「君は?」
緩んだ顔の神門、セミロングの髪がさらりと動いている。
「…ナツ」
「ってことナツちゃんは8月生まれなの??」
一ノ瀬四季、その名前を言ってしまえば何かが壊れてしまう気が一瞬だけどした。咄嗟に口から出たのは、祭りと浴衣を見た影響か安直な偽名だった。
「いや、2月」
「はは!ナツちゃんのご両親は独特な感性を持っているんだね」
「…かもな」
俺の名前を付けたのは他でもない、親父だ。だから偽名を使うなら季節の名前が良かった。そんな事を思いながら、神門は俺の一人称や話し方に疑問を持たないし、受け入れてくれてくれた事を内心で喜んだ。
しかも、普通に話すだけなのに。違和感を感じても出そうとはしないのだろう…
俺の周りの人達は本当優しいな…噛み締めるかのように最近出会ったばかりの2人に思いをはぜながら神門に笑った。
「ってか、タメで良い?タメぐらいだよな…?」
神門が歩み寄ろうとしてくれて、理解してくれるならば俺も。そんな思いで口に出せば神門はおやつを与えられた犬のように嬉しそうに笑った。
「うん!僕は19歳だよ」
「!マジか…年上だ」
「大きく括れば同じ未成年だ」
初対面だと言うのに、神門は優しい。それこそ何か裏があるんじゃないかと疑いたくなるほどに。
卑屈な生き方をしてきた影響でそんな事を思う自分には本当に嫌気しか出てこないけれども…
「…じゃあ、あれか?大学生とかか?」
「ううん」
神門はスッとベンチから立ち上がり黒いコートを開ける、出てきたのは数回だけ見た覚えが有る青い制服。
「お巡りさんやってる」
「デコスケ!?」
「マジかよ……に、がてだわお巡り」
ヤバくないか?神門に家なし少女ってバレたら…警察の御用待ったなしじゃねーか!
そう焦る内心と比例して辛酸を舐めたような面をしてしまった自分の顔をどうしようかと考えた結果、四季はそのまま一部を隠して正直に言った。
「まぁ得意な人も、なかなかいないよね」
苦笑のまま返答した神門を横目で確認して、先刻の思想は気付かれていない事に安堵する。
浮いていた背の重さをベンチの背もたれにかけて張っていた肩をゆっくりと下ろした。
「なんで神門は警察になろうと思ったんだ?」
「んー…悪人から市民を守りたい的なやつかな?」
星が映る空を見上げるように眺めながら疑問をつけたままに神門は言った。
「立派だな」
自然と笑みが溢れたナツに目線を動かして神門はありがとうと感謝をした。
「でもね、色々大変でね…」
「例えば…あの人どう思う?」
真っ直ぐ指さされた男性は、白いタンクトップとモヒカンに近い髪型と髪色。人相も良くは見えない。漸くすれば…
「あー…近寄りがたい、って感じだな」
「そう見えるよね?」
「でも実際は金魚すくいで、自分がすくった金魚をすくえなかった子供に笑顔であげていたんだ」
そうは見えない、でもあの男性が絶対そんなことをしないってわけでもない。
「良い奴だな」
「!そう!!そこなんだよ!」
落とした一言が相当嬉しかったのか神門はグイッと顔面偏差値の高い顔を寄せて笑ってくる。
「僕は悪かどうか自分の目で確かめて判断したいんだ」
「あくまで法に則ってね」
足を組んで堂々と宣言した神門は警察に向いていると素直に思った。それに対して俺は大義も何もないんだな、なんて卑下してしまう。
ならばせめて大義を持った人間には、自分よりも頑張って欲しいと願う。
「良いんじゃね?」
「まぁ、上司が真逆の考えを持っててね」
「ガンガンしょっぴく!って感じなんだ」
「芯は間違ってないから価値観の違いってやつ?」
眉を下げながら笑う神門、どっちの考えも間違っているわけではないけれども…
「でも神門は神門なんだし、そのままで良いと思う」
「上司に言われて曲げるなんてもったいねーじゃん?」
「だから俺は神門の考えに1票!」
なんて…と笑えば目を見開いて驚く神門と目があった。呆気に取られたというよりも、もっと強い衝撃的な感じ。
「ははっ…ありがとうナツ」
「俺はなんもしてないって」
「うん、でもありがとう」
むず痒い。そんなにちゃんと言われれば断りきれない。真っ直ぐすぎるのも考えものかと思いつつナツは笑った。
「良いってことよ」
「!あぁ、もう行かなきゃ怒られちゃう」
「ねぇ、ナツ」
「ん?」
「連絡交換しても良い?今度ゆっくり会いたいし」
スマホ片手に首を傾けて頼む神門はあざといとしか言いようが無かった。神門ってマジでちゃんとイケメンだよな…
「あー…良いけど、俺もここに住んでないしな」
「そうなんだ…どこ?」
んーーー…家は無い!とは言えないし…かと言って一ノ瀬商店の跡地のことを言っても意味ねぇし…
「…上の方??」
「はは、ほんと面白いね」
「あー…明日なら空いてるし、明日また会おうぜ?」
またゆっくり会う…どうせ行くところが決まってるわけでも無いし、明日もここに居れば良いか…
「夕方とかなら僕も行けるよ」
「ん、じゃあ決まりだな」
「どこ行こうか?」
神門の問いに考えながら四季は思う。あれ、これ一種のデートみたいなもんじゃね?と。
先週書ききれなかったくせに遅刻とは不甲斐ないですね。全く。
待ってくださっている方々に礼をしてもし尽くせないというのに…申し訳ないです。
次回は四季ちゃんと神門君の映画デート(主がそう呼んでいるだけ)です…頑張ってイチャイチャさせたい。
コメント
3件

続きが楽しみです‼︎