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#溺愛
桜咲かな
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桜咲かな
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#百合
第九話 まだ、名前のない約束
『どこがいい?』
昨日の最後に届いたその言葉を、
彼女は何度も思い出していた。
会う。
まだ具体的に決まったわけじゃない。
それなのに、朝から少し落ち着かなかった。
学校でも、
授業の合間にスマートフォンを確認してしまう。
もちろん、メッセージは来ていない。
今は授業中なのだから当たり前だ。
「……何してるんだろ」
自分で自分に呆れて、スマートフォンをしまった。
放課後。
友達と話しながら帰る。
いつもと変わらない一日。
それなのに、
頭の片隅にはずっと昨日の会話が残っていた。
家に帰って、夕食を済ませる。
宿題を終わらせる。
そして、いつもの時間。
サイトを開く。
すぐに通知が届いた。
『今日も早い』
『待ってた?』
『ちょっとだけ』
『私も』
昨日までなら、
こんなことを言うのに少し抵抗があった。
でも、今は不思議と自然だった。
『で、どこがいい?』
『それまだ考えてる(笑)』
『俺も』
『じゃあ決まらないじゃん』
『じゃあ候補出して』
彼女は考えた。
『人が多いところ』
『なんで?』
『初めて会うし、その方が安心かなって』
『確かに』
『そっちは?』
『俺も同じ』
それから二人で、いくつか候補を出した。
駅。
大きな商業施設。
人の多い広場。
どこも無難で、決め手がない。
『難しいね』
『うん』
『会うって、こんなに考えるんだ』
『俺も今思った』
二人とも少し笑った。
しばらくして、相手から届いた。
『でも、どこでもいいかも』
『なんで?』
『会えれば』
彼女は画面を見つめた。
たった三文字なのに、胸の奥が少し熱くなる。
『……そっか』
それだけ返した。
会いたい。
その気持ちは、もう二人とも隠さなくなっていた。
けれど、まだ一つだけ残っている。
名前。
『ねえ』
彼女から送る。
『ん?』
『本当の名前、いつ教える?』
『会う日』
『え』
『その方がいいかなって』
彼女は少し考えた。
確かに、その方がいい気がした。
画面の中で名前を知るより、
初めて顔を合わせたときに、
「本当はこういう名前なんだ」
と知る。
その方が、きっと忘れない。
『じゃあ私もそうする』
『約束ね』
『うん』
また一つ、二人の間に約束ができた。
それから少しして、話題は別のことに変わった。
好きな映画。
最近食べたもの。
休日に何をするか。
会う話をした後なのに、
結局いつも通りのくだらない会話になる。
そのことが、彼女には少し嬉しかった。
急に何かが変わったわけじゃない。
ただ、昨日より少しだけ近くなった。
そんな感じだった。
夜が遅くなり、そろそろ寝ようとしたとき。
『じゃあ、また明日』
『うん』
『おやすみ』
『おやすみ』
画面を閉じる。
彼女はベッドに横になった。
本当の名前を教える日。
初めて顔を見る日。
まだ、いつになるかは決まっていない。
それ
「いつか」が、少しずつ現実になっていく。
そんな気がした。
そして翌日。
いつものようにサイトを開いた彼女は、
まだ知らなかった。
「いつか」が、少しずつ近づいていることを。
コメント
4件
そうなんですよね! ほんとそうなんです! えー!嬉しいです!ありがとうございます!
おお、第9話……もうどんどん二人の距離が縮まってる感じがじわじわ来るわね。「会えれば」の一言で胸が熱くなる描写、すごく共感した。名前を直接会うまで取っておくって約束、いいなあ。画面越しじゃなく、対面で知るってロマンチックすぎる。日常のまま少しずつ変わっていく感じが、読んでてこっちまで温かくなるエピソードだった。次、どうなっちゃうんだろ…!