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25 - 第25話 「お前が死んだら」

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2024年04月19日

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皆さまお久しぶりです、たけです。

この度長らくの多忙がやっと片付きました。楽しみに待っててくださった方がもしいましたら、お待たせしてごめんなさい。

またぼちぼち再開しようと思ってます。未だ懲りずに書いてます。

ほとんど趣味みたいたものですが、やっぱり書いたからには見てくださる方がいてくれた方が嬉しい、と。

文章力も何もかもグダグダな私ですが、これからもよろしくお願いします。




1.遠い記憶

『院瀬見』

『…あ?』

─数年前。学校が終わり、皆がザワザワと騒ぎながら外に出て帰路に着き始めたとき、周りより少し遅れて教室を出た院瀬見に塩谷は言った。

『いいのか?本当に』

『…何がだよ』

『お前がデビルハンターになるって話だ。今やデビルハンターはなると言っても驚かれないような一般的な…「普通」の職業に成り下がってる。よく”給料が高いからいい仕事”みたいに言われているが…正直なところ、俺はそうは思えない』

高校3年生だった当時、学校から出された進路希望調査に迷わず「デビルハンター」と記入し提出した院瀬見を、塩谷は少なかず気にかけていたのだ。院瀬見の睨みつけるような鋭い目をじっと見つめ、さらに続ける。

『心配なんだよ。お前は民間に入ってるからそういった類のことは多少は慣れてるんだろうが、それでも公安に入るとなると今までとは訳が違う。あんな考える時間も無しに提出して良かったのか?今ならまだ間に合う。考える時間も沢山あるんだし、もう一度考え直し─』

『─じゃあ何だ?諦めたら私の家族が戻ってくるとでも?』

塩谷の言葉を遮って、院瀬見は静かな声で言った。敵対心剥き出しで突っかかったようにも捉えられるその態度は、誰が見ても明らかに心地良いものではなかった。

『それは』

『そうじゃねぇんなら口出してくんな。心配するフリだけして、本当はそんなこと思ってもねぇクセに』

『ッ…そんなことは─!』

『私はあの時から復讐だけを思って生きてんだ。仇を取れりゃ、後は死のうが何になろうがどうでもいい。「あなたのためを思って」みたいな言い方してんじゃねぇ。余計なお世話なんだよ』

何かを失ったこともない奴が、と吐き捨て、院瀬見は塩谷に背を向けて去っていく。彼女の発した言葉はほぼ全て言いがかりだった。

よわい12で自身を除く家族全員が失踪。必死に探して駆けずり回った結果、それが死体となって発見されたのはつい最近のことだった。

こんな時にこんな話をするのも酷だとは思ったが、いとも簡単に命が散っていく、「デビルハンター」としての生きる厳しさを真っ向から思い知った今だからこそ、本当にその選択でいいのか考え直してほしかった。

塩谷には院瀬見の発した言葉が、彼女の並々ならぬ覚悟を示したものであることは分かっている。

分かっているが、聞き捨てならなかった。

去り際の院瀬見のその腕を、思いきりガシッと掴んだ。

『…んだよ』

掴まれた腕を振りほどこうと院瀬見が振り返った瞬間、先程までの控えめな表情をした塩谷ではなく、怒りに満ちた表情を浮かべた塩谷が目に入った。

そして塩谷が口を開く。

『…訂正しろ。「死のうが」なんて言い方をするな。自分の命だからと言ってなに軽く見てる?お前が仮に死んだとき、一体何人の人が悲しむと思ってる』

『…出たよ』

段々掴まれる力が強くなっていく腕を見つめ、院瀬見は鼻で笑い、ついに爆発した。

『何ッなんだよテメェはいつもいつも!!そうやってカッコつけてわざわざ引き留めて!正義のヒーローぶってんじゃねぇよ偽善者が!!』

塩谷に掴まれた腕を、空に叩きつける勢いで振り払う。

『悲しむ人間なんて誰もいねぇよ!!みんな死んじまったからな!!だからソイツらのために戦うんだっつってんのにゴチャゴチャゴチャゴチャと!!うるせぇんだよいちいち!!』

誰もいない、2人だけの廊下に大きく響くようなありったけの声で院瀬見は叫ぶ。取り返しのつかない罵声だけが、淀んだ空気の中に残された。

この出来事の続きは、今となってはもう覚えていない。

2.狭間

小さく、短く、そして浅く息を吸って、吐く。

その度に鼻から入り込んでくるのは、蔓延した毒の甘い腐臭と空気。

あの時と同じ、重い空気。

「デビルハンタァァ……デビッ、デッデッ、ァッアアア…」

毒の悪魔は院瀬見に攻撃を仕掛けながら、同じ言葉をボソボソと、何度も何度も繰り返す。

(…まともな会話をする程の知能はねぇんだろうな)

院瀬見は上着の内ポケットから再びメスを取り出して構えた。病の悪魔の毒は種類によって症状が異なるため、混同しないように使い分ける必要がある。

「とは言っても…」

相手は毒の悪魔。契約している病の悪魔と属性が似ているからか、付与する毒がことごとく効かない。

「だっせぇモン使わせやがって…」

悪魔がニヤリと笑った。

事が起こったのはその直後。院瀬見が軽い舌打ちをし、悪魔に狙いを定めてメスを投げようと振りかぶった時だった。

3.大量

同刻。小人退治に向かったイサナと狼は、その圧倒的な数の多さに苦戦を強いられていた。

パァン!!と、辺りに高く乾いた音を響かせ、イサナは次々と小人を泡で叩き潰していった。

「数匹まとめてもできるんだな」

「…あんまり多いと流石に無理があるけど」

顔についた紫色の返り血を袖口で拭い、再び小人を捕らえる。

「…この技、自分より弱い相手にしか使えないから、コイツらそんなには強くない。少なくとも狼さんよりは確実に弱い。でもそれでもカバーしきれないほど数が多い…」

「質より量、ってことか。これだけ倒しても尚減らないのなら、本体が死ぬまでは完全消滅しないタイプなんだろうな」

「じゃあ、院瀬見さんを援護した方が─」

イサナが通ってきた後ろを振り返ったが、狼が「いや」と止めた。

「そうするとコイツらが着いてくる。院瀬見に無駄な負担をかけないためにも、今は私らがこっちを押さえ続けるのが賢明だ」

「…そっか」

狼の言葉に納得したイサナは頷き、右手を振り上げる。

「ウツボ」

4.危機

がッ!!!

ほんの一瞬意識が飛んだ。強い衝撃を受けたおかげで意識は保ったものの、瓦礫の崩れる音と、高い金属音と、後方で辛うじて立っていた、半壊した教室の扉と共に床に叩きつけられた。見れば、吹き飛ばされてめり込んだ壁にぽっかりと穴が空いている。

(体術…)

毒でのみ攻撃してくるとばかり思っていた自分が甘かった。鞭のようなその手足がまさか本当に鞭だったとは。てっきり毒を流し込む触手のようなものだと思っていたのに、などと回らない頭で思考を巡らせる。

瓦礫の欠片がパラパラと落ちる音がした直後、院瀬見は飛び起きた。気絶しかけている場合ではない。一刻も早く倒して、イサナたちと合流しなければならない。

そうして残りのメスを取り出そうと内ポケットを覗く。

そこで、院瀬見は絶句した。

メスが無い。

「!?」

本来ならばあるはずのメスが、そこには無かった。

持っていたメス全てを使ってしまったかと考え、すぐさまそれを否定する。ポケットに入れていたメスのストックは大量にあったはずなのだ。

院瀬見はそこで思い出す。そう言えば、悪魔に吹っ飛ばされた時、瓦礫の音と共に高く薄い金属音が響いていた。

落としたか…!!

最悪の事態に陥った。余裕は一切ない。

落とした数本のメスをすぐに取りに行こうと起き上がろうとしたが、そこで自身の体に違和感─ビリビリと粟立つような感覚があることに気づいた。

院瀬見が両脚を見下ろして固まる。

そこには、靴下と破れかけたズボンで覆いきれずに露出した、鈍い紫色に変色した脚があった。

「─!!!」

わずか数秒にも満たず、院瀬見には一瞬で理解した。自身の知らぬ間に毒を打ち込まれ、そのせいで両足麻痺して動かないのだと。

「テメェ…ッ!!」

悪魔はふらふらとした足取りで院瀬見の元へ歩み寄る。己の感情と連動しているのであろう頭上のフラスコの液体が、ボコボコと音を立てて弾け出した。

ギュン!!と風を切り裂き、悪魔が眼前まで接近する。

死を覚悟した。

走馬灯の流れる暇もなく、院瀬見は目をつぶる。

だがその瞬間。

キィン!!!

幾度となく聞き続けたような鋭い音が響いたのと引き換えに、悪魔のベチャベチャとした不快な歩音が消えた。

院瀬見!!

あの頃散々聞いて鬱陶しく思っていた、あの聞き慣れた声が、院瀬見の背中に降りかかる。

お前はまだ死ぬべき人間じゃない!!お前が死んだら、俺が悲しむぞ!!!

声の主は、他でもない塩谷だった。

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