた。
今まで冗談みたいに
「電話してみたい」と話したことはある。
でも、会うという言葉は少し違った。
返事が来ない。
一分。
二分。
彼女は画面を見つめた。
やっぱり変なこと言ったかな。
取り消そうかと思ったとき。
『俺も思ってた』
その文字が届いた。
彼女は目を見開いた。
『ほんと?』
『うん』
『でも、まだ先でいいよ』
『そうだね』
『急がなくていいし』
『うん』
それから少し間が空いて、
『いつか、ちゃんと会えたらいいね』
と届いた。
彼女はその文章を何度も読み返した。
「いつか」。
まだ具体的な日もない。
場所も決まっていない。
ただ、二人の間に
新しい約束のようなものが生まれた。
『うん』
それだけ返す。
すると、
『そのときは本当の名前教えて』
と届いた。
彼女は思わず笑った。
『それ、まだ覚えてたんだ』
『忘れるわけないじゃん』
『じゃあ、そっちもね』
『もちろん』
しばらくして、彼女は画面を閉じた。
会ってみたい。
そう思ったことが、少しだけ怖かった。
今までなら、画面の向こうにいるだけでよかった。
文字なら、考えてから送れる。
言いたくないことは隠せる。
でも、実際に会ったらそうはいかない。
それでも――
会ってみたいと思った。
翌朝。
学校へ向かう道で、
彼女は昨日の会話を思い出していた。
「いつか、か……」
まだ何も決まっていない。
それなのに、その言葉だけが妙に心に残っていた。
その日の夜。
サイトを開く。
いつものように相手からメッセージが届く。
『今日も来た』
『来たよ』
『昨日のこと、考えてた』
『私も』
『じゃあさ』
『うん?』
『本当に会うなら、どこがいい?』
彼女は少し考えてから、画面に文字を打った。
まだ何も決まっていない。
ただ、二人は初めて、
「いつか」を具体的なものに変えようとしていた。
#転生
桜咲かな
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コメント
4件
いえいえー! ほんとにそうなんですよね! 淡々と結末だけ書くより、 長くはなってしまうけど、 そう思った経緯を書いたほうがより想像しやすくなるし、 物語を楽しんでもらえるなと思ったので、 この書き方してます! わ!嬉しいです! そのほうが見えてくるものもあるので、 またそうやって読んでもらえたら嬉しいです!
M.Sさん、第8話読ませていただきました。 「会ってみたい」という言葉を送った後の、返事を待つ間の心臓の音——すごく伝わってきました。あの「俺も思ってた」の一言が、二人の距離をぐっと縮めた感じがして、読んでいてじんとしました。 まだ名前も顔も知らないまま、それでも「いつかちゃんと会えたらいいね」と約束し合う。その関係性の描き方がとても繊細で、胸が温かくなりました。次が楽しみです🌷