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1.恩師
「院瀬見だよな…?」
誰かに名前を呼ばれ、院瀬見は振り返った。
そこに立っていたのは─
「…塩谷のセンコー!!」
思い出したように目を見開く。
「相変わらず口が悪いなお前は。やっぱり院瀬見だ」
黒縁のメガネをかけた優しそうな男だった。
「結局デビルハンターになったんだなお前は…よく頑張ってるじゃないか」
「誰…?」
男と院瀬見の会話を聞いていたイサナが院瀬見に聞いた。
「高校んときの担任。まさかこんなとこで会うとは思ってなかったぜ…」
院瀬見はイサナに耳打ちをし、はぁーとため息を吐く。どうやらその様子からして、院瀬見はこの男をあまり良く思っていなかったようだ。
「で、お前はなんでここに来たんだ?」
ズレた話を戻してくれたかのように、男─塩谷は腕を組んで問いかけた。
「悪魔の気配がするってコイツが。なんか思い当たることねぇか?」
「悪魔が!?なんでそんな突然…」
「知るかよ……なぁイサナ、どこら辺に出そうとかないのか?」
「…絶対じゃないけど、変な臭いがする」
イサナが目をつぶって、その”臭い”の正体を突き止めようとする。
「臭い…といえば、確か今理科室で化学やってる学年が…」
思い出したように塩谷が呟いた。
「理科室ってどこだ?」
「あっちの2階の─」
塩谷が校舎の外から理科室を指さしたその瞬間。
ドカァァン!!!
「─ッ!?」
突如、理科室の壁に大きな穴が空いた。
2.毒
「なっ…!!」
「まずいぞ!!今すぐ生徒を避難させろ!!」
学校中が大騒ぎになった。院瀬見は理科室をじっと見つめている。
いる。何かが。
理科室から少し離れた廊下。そこで何か黒い影が蠢いているのが目に入った。
「イサナ!もしかしてあれが…!」
「悪魔…」
土煙が去り、2人ははっきりとその姿を捉えた。
鞭のような手足。紫色をした痣だらけの身体。その上に、重力を無視したように浮いている、ビーカーやフラスコなどの実験器具。そして、血を吐いたような、口元の赤い跡─···
「毒の悪魔…」
「毒…?」
聞き馴染みのない名前を耳にし、院瀬見はもう一度その悪魔を見上げた。
イサナは仲間になった時から悪魔に詳しい。例え姿が変わっても、気配で大体わかるのだという。
「センコー!あそこまでどうやったら行ける!?」
「さっき階段を確認してきましたが、壊れていて使えそうにありませんでした…!」
走ってきた別の教師が焦りながら答える。院瀬見は歯噛みした。
「クソッ…!階段が死んでたら悪魔を倒しに行けねぇ…!」
「─なら、階段を使わずに行けばいい」
突如、院瀬見の後ろから声がした。その場にいた全員が声がした方を振り返る。
「オオカミ…!」
声の主は院瀬見の契約悪魔─狼だった。
「頼んだ」
ドゴォ!!
「え”っ!?オイ!!バカ!!!!」
なんと狼は自身の大きな尻尾で院瀬見を跳ね飛ばしたのだ。悪魔の威力というものはやはり強く、院瀬見はいとも簡単に理科室まで吹っ飛んでいった。
狼は続けてイサナのことも吹っ飛ばした。飛ばされると分かっていたイサナだけは上手く着地する。
「院瀬見!大丈夫か!?」
塩谷が理科室まで吹っ飛んでいった院瀬見に大声で問いかける。すぐさま返事が来た。
「ここは私たちに任せろ!センコーは生徒を連れて安全な場所に!!」
「分かった!!」
院瀬見とイサナは悪魔のいる場所へと急いだ。
3.崩壊
「うわぁぁぁぁぁ!!!」
2人は悪魔の元へたどり着いた。生徒やクラスの担任など、全員が怯えて逃げ回っている。
「ウツボ!!」
イサナは右手を振りかざした。背後に控えていたウツボが飛び出し、悪魔の脇腹を思い切り抉る。
「アァ、ア、ア…デビルハンターだァ…」
悪魔はゆっくりと振り返り、ニィっと笑った。イサナの攻撃が効いていない。
「話しかけないで欲しいな。気持ち悪いから」
イサナはそう吐き捨て、再び手を振りかざした。
だがその時─。
キィン!!
イサナの振りかざした右手が、ゴトッと鈍い音を立てて床に落ちた。
「…!!」
突然のことに混乱し、イサナの動きが止まる。その隙を狙った悪魔が、イサナに先の尖ったハサミを勢いよく投げつけた。
「クソ!!」
院瀬見が全速力で駆け、イサナを攻撃される寸前で襟首を掴んで引っ張り寄せる。
「ちゃんと見とけ!!まだ来るぞ!!」
イサナが視線を上げると、院瀬見はこちらに向かって左腕を突き出していた。
意図を理解したイサナは一瞬ためらった後、院瀬見の左手首に噛み付いた。血を飲んだイサナから新たな右手が生えてくる。
「オオカミ!!」
パリン!!
爆発で砕けた壁とは反対側の壁の窓を突き破り、オオカミが勢いよく飛び込んでくる。
「センコーと生徒は!?」
「全員避難したようだ。一通り周ってみたが、人間はいなかったよ」
“人間は”な、という言葉と共に、狼は突然後ろを振り返り、前足で何かを思いきり叩き潰した。
「おい、何を─」
院瀬見はそこで言葉を切る。
「先にこっちを倒した方が良さそうだ」
院瀬見と狼の目の前にいたのは、手のひらに乗る大きさの、人間に近い形をしたものだった。
いや、“人間だったもの”、と言うのが正しいだろう。
「おい待て…一体何匹いやがんだ…!!」
「軽く200匹は超えているだろうね。本体が人間を改造して操っているようだ」
人間の頭や身体と似たような部分はあるが、何しろ小さい。全身紫色で、じっと首を傾げながらこちらを見つめている。
顔は、言うなれば「病気で顔が浮腫んだ赤子」といった感じか。無機質で、何とも不気味な表情を浮かべている。
そして、と、狼は続けた。
「あの小人は全員毒を持っている」
「毒…!?」
「あぁ。憶測でしかないから何とも言えないが、触れたらまず命はないだろう」
目の前で蠢く悪魔と、じっと佇む小人を交互に見て、院瀬見は歯ぎしりをした。
(クソ…ッ!あの小人と悪魔を同時進行で倒せるわけが─)
「院瀬見」
だが、院瀬見の心の中を読み取ったかのように、狼は言った。
「お前が1人だなんて誰も言っていない。あの小人は私とこのお嬢ちゃんで何とかする」
「え?」
狼の視線はイサナに向いていた。その様子を見て院瀬見は頷く。
「…分かった。気をつけろよ、お前らも毒効いちまうかもしれねぇからな」
「サシの勝負はお得意だろ」
「るせぇ」
そう言い残し、イサナと狼は院瀬見の立っている反対側に向かって走り去った。
「さて、邪魔な毒吐き小人もいなくなったことだし」
院瀬見はメスを構えた。
「本題といこうじゃねぇか」