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「こんばんは~」
「おぉ~透子いらっしゃい」
「美咲いつもの~」
今日は仕事終わりに美咲の店へ。
いつものお酒をいつのように注文。
「あれ、今日はダンナは?」
「あとで来るよ~。なので、この店で待ち合わせ~」
そう。一つだけ今までのいつもと違うのは、この店に通うのは私一人だけじゃなくなったということ。
「もう二人、結婚して一年だっけ?」
「そう、もう一年。なんかあっという間だよね~」
結婚の挨拶をしたあの後、樹と入籍。
結婚してからあっという間に一年が過ぎた。
「でも、相変わらずあんたたち二人、それぞれ忙しくしてる感じだよね~」
「そうなんだよね~。樹は自分の会社の支店も広がって大きくなってきたし、こっちの会社でも副社長でどんどん新プロジェクト立ち上げて、こっちでも変わらずいろいろやってるし」
樹は結婚を許してもらったあのタイミングですぐに副社長に就任。
樹が就任してからは、また今までのうちの会社ではやったことのない新分野にも挑戦したり、新プロジェクトを企画したりと、一年前より更に仕事に力を入れている。
一人でどちらも手をかけて、側で見ている私としては、いろいろ忙しく働きすぎてて心配になるくらいだけれど、樹はそれが案外自分でバランスが取れて楽しいらしく、どちらも精力的に頑張っている。
「そういう透子もでしょ?新しいブランドの部長だっけ?それ落ち着いたの?」
「あぁ、うん、ようやくね~」
そして私もこの一年の間に、うちの会社で新しく雑貨部門としてのブランドを立ち上げることになって、それの部長に抜擢された。
そのブランドの立ち上げ企画だったり、順調に軌道に乗るまでは、ずっとバタバタの日々。
だから仕事が前以上にお互い順調で忙しくなる日々にはなったから、樹と結婚したといっても、案外その実感はなかったりして。
「でも樹くんとうまくやってるんでしょ?」
「もちろん。樹とは変わらず順調。結婚してよかったって思ってるよ」
忙しいながら一緒に住んでいてもお互い会う時間は多くなかったりもするけど、でも今は仕事が順調だとお互い頑張る力にもなってる。
お互いの大変さも理解し合えるから励まし合えるし、それぞれ意見し合ったりと、また私たちだからこそ刺激にもなる関係を保ててもいる。
何より結婚したことで、忙しくても会いたい時に会うことは出来るし、一緒にいれる時間はうーんと一緒にその幸せを満喫出来る。
なので、それぞれ今まで一人で過ごす時間も多かったせいか、案外そういうメリハリきいた時間は私たちには必要だったみたいで、いいバランスが取れていたりする。
「まぁお互い忙しくしてても、こーやって時間出来たら二人でここにも顔出してくれるから、私たちは嬉しいけどさ」
美咲が言うように、結婚しても二人の原点でもあるこの美咲の店は、お互いそれぞれが単独で来ることもあるし、一緒に来ることもあって。
なので結婚しても生活スタイルや行動パターンは相変わらず同じ。
でもそれは二人にとって共通のスタイルやパターンだから、それが逆によかったのかも。
「ここに来ると樹の情報もしっかり修ちゃんに確認出来るからさ~。修ちゃん、樹に怪しいとこあったら、いつでもちゃんと報告してね」
樹にとって心許せる慕っている先輩の修ちゃんには、昔から何でも話しているから樹のすべてが筒抜けなんだと、結婚してから修ちゃんから教えてもらった。
修ちゃんの話によると、どうやら私に出会うまでのそれなりの樹の女関係は修ちゃんは知っているみたいで・・・。
ちなみに私のことを知った当時も修ちゃんに相談しまくってたらしくて、後々その話を聞いた時は照れくさくもあり、嬉しくもあった。
なので樹がいつもと違う様子だったら修ちゃんに探ってもらうように、こうやって頼んである。
「任せとけ~透子ちゃん。でも残念ながらさ~樹、結婚してからはつまんないヤツになっちゃって」
カウンターで話を聞いてた修ちゃんが頼もしく返事をする。
「どういうこと?修ちゃん」
「いや~もう結婚してから更にアイツ幸せモードで透子ちゃんのノロケ話しか話さねぇから、オレ的にはイジりがいなくてつまんないんだよね~(笑)」
「ちょっと修~。それ透子に言わないでくれる~?透子にはそれが一番幸せなんだから」
修ちゃんがそんな風に楽しんで話しているのを、美咲が素早く反応してくれる。
「だってオレ的には透子ちゃんとのこであたふたしてるアイツ見るのが一番楽しいんだよね(笑) 普段は完璧なモテ男なのに、透子ちゃんの前では余裕なくなる樹が面白くてさ(笑)」
実は樹がそんな感じだったなんて、改めて修ちゃんから聞いて初めて知った。
樹が学生時代から修ちゃんはバイトの先輩として可愛がってたみたいだから、いろんなそれまでの樹見て来たんだろうな~と思いつつ、とりあえず全部の女性遍歴はなんかメンタルやられそうで過去の話は聞かないことに決めた。
「透子ちゃんにさ、初めてこの店で声かけた時もさ、実は勇気がなくて樹のヤツ、ホントはずっと前から躊躇してたんだよね」
「えっ?樹が?めちゃ軽く余裕であの時声かけてきたよ?」
うん。こういう場所でこういう雰囲気だからこそ軽く声かけてきたんだろうなぁって最初は思ってた。
だから私も適当にその場のノリで話せたところもあったし。
「でもさ、実はあの時オレがけしかけたからアイツ透子ちゃんにようやく声かけられたんだよね」
「そうなんだ!?」
今更意外な事実。
まさか自分の意志でなく修ちゃんきっかけだったとは。
しかも樹がそんなに躊躇してた後に起こした行動とは思わなかった。
そっか。そうだよね。
すでに樹は私のことあの時から好きでいてくれてたってことは、そういうことか。
あの時何気ない会話をしただけで、あの瞬間から何か始まるだなんて思ってもいなかったし、始めようとも思ってなかったのに。
樹の中では、あの瞬間からももう何かが始まっていたってことか。
そう思ったら、樹との時間は、樹にとってきっとどれも記憶に残っているんだろうな。
私も同じような気持ちで、樹のことをあの瞬間からでも、もっと意識して好きになっていたとしたら、自分の記憶にもっとたくさんの樹や樹との想い出が残っていたのに。
途切れ途切れの記憶だけしかない自分に、仕方ないとはいえ少しガッカリする。
「修ちゃんは、きっと私の知らない樹もいっぱい知ってるんだろうね」
「まぁね~。オレも案外アイツとは長い付き合いだったけど、透子ちゃんのことに関しては、オレも初めて知ったアイツもいたりして驚いた」
「修ちゃんでもそんなことあるんだ?」
「アイツ案外あぁ見えて不器用なところあるくせに、基本それを他人に知られたくないって思うヤツだしさ。透子ちゃん好きになってからも他の連れには一切言ってなかったみたいだよ?オレしか相談出来ないってあの当時言ってたから。だから余計かな。全部オレにはその時の悩みとか吐き出してたからさ」
「修ちゃんだけだったんだ・・」
それほどやっぱり樹は修ちゃん慕って頼っていたんだな。
でもなんで修ちゃんだけにしか言わなかったんだろ・・・。
私のこと隠しておきたかったのかな・・。
まぁその当時は不特定多数にモテてた樹だったし、年上の私になんて・・ね。
あんまり他には知られたくなかった・・のかも。
「まぁオレは学生の時からずっとアイツ見て来ていろいろ相談乗って来たからさ。年上だし話しやすかったんだと思うよ」
修ちゃんが私の気持ちを察してくれたのか、サラッとそんな風にフォローしてくれる。
「でもさ。透子ちゃんも樹と結婚して一年経ったんだからさ、もう樹のこと知らないことなくなってきたんじゃない?」
「どうだろ。お互い仕事忙しいのもあるしさ、すれ違う時も案外多いんだよね。特に樹、最近忙しいみたいで、前までは仕事の相談とかもし合ってたんだけど、なんか今取り組んでるプロジェクトは私にも言えないとかでさ。その愚痴や悩みとかも聞いてあげられないんだよね」
このプロジェクト以外は、全部樹から相談してくれたり話してくれたりしてたのに。
なんかいざそういうことになってしまうと、案外会話することも減ったように思えて、少し寂しく感じる。
忙しいからこそ、お互いの仕事の話も共有しながら、会話の数も増えてたんだなぁって気付く。
決して仕事の話ばかりではないし、それ以外の時間も樹と味わいたいっていうのもあるけど、樹は副社長と社長どちらも両立させている分、妻として樹の抱えてる負担を少しでも軽くしてあげたいと思うし、気持ちも分かち合えたらと思ってしまう。
それが今は出来ないのが、ちょっともどかしく感じる。
同じ仕事を出来ているワケじゃないから、それを私も協力して引き受けることとか出来たりしない分、樹の気持ちだけでも軽くしてあげられる存在でいたい。
私の知ることの出来ない仕事や気持ちなんて当然あるはずなのもわかってる。
だから、その内容は言えない分、樹が無理しすぎないように、今はただ見守ってあげるしかないのかもしれないけど。
「透子ちゃん、そんな仕事のことでも樹のこと理解してあげたいって思うんだね」
「うん。仕事とかプライベートとか関係なしにさ、私は樹のこと支えてあげられて理解してあげられる存在でいたいなって思うから。そういう権利、結婚したからあると思いたいんだよね」
決して押しつけがましくはなりたくないけど、ふとそこにいて安心出来る場所を私は作ってあげたい。
結婚してよかったって、私がいてよかったって、樹には思ってもらいたい。
きっと、今は結婚したからこそ、樹にしてあげられることがあるはずだから。