テラーノベル
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朝。 目覚ましのアラームが、脳を無理やり現実に引き戻す。
「……はぁ。」
カーテンの隙間から差し込む、どこか無機質な陽射し。
コーヒーメーカーのボタンを押しながら、私はぼんやりと窓の外を眺める。
(寝ても疲れが取れないって、どういうことなんだろうな……)
いつからだろう。
休日すら、ただ呼吸しているだけで終わるようになったのは。
電車は今日も満員。
誰もがスマホと現実の狭間で、自分の感情を押し殺してる。
(……押すなよ、もう……)
舌打ちとため息が交差する空間の中、私は静かに目を閉じた。
職場につけば、終わらない仕事量と、上司の理不尽。
働けど、税金で持っていかれて、手元に残るのは“生かされてるだけ”の金額。
それでも働かなきゃ生きていけない。
何のために? 誰のために?
(……自分、何かやりたいことあったっけ?)
夜、コンビニで買った安い弁当とビールを片手に、遠くの月を見ながら、帰り道を歩く。
(夢とか、希望とか……そんなもん持ってたの、いつまでだったっけな)
自分で選んできたはずの人生。
でも、いま私が歩いてるこの道は、“選ばされた”だけなんじゃないか。
(逃げても意味ないってわかってる。でも……逃げたくなるんだよね、こんな世界)
都会のネオンが、やけに滲んで見える。
それが涙なのか、疲れ目なのか、自分でもわからなかった。
テレビを見ながら、何を考えるでも無く、弁当を食べていると携帯がなった。
母からだ。
「…はい」
「あ、あんた。…おじいちゃん、危篤なんだって。すぐに帰れる?」
「え!……そんな、急に……」
心臓がぎゅっと掴まれたように痛んだ。
小さな頃、夏になるたび遊びに行っていた祖父の家。
あの静かな山のふもと、香川県の小さな町。
次の朝、私は急遽会社に有給をとり、急いで空港へ向かった。
飛行機の窓から見える景色を見ながら、昔を思い出す。
「祖父ちゃん……まだ話したいこと、あったのにな」
祖父は、昔から厳しかった。
礼儀にうるさいくせに、口調はぶっきらぼうで。
けど、芯の通った、優しい人だった。
たとえ誰にどう言われようと、自分の信じたものを決して曲げない。
そんな姿勢が、小さいながらにカッコいいとずっと思ってた。
けど、当時思春期だった私は、祖父には怒られてばかりで、口うるさく思い、いつしか目も合わさず、距離を置いていた…。
(……ちゃんと向き合えるかな)
香川のあの家には、もう長いこと帰っていない。
仕事、生活、現実。何かと言い訳を並べて、足を遠ざけていた。
「だけど、行かないと。今、行かないときっと、後悔する」
祖父が、呼んでいる…そんな気がした。
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