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テラーノベル(Teller Novel)
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「今度はあの店にいってみよーう!」


雲のリージョン、ハウドラントの昼下がり。

ウキウキしながら先頭を歩くネフテリアに従い、一行はショッピングを楽しんでいた。

雲の上に並ぶのは、石や布で装飾された白い建物。ピアーニャの屋敷と違い、街中にはファナリアやラスィーテと同じサイズの一軒家が建っている。

ミューゼがキョロキョロと周囲を見渡し、ピアーニャと話している。


「ほとんどの家は壁とか真っ白なのね」

「ああ、ざいりょうはクモだからな。ふくのようにソメようとするのもいるが、うまくいかないのと、ザイリョウにカネがかかる」

「ふ~ん。だから布で飾ってるのね」


そしてその前をゆっくりと歩いているのは、パフィとアリエッタ。昨日はゆっくり見れなかった雲の光景を、不思議そうに見ている。


「相変わらず全部に興味深々なのよ。可愛いのよ」

(これ全部雲かぁ……すっごいなぁ)


エルツァーレマイアから水と雲で出来ている世界だと聞いて、今いる場所が雲の上だと認識してからは、すっかりこの世界そのものに魅入っている。屋敷程の美しさは無いものの、アリエッタにとっては雲の世界というのは、魔法と同じく空想上のものでしかなかったからだ。


《さっき食べたの、モコモコしてて美味しかったねぇ。あーゆーお野菜でも開発してみようかしら》

(僕が食べたのに、ママにも味が分かるんだ……)


アリエッタの心の中で喋っているのは、母である女神エルツァーレマイア。肉体は共有状態となっているので、アリエッタの感じた事は全て伝わっている。しかし……


《アリエッタったら楽しそう。ぱひーとも手繋いでもらってるものねー》

(ママってすっごい喋るね……前は静かにしてただけなのか?)

《本当はぴあーにゃちゃんと手を繋ぎたいのかな? でもみゅーぜが一緒にいるものね。てりあとも手を繋げばいいのに》

(独り言多すぎっ!)


アリエッタにはエルツァーレマイアの声は聞こえるが、エルツァーレマイアにはアリエッタの心の声は届かない。都合よく心の中で会話するなんて事は出来ないのだった。

また精神世界ゆめのなかで話する時に注意しておこうと心に誓い、ネフテリアが見つけた店に入り、雲で出来た置物などを見ていった。


《きゃー! これ可愛い!》

(なんでママの方が騒いでるんだか……)

「ん? これ欲しいのよ? 買ってあげるのよ」


心の中で別神べつじんが騒いでいたら、謎の丸い生き物の置物の購入が決定したのだった。


「ぱひー、ありあと……」(ごめんなさい……でもたしかにこれ、可愛いかも……)

「ふふっ」(控え目な笑顔がまた可愛いのよ~)




街並みから少し外れ、小高い雲の丘にやってきた一行。買ってきたおやつを頬張りながら、のんびりと過ごしていた。


「アリエッタちゃんは良い感じに楽しんでる?」

(ん? 何?)

「いろんな方向を眺めてるのよ。大人しいけど十分満喫しているみたいなのよ」


ずっとアリエッタの様子を見ていたパフィは、アリエッタを撫でながら答えた。


「ん…♪」(きもちいぃ……)

「なんだか嬉しそう」

「なにかてがかりでもつかめればラッキーだったが、まぁなにもなかったな」


今回の小旅行は、アリエッタがこの景色に見覚えがあるかどうかを調査する為でもあった。それに関しては失敗に終わっているが、来た事自体は決して無駄ではない。


「時間かけてでも絵にしたくなるくらい、お気に入りの景色もあったみたいだし、まぁよかったかな」

「やしきのエなんだが……あそこまでキレイにかかれると、わちもほしいな。アリエッタにおねだりできればなぁ……」

「私も欲しい! どうやったら貰えるのかな?」

「う~ん、『ちょうだい』とか通じればいいんですけどね」


次の目標が、アリエッタに欲しいものを伝えて『はい』と言わせる事になった。

そのアリエッタは長話の内容が分からず、仕方なく浮かんでいる雲を見つめている。


(あれにも乗れるのかな? キントウンーとか言ったらこっち来そうな見た目だなぁ)


そんな他愛無い事を考えていたら、瞼が重くなり、体が傾いた。


「おっと…退屈だったのよ? 少し横になるのよ」


歩き回って色々食べていた事もあり、パフィの膝に頭を乗せられ、1回撫でられただけで、あっさりと眠りについたのだった。


「相変わらず、キスしたくなるくらい可愛いわね……」

「ですよねー。一緒に寝る時はいつも寝た後にコッソリしてますもん」

「あ、ずるーい。よーし今夜やっちゃおう」

「……アリエッタもタイヘンだな」(これがシンカして、あのメイドたちみたいに、ペロペロとかいいだすんだろうな)


この後もアリエッタの事で盛り上がる4人。時々会話をどうやって教えるかなどの真剣な話もしつつ、穏やかな時間を過ごしていた。

眠ったアリエッタはというと、さっそく精神世界ゆめのなかでエルツァーレマイアに軽く説教していた。まさか心の中で騒いでいたのが全部聞こえていたとは思っていなかったエルツァーレマイアは、恥ずかしそうに落ち込んでいた。




アリエッタの目が覚めてからやってきたのは、住宅地から少し離れた所にある公園。

他リージョンから輸入してきた遊具がいくつも置いてあり、子供が数人楽しそうに遊んでいる。


(これ公園かな? 滑り台と……あれなんだろ? 木のトンネル? あれは雲のアスレチックかな? 楽しそうだなぁ)

「……ねぇ、ピアーニャちゃん」

「ちゃんっていうな!」


興味深そうに遊具を見るアリエッタを見たミューゼが、思い切った提案をする事にした。その結果……


「アリエッタちゃんこっちこっちー!」

「うわ゛ー! いまイッシュンういたぞ!」

「ぎゃははは! ピアーニャちっこいからな!」

「わー」(この雲ぽよぽよして楽しい! 落ちても下が雲だから痛くないし!)


ピアーニャは滑り台で男の子に遊ばれ、アリエッタは女の子と一緒に小さな雲に飛び乗って遊んでいた。一応ミューゼが近くにいて、怪我などしないか観ている。

ミューゼが元々遊んでいた子供達に話しかけ、アリエッタとピアーニャを差し出すと、喜んで遊び相手になってくれたのだ。

紹介した時は、アリエッタを見た男の子が2人程、顔を真っ赤にしてボーっとしていたのだが、それに気づいた女の子とネフテリアが密かにニヤニヤしていた。アリエッタは緊張して少し俯いていた為、気づく事は無かったが。

言葉が分からない事でバカにする男の子もいたが、気の利く女の子が睨みをきかせつつ、アリエッタに公園の遊び方を楽しそうに教えている。

最初は慣れない子供同士の遊びに緊張しながら女の子についていったアリエッタも、次第にその無邪気さに馴染んでいった。


「アリエッタ!」

「?」


ミューゼの前で女の子と遊んでいる最中に、突然男の子から名前を呼ばれた。振り向くと、もの凄い形相の男の子が立っている。鼻息が荒く、少し顔が赤い。


(なんだろ?)

「お、オマエ……その……オレのお嫁さんになれっ!」

『えっ』

「?」


アリエッタ以外の全員が、一瞬硬直した。


「きゃー♪ アリエッタちゃんがお嫁さんだって!」

「ちょっとまてヘイゼル! アリエッタをお嫁さんにするのは僕だ!」

「おまえら待てよ! 俺もいるぞ!」

「すごーい! アリエッタちゃんが物語のお姫様みたいにいっぱい告白されてるー!」

「アリエッタが『お嫁さん』を知らない事を思うと、なんだか不憫ねぇ……」

(???)


男の子達がアリエッタを取り合い、女の子がそのシチュエーションを見てキャーキャー騒いでいる。そして保護者達は困り顔。もちろんアリエッタ自身は名前以外何を言われているのか分からない。元気な男の子、花を持ってきた男の子、優しい顔の男の子に言い寄られるも、首を傾げてしまう。が、その仕草にも純粋な男の子達はときめいて、必死にアリエッタと仲良くなろうと策を練る。

そんな空回りが約束された少年達の甘酸っぱいひと時は……何の前触れも無く、突然崩壊した。


ゥオ゛ンッ


耳障りな音と共に突然出現した紫色を中心としたマーブル模様の何かが、子供数人ごと公園の一部をドーム状に飲み込んでしまう。


「へっ?」


男の子達がいたはずの場所に現れたマーブル模様の壁は、まるで生きているかのように、ゆっくりとうねり始める。

突然の事で状況が全く飲み込めないアリエッタとミューゼに向かって、ネフテリアが駆け出した。


「ミューゼさん! それから離れて!」

「!! アリエッタおいで! あなたたちも!」

「キャー!!」


残った子供達も悲鳴をあげながらその場を離れる。その援護にと、ネフテリアが魔法を連発するが、壁に飲み込まれるだけで何の効果も無かった。


「くっ…話には聞いてたけど、やっぱりあれって……」

「ああ、『ドルネフィラー』だ」


ネフテリアが魔法を撃ちながらピアーニャの隣に駆け寄り、その正体を確認した。

誰もがのんびりと過ごしていたハウドラントの街並みは、『ドルネフィラー』の出現によって騒然となっていた。

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