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「透子ちゃん。そう言ってたらお目当ての人がようやく来たよ」
修ちゃんに言われて、その方向を見ると、ようやく樹の姿。
「ごめん。透子。お待たせ」
そう言って樹が謝りながらカウンターの席へと来て、私の隣に座る。
「お疲れさま」
「透子、かなり前から来てたの?」
「うーうん。私もさっき来たとこ」
「そっか。修さん、ビールちょうだい」
「はいよー」
そして樹は早速目の前にいた修ちゃんに注文。
「樹、もっと遅いかと思ってた」
「そのつもりだったんだけどね。透子がオレ恋しくて待ちわびてるだろなぁ~と思って急いで片付けた」
「そうでもないよ?修ちゃん相手してくれてたから」
一年経っても相変わらずいつも余裕な樹。
それもちょっと悔しくて今日は少し反撃。
「えっ?修さん?」
「はい。ビール。心配すんな樹。お前のあれやこれやを透子ちゃんにお前の代わりにいろいろ教えてやってただけだから」
そしてタイミング良くビールを持ってきながら、話に入ってくれる修ちゃん。
「何聞いたの?透子」
でも空気を察してか、修ちゃんのその意味ありげな言い方に反応して、私に確認してくる樹。
「秘密~」
なんかちょっと意地悪したくなって、ついそんな言葉で誤魔化した。
すると修ちゃんもそれを見てて。
「秘密~」
同じようにマネして、乗っかってくれる。
「ちょっ!マジ、何聞いたの!?」
だけど、そんな風に素直に焦った反応をする樹が可愛くてつい笑ってしまう。
「フフッ。樹に初めてこの店で声かけられた時の話聞いてただけ~」
「えっ、それってオレ隠しておきたいヤツじゃないの?修さん」
「ん?あぁ~そうだな~お前的にはな~。でももう結婚して何の問題もないんだし、奥さんがまだ知らないお前のこといろいろ伝えておこうと思って(笑)」
「何?知られちゃマズいことまだあるワケ?」
「そんなのもうないけど。ってか別に隠してることとかないし」
私がそう聞いたところで、樹は強気で返答。
「へ~。でもそう言いながら私のこと周りには隠してたんでしょ?」
ついさっき修ちゃんに聞いた話を思い出して、突っかかってしまう。
「ん?なんの話?」
当然樹はなんのことかわかっていない様子の反応。
もう結婚して何の問題もないくせに、もう一年も経ってるのに、なぜかまだ心の余裕を持てなくて。
別にそんな前の話気にしなければいいだけなのに。
今は結婚して幸せだからそれでいいはずなのに。
だけど、それで好きな気持ちが減ってるワケでもないからなのか、やっぱりそういうことはまだ気にかかる自分がいた。
「あの結婚披露パーティーの時、あんまり周りに紹介してくれなかったのはそういうこと・・?」
入籍してから少し経った頃。
結婚式の代わりに、修ちゃんのこの店でお互いの仲いい人だけを集めて結婚披露パーティーをした。
結婚式をしようかと一度は思ったのだけれど。
だけどお互いその辺りから仕事も忙しくなってきて、なかなか時間も取れなくて。
そして、樹の両親は、うちの会社の社長とREIジュエリーの社長。
関係性も今は離婚しているっていうのもあるし、いざ呼ぶにしてもあまりにも二人がすごい位置の人すぎて、その時に呼ぶ人だったりいろいろ考えるとちょっと悩むところもあって。
私も実際結婚式が絶対したいって憧れる年齢はもうとっくに過ぎてこだわりもなくなったし、今更盛大にするのもさすがに恥ずかしい。
だけど、せっかくならってことで、パーティーだけはしようって話に。
私的にも、いつもより少し着飾れて十分その気持ちは味わえて幸せだった。
そしてその時に、初めて会う樹の友人の人たちとも会ったのだけれど。
樹と一緒に皆に挨拶はして回ったものの、樹はなぜか簡単な挨拶だけしかさせてくれなくて、すぐ他の友人がいる場所や違う場所へとすぐ移動させた。
それが少し気にかかった。
しっかり挨拶させてもらえなかったその理由を、聞きたいけど聞けなかった。
自分に自信が無くて聞く勇気がなかった。
でもその時はそれでも幸せだったし、特に気に留めなかった。
だけど、さっき修ちゃんと話してて。
なんとなくまたその時のことを思い出した。
あれからもう一年。
今ならちゃんと聞ける気がする。
「透子。なんか勘違いしてる?」
「えっ・・?」
だけどその言葉を言っただけなのに、樹はなぜかそんなことを言い出す。
「オレの周りの連中に紹介するのはオレがあれ以上限界だった」
やっぱり・・、樹の中では仕方なく、だったのかな。
結構、夢だったりしたのにな。
好きな人の友達に紹介されるのとかってさ。
ありきたりな憧れだったりするけど、それって大切にされてるんだなぁって思えたりするだろうし。
「そういうことだよね・・。そっか~やっぱりこんな年上の相手とかって紹介しづらいよね~。よかった。結婚式なんてしてたら、それこそ樹困っちゃってたよね!」
意外に、こういうことでもショックを受けてる自分がいるらしい。
あまりにも自分が年上だと、きっとこういうことがこれから何度も起きてくんだろうな。
年齢重ねていく毎に女性である自分は、きっと少しずつ自信も失っていって。
こんなにも年齢が離れてるからこそ、そうはなりたくなくて、美意識上げて努力して、自分磨きも結婚してからも怠らずしていたつもりだったけど。
だけど結局は樹の気持ちがいつまで続いてくれるかとか、ずっと気にしちゃうんだろな。
「透子。ちょっと待って。年上とか・・・何?ただオレはあの時の透子があまりにも綺麗だったから、他のヤツらに必要以上にそんな透子見せたくなかっただけ」
・・・え?
なんか思ってたことと違う・・・。
なんかまったく予想してなかった言葉が樹から返って来た。
「あんなのオレの周りの連中に見せたら透子に興味持っちゃうし、そんなヤツらに透子狙われるのとかマジ勘弁」
「それ・・が・・理由?」
まさかと思いつつ一応確認。
「それ以外何がある?」
すると樹は逆に不思議そうに言葉を返してくる。
「いや・・私はてっきり、私紹介するのに抵抗あるんだろうなと思って・・・」
「え?なんで?」
「こんな年上だし、樹に釣り合う相手じゃないよな・・って」
「は??透子・・そんな風に思ってたの?」
あぁ・・またガッカリされる・・。
せっかく結婚しても結局変わらない自分のまんま。
「あの時はそれで全然嬉しかったんだよ。それでも全員に樹、私のこと紹介してくれたし。実際そんな風な心配に思う暇もなかったくらい幸せな時間だったし」
ガッカリされるのは嫌で、すぐにその時の幸せを樹に伝える。
って、でもこれ言い訳みたいに聞こえるよね・・。
「なのに・・?なんで・・?」
そして、そんな私を見て冷静に尋ねる樹。
そりゃ樹もそんな反応しちゃうか・・。
「さっき、修ちゃんと話してた時にさ、なんかふと思い出しちゃって」
「どういう話からそういうことになったワケ?」
「樹が私のこと好きになってから修ちゃん以外相談しなかったって・・・。実際それって私が年上だしそんな相手とかだと、今までの樹のイメージに合わないし、それで知っている人には言いづらかったんだろうなぁって」
「なるほどね。そういうことか。それで透子は心配で今更不安に感じちゃったと」
「はい・・」
なんでだろう。
なんか怒られてるような気分になる。
「あのね、透子。よく聞いて」
すると、樹が改まって私を見つめて冷静に伝える。
「はい・・」
そして、私はやっぱり怒られてるような気分のまま素直に返事。
「オレがその時も修さん以外誰にも言わなかったのは同じ理由。単に自分以外の男に透子の存在を知ってほしくなかっただけ。そうじゃなくても透子は自覚ないけど、会社ではすでに透子に憧れてるヤツもいるし。それに加えオレの連れなんかに紹介したら、そいつらも気に入って、逆にそこで透子にアプローチして、透子がそっちに行かれたら困ると思った。だからあんな時でさえオレは透子を独り占めしたくなった。それがホントの理由」
勝手に不安がってるだけなのに、そんな私に樹はちゃんと真剣に応えてくれる樹。
その理由を聞いて、一瞬で吹き飛ぶ不安。
だけど、よく聞いたら、樹が考えすぎなんだよね。
そんなに私を気に入る人がいるとも思えないし、私が樹以外の人を好きになるとかも絶対ありえない。
そんなありえないことを樹が思ってたから、私が不安になったってこと・・・?