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月下に酔いて、汝を想うー前編
夜の学院は静まり返り、月明かりだけが中庭を照らしていた。
そんな時間に、零さんは一人、ベンチに腰掛けていた。
零「……おや。こんな夜更けに珍しいのう」
低く、艶を含んだ声。
振り向いたあなたを見て、零はふっと微笑む。
零「眠れぬのか? それとも、わしに会いに来たか」
◯◯「どっちも、です」
そう答えると、零はくつくつと喉を鳴らして笑った。
零「正直でよい。嫌いではないぞ」
隣をぽんぽんと叩かれ、あなたはそっと腰を下ろす。
彼の気配は静かなのに、やけに近くて、胸が落ち着かない。
零「人の子は儚いのう。夜更かし一つで、こうも顔に出る」
指先が、私の頬に触れる。
冷たいはずなのに、不思議と優しい。
◯◯「……零さん?」
零「案ずるでない。ただ、確かめておるだけじゃ」
赤い瞳が、まっすぐあなたを映す。
まるで夜そのものに見つめられているみたいだった。
零「おぬしは、わしを怖がらぬな」
◯◯「零さんは……怖くないです」
その言葉に、零は少しだけ目を見開き、そして静かに息を吐いた。
零「そうか。ならば、これは罰じゃな」
額に、そっと触れる温度。
キスでもなく、呪いでもない、曖昧な距離。
零「この夜を忘れるな。月が沈んでも、わしはここにおる」
囁きは甘く、逃げ道を塞ぐみたいで。
零「また眠れぬ夜が来たら……わしを呼べ」
零はそう言って立ち上がり、マントを翻す。
去り際、振り返って微笑んだ。
零「次は、もう少し近う来るがよい。……覚悟して、な」
月だけが、その言葉の余韻を知っていた。
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