リアム「……。」
9番「…リアム看守。」
休憩がてら、医務室へ9番の様子を見に行けば、怪我の影響でずっと寝ていた9番が目を覚ましていた。
もう、あの脱獄事件から、約一週間経っていた。
リアム「……フッ…目が覚めた、か。9番。」
一週間の間誰とも話さず仕事をしていたせいか、声が少し枯れていた。
一瞬声を出す方法すら忘れてしまったように感じたほどだ。
しかし何故笑みがこぼれたのだろうか。
まぁどうでもいいか。
9番「リアム看守大丈夫ですか…?体調悪そうですけど…。」
リアム「…嗚呼そうだな、どっかの誰かのせいでな。…まぁお前は一週間寝ていたからか元気そうだな。」
皮肉をこめてそういえば、乾いた笑い声が聞こえてくる。
しかし9番はまだ療養は必要だが、この調子ならあと少しでバッカニア刑務所行きとなることだろう。
…ステイサム看守には後で甘やかさないように警告をしておくか。
9番「あのー…、俺が言うのもなんなんですけど…本当に大丈夫ですか…?」
そうベッドの上で上半身だけを持ち上げて問いかける9番に、お前の方こそやっと目覚めたばかりだろう、とため息をついた。
リアム「大丈夫だ。それにそれは此方のセリッフだ…?」フラッ…
そう言い返そうとした時にふらりとよろける。
ギリギリ自身の持つサーベルを杖のようにして体を支え、持ち堪える。
9番も、俺を支えようとしたのか、反射的になのか、ベットから俺の方へ降りたものの痛みでその場で崩れ落ちてベットの前でうめく。
囚人のくせに俺を支えようとするなど変なやつだとは思ったが、
何故かコイツだから、と言う意味のわからない理由で納得している自分がいた。
こいつらと知り合って、たったの30日…もいないが、ほんの少ししか経っていないのに、俺はコイツのことを、
否、
俺は「コイツら」の事をよく知っている。
…こいつらは今までの看守生活の中で1番変な奴らだったな。
普通の囚人は何度も違う部屋には居ないし、瞬間移動は出来ないし、あんなに楽しそうでは無いし…何より脱獄なんてしないからな。
9番「…ぅ…痛ぁ…忘れてた…。ってか倒れかけるとか、普通の人は大丈夫と言わないんじゃ…。」
リアム「口の聞き方には気をつけろ。いいか?看守の言うことは…」
9番「絶対ですね、勿論十分承知しています。」
慌てて俺に被せる形で答える9番に呆れつつも、
相手に近づき、一度お姫様抱っこのように持ち上げてベッドに戻す。
寝不足の時に無駄な体力を使わせるなと思うが、あくまで相手は囚人であれど怪我人でもあるのだ。
そう簡単に手出しはできない。
9番は俺が乗せてくれるとは思わなかったのか驚いていたが、すぐにありがとうございます、と言った。
全く…、そうなるなら出てこなければいいものを。
まぁ礼を言えたなら構わないか。
はぁ、俺はこんな事をしている時間はないのだ。俺は今日何度目かもわからないため息をついた。
リアム「はぁ…それでは俺は仕事に戻る。何かあったら呼ぶように。それではおやす…」
9番「あ、俺リアム看守と一緒にいたいです。」
当然のようにそう進言した9番に対し、部屋に帰ろうとしていた俺は相手を二度見してしまった。
9番「だって今日から何日も一人で、それも本も何もなくとか地獄じゃないですかー。」
俺が何故だ、と聞くのを予測したようにそう付け加えられた。
まぁ…、一理ある。
俺と違って暇そうだからな。
怪我さえしてなければ自由広場にでも放っておいたものを…。
リアム「わかった、本を何冊か持ってこよう。ミステリーでいいな?俺は仕事がある。それでは。」
9番「えっ、ちょ…。」
呼び止める声を無視して扉を閉める。
勿論鍵をかけるのも忘れない。
9番は心底驚いたような顔をしたが、逆に何故居てくれると思ったのだろうか。
馬鹿か?
…馬鹿だったな。
いや6番よりかはマシだったが。
兎も角だ。
俺は仕事をしなければ。
どうせ仮に同じ部屋にいてやっても、会話をする予定はない。
無駄だ。
俺はもっと。
もっと。
もっと。
頑張らなくては。
…ん?
…9番は前にも一緒にいてくれと呼び止めたことがなかっただろうか?
………猫のようなやつのくせに、一人が嫌なのだろうか。
いやそんな事なかったような…?いやでも記憶にはあるのだが…。
そう考えながらも、早く本を持っていってやろうと、図書室へ向かった。
自分は教材になる物以外はあまり読まなかったが、何冊か人気の本をみつくろった。
ステイサム看守なら、俺より本を読むからもう少しマシな物を選べたかもしれんが。
-ガチャ-
リアム「9番。何冊か本を持ってきた。今日はそれでいいだろう。また足りなくなったら定期的に見に来るため言うように。」
9番「え、ありがとうございます…。あの…そのー、看守、やっぱりここにいてくださいよ…。俺黙ってますから。」
少し焦っているようにも見える表情でそう言う。
リアム「…何を焦っている?看守が囚人に従う必要性はないが、囚人は看守に従わなければいけない筈だが?」
9番「いや、お願いですかr」
リアム「断る。」
そう振り払って先ほど同様医務室を出る。9番が呼び止める声を無視して。
しかし少しすればその声も聞こえなくなった。
やっと諦めて本でも読み始めたのだろうか。
それに今は俺はそもそも休憩がてら来ただけだ。
少ない休憩くらいもうすこし落ち着かせてくれ…。せめて一人にしてもらいたいものだ。
それにさっきから言っているように俺には仕事がある。
少しでも今回の失態を償わなければ。
囚人の言うことになど、耳を傾けるな。
そうだ。
あいつは脱獄した死刑囚の仲間だ、あんなやつ気にするな
信用するな。
誰も。
俺とあいつは単なる看守と囚人であり、
ステイサム看守も、自身の先輩、というだけだ。
信じるな。
信じていいのは、「社会的な正義」だけだ。
疑わしきは罰せよ。
何故か?
俺は、「フォーグナー刑務所看守長、リアム看守」だからだ。
文句があるなら誰だろうと許さない。
「正義」の範疇で勝ってみせる。
コメント
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もうほんとなんか闇抱えてるのか好きです
文章の書き方が好きです!これからも頑張ってください